【インタビュー】ミューゼオ株式会社/成松淳氏 - 10名弱のクックパッドで定めた戦い方。自社を成長させるために意識していたこと(2/2ページ) - Widge Media

【インタビュー】ミューゼオ株式会社/成松淳氏 - 10名弱のクックパッドで定めた戦い方。自社を成長させるために意識していたこと(2/2ページ)

記事紹介

監査法人トーマツから東京証券取引所への出向後、黎明期のクックパッド株式会社に参画。CFOとして管理体制を構築し、東証マザーズへの新規上場、東証一部への市場変更を主導し、同社退任後は、各種ベンチャー支援に取り組みつつ、自らもネットサービスのスタートアップを運営するなど、独自のCFOキャリアを切り拓いている成松淳氏のストーリーを伺った。

※インタビュアー/株式会社Widge 代表取締役 柳橋貴之

実際、企業選びはそこまで簡単なことではないと思いますが、直感で決めたというのもすごい話ですよね。

まぁ、全ては縁だと思っているんですよ。 縁と運。これ以外に人生を構成するものは無いのでは?というくらい思っているので、逆にそれをとても重視していますね。 佐野さんは非常に面白い人だと感じましたし、その後に会った佐野さん以外のメンバーも面白い人達ばかりでしたし。

参画された当時のミッションは何だったのですか?

「クックパッドの社会的信頼を上げる」ということですね。いろいろな事件があってちょうどベンチャーの信頼が完全に失墜していた時期なので。 当時食品メーカー向けの法人事業がメインだったので、まずは社会的信頼を上げて、形を創っていこうと。 上場準備もミッションの一つでもあったのですが、佐野さんも上場ありきではなく、長期視点で考えていたんですよ。まずは、ちゃんと信頼される会社を創っていこうということですね。

社会的信頼の向上ですか。 業務上、最初に意識されていたことなどありますか?

クックパッドの中で、「やりたい」「得意」「稼げる」っていう、3つの輪と呼んでいるものがあるんですね。いわゆるその交点で戦おうっていう意味で。でも自分自身の立ち位置から考えると、その交点で物事を進めるというよりは、3つのバラバラにあるものを近づけていく作業だと思ったんですよ。そこは意識して実行していきましたね。 ちょうどそれが重なった時、やっぱりクックパッドも突然高い利益と収益性と価値が付いたという実感があります。

素晴らしいですね。 ちなみに入社当初の肩書きは?

2006年8月から(トーマツにいながら)手伝いをして、2007年1月に正式にジョインしたんですが、まずは管理部長ですね。2007年6月に取締役管理部長になり、7月に委員会設置会社(現在の指名委員会等設置会社)に移行したので執行役管理部長になりました。

当時の役員構成は?

社外の方に役員になって頂いていましたが、社内役員は佐野さんのみでした。

株主は?

佐野さん以外は穐田さんのみでしたね。穐田さんは当時役員にはなっていなかったんです。

 

もちろん管理部は誰もいなかったんですよね。

そうですね。頼りになる後輩を連れてきて、最初の形をつくって、そこから一人一人増やしていって…という感じですね。 たとえば投資検討に来ていたキャピタリストにも参画してもらったりとか。

とても優秀な方々ですよね。

そうですね。個性的でしたよね(笑)。クックパッド社内では、自分より仕事のできる人を採用しようという考えがあって、それを実践していったら優秀な部門になっていましたね。

IPO準備に関してですが、実際に企業内で実務を行うことは初めてだったわけで、苦労したことも多かったと思うのですが。

本当にたくさんありましたね。ここでは言えないような苦労を散々しました(笑)。

しかも、あの時期でしたし。

そうですよね。まさに新興市場ショックの後だったので、とにかく新興市場への目が厳しくて…。結果的にあの年のIPOは19社ですからね。そのうちマザーズは4社しか上がらなかったですから、その過酷さというか…。 でもその分、とても良い学びと経験になりましたよ。いろいろな苦労があって、いろいろなドラマがあって(笑)。

マザーズから東証一部へはどうでした? 2009年7月にマザーズ、2011年12月に一部なので、2年半くらいですよね。

最短ではないですよね。社内でいろいろと協議していたこともあって。 ただ実務自体はそこまで大きな問題もなく、粛々と進められましたね。

上場後、成松さんの立ち位置は変わられたのですか?

管理部門を自分も含め特定の個人に依存しない部門にしていくっていうテーマはありましたね。

やはり上場するまではやり切らなければならないので、自らがある程度の範囲を受け持つようにしていたんですが、そもそも限界はありますからね(笑)。

組織づくりという経験も初めてだったので、いろいろと失敗もしましたし…。苦労も多かった分、メンバーにもとても助けてもらっていましたね。 

良い関係性ですね。

当時のメンバーとは、今でも定期的に集まっているんですよ。毎年、上場承認日に勝手に集まっていて、今年は主幹事の方にも来て頂いて(笑)。そういう意味では、本当に良い絆なんですよね。戦友というような感じです。

組織という点において、意識をしていたことはありますか?

2点あって、1つ目はコミュニケーション。2つ目は「まぁいいか」と言わない。ということですかね。 要は、コミュニケーションを(初動から)しっかりと取るということと、様々な面で絶対に妥協をしないということですね。特に管理部門のヘッドが「まぁいいか」って言ったら全てが崩れてしまうと思うので。 「まぁいいか」には「本当は違うけど…」という感覚が混じっているんですよね。経営者として妥協せずに執行できるか?という。 会社が良い方向に行くのも、悪い方向に行くのも、全て組織に起因していますからね。組織には非常に重きを置いていたと思います。

結果的にクックパッドさんには何年いらしたのですか?

