【インタビュー】株式会社ユーザベース/松井しのぶ氏・嶋田敬子氏 - ステークホルダーの役に立ことを第一に考えて、そこから働き方を考える。(2/2ページ) - Widge Media

【インタビュー】株式会社ユーザベース/松井しのぶ氏・嶋田敬子氏 - ステークホルダーの役に立ことを第一に考えて、そこから働き方を考える。(2/2ページ)

記事紹介

松井 しのぶ氏
公認会計士。大手監査法人で会計監査業務に従事後、大手税理士法人で国際税務のコンサルティングマネージャーに従事。その後、家庭の都合によりトルコで4年半を過ごし、帰国後にユーザベースに入社。2020年1月よりCPO/CAO (Chief People & Administrative Officer)。2児の母。

嶋田 敬子氏
公認会計士。大手監査法人で会計監査業務に従事後、事業会社およびコンサルティング会社勤務を経て、2015年より常勤監査役としてユーザベースに入社。2019年3月より内部監査責任者。2児の母。

嶋田さん、まず公認会計士を目指された理由から教えてください。

嶋田:私は京都の大学に通っていたのですが、3年生のときに休学して、東京でインターンシップをしていました。そこで一緒だった人たちのレベルがとても高くて、私も手に職をつけなければ、と危機感を感じた結果、父が会計士で身近だったこともあり、会計士を目指しました。

松井:私よりよっぽどまともな理由だよね(笑)。

嶋田:(笑)。勉強を始めたのは4年生からで、卒業した翌年に合格しました。監査法人トーマツの大阪法人に4年程在籍しましたが、過去の数字を社外から見る立場の物足りなさを感じて、事業会社に移りました。

その後、結婚して夫について渡米したのですが、出産のために単身で帰国しました。一年ほどは実家で子育てに専念し、その後、コンサルティング会社を経て、ユーザベースの監査役に就任しました。

ユーザベースさんの監査役に就任されたきっかけは何ですか?

嶋田:当時上場準備をしていて、良さそうな会社だよと友達からも教えてもらいました。経営陣や松井、村上(前CFO)と会って、気持ちの良い人が働いている会社だなと思ったことがきっかけです。

その後、監査役から従業員になられたんですよね。そのパターンは珍しい気がします。

松井:私が第1号、嶋田が第2号で同じ道をたどっているんですけど。

嶋田:たしかにそうですね。ただ、今は監査等委員会設置会社に変更しているので、第3号はいないかもしれませんね。

現在は内部監査のお仕事でしたね。意識していることはありますか?

嶋田:一つが(内部監査)チームをつくるときに、ちゃんと心がわくわくすることをやるというのを決めました。二つ目は、皆がプロフェッショナルなリーダーとして動くということ。三つ目は、出来ない理由ではなく、どうしたらできるかということを行動指針にしようと考えました。

もう少し詳しく教えていただいてもよろしいですか?

嶋田:例えば何かの確認に時間がとられているので、負担に思うのであれば、効率的にやる方法を考えるという