2006年8月から2012年3月ですかね。売上1億円くらいが、辞める時には40億くらいにはなっていましたね。 いろいろありましたけど、本当に素晴らしい経験を積めたと思っています。

クックパッドさんを退任されてからの方向性は、いくつか選択肢があったのでは?

クックパッドにいる時に、一度は自分でやってみたいと思ったんですよ。一回は勝負してみたいと。なので自分でやる以外の選択肢はなかったです。せっかく佐野さんと一緒に仕事をして、さらに社外で穐田さんという素晴らしい方からも様々なアドバイスを頂いて。その状態で何にもやらないって本当にもったいないじゃないですか。 もちろん引き続きクックパッドを大きくしていくことにコミットするっていう選択肢もあったんですけど、大きな城を一緒に支えるか、自分で小さな城を創ってみるかっていう選択で、そこは好奇心を第一に一旦創ってみようと。年齢的にも創ってみるのはここでしかできないなって思ったんですよ。

独立後、すぐに今のサービスを思いつかれたのですか?

いえ、最初は全く決まっていなくて、まずは監査法人を設立して、同時に、アパレルのオーナーとしてスタートを切りました。 もともとファッションでクックパッドのようなサービスができたらな…という思いがあったんですけど、今いるプレーヤーに勝てるような良いモデルが思いつかなかったんですよ。でも何もやらないというのも良くないので、まずは商売をやってみようと。 路面店は難しいと思っていたのですが、たまたまご縁があったので、諸々ノウハウを学べるかなという思いでスタートさせました。

リアルの商売で見えたことがあったということですか。

まず言えることは、本当にその大変さが分かったということですかね(笑)。当然ですよね、これまで商売もさることながら独立もしていなかったので。で、その大変さの中で、浮かんできたものもあったんですよ。 まず、モノに関するマーケットって、売る人と買い取る人はたくさんいますよね。そういうサービスも非常に多くある。でも、肝心の「楽しむ」というところにフォーカスを当てると、いろいろと見えてきて。 楽しむことで、モノの寿命も長くるだろうし、たとえば嗜好品であれば、(大規模メーカーが広告費を投下したために)割高になっているものを買う必要もないしな…と。小さなモノづくりメーカーでも、逆にいろいろなことができるようになるかもしれないな…なんていうことも考えました。

「集める」とか「楽しむ」とか、自分の趣味ともリンクして、これならやってみよう!と思って、次の日にはクックパッドのエンジニアと、知り合いの起業家に会いに行っていましたよ。コンセプトを話したら「いいんじゃないか」って言ってもらえたので、そこからエンジニア集めに入って、すぐに手伝ってくれるエンジニアも見つかり、その間は僕もプログラミングを習ったりして。

自ら学校にも通われたのですね。

僕自身は本当に簡単なことしかできないんですけどね。

現在の組織は?

エンジニアチームがインターンも含め3人で、編集チームは2人。ライターさんや外部の編集者さんなどは10人ほどですね。 今はマーケティングを手伝っていただける方を探してまして…。

今後が楽しみですね。

粛々と、一歩ずつ前進ですよ(笑)。

成松さんの仕事に対する取り組みとか、こだわりを挙げるとすると、何になりますか?

「良いチームをつくる」じゃないですかね。むしろ、それしか意識していないかもしれないです。 航海すればするほど修練度の上がっていく船乗りのように、良い意味で新陳代謝をしながら、チームをつくっていくということですね。その時々にいろいろなことが起きますからね。

先ほどの組織の話に通じますね。

そうですね。例えば違和感があった時にはすぐに止めるとか、そこで止めていいの?もっと磨かないと…という時には、思いっきり背中を押すとか。先ほどの通り「まぁいいか」と言わないということは本当に大切ですよね。 あと、個人的には、物事は全てバランスだと思っていて、長期と短期、分散と集中、マーケットインとプロダクトアウト…と、対局する二つの概念の組み合わせの場合が多いので、今このタイミングは、どこに置けばいいんだろう…ということを常に考えるということも大切な気がします。

なるほど。とても参考になります。 最後に、今後の個人的なビジョンなど、簡単に聞かせて頂けたらと思うのですが。

個人的にイギリスが好きで、移住までいかずとも、年の3分の1くらいはイギリスあるいはアイルランドで暮らせたらなと思っているんです。 イギリスはカルチャーが集積されていて、全てが残るとは思わないですけど、残ってほしいものは結構ありますよね。 イギリス人って、変えるものは変えるんですけど変えないものは変えない、とてもはっきりしていて、その峻別にも興味がありますし、そもそも短期の成長よりも、その成長を継続させるということの方が圧倒的に難しくて、イギリスはその最たる例とも思うんですよ。

今手掛けているサービスのテーマともリンクしますね。

そうなんです。日本とイギリスでカルチャーを集めて、それを世界の人達が見る…みたいな。それがロングライフのモノの楽しみ方だとしたら、人間にとっても悪くはないことかなと思って。できるかどうかは別として、目指すべき方向性ですね。

ミューゼオ株式会社 代表取締役CEO 成松淳氏監査法人トーマツを経て株式会社東京証券取引所に民間企業からの出向者第1号として出向。2007年、当時10名程度であったクックパッド株式会社に参画。CFOとして一から管理体制を構築し、東証マザーズへの新規上場、東証一部への市場変更を主導。 同社退任後は、自らウェブサービス関連のスタートアップを設立して事業に取り組むほか、各種ベンチャー支援にも取り組む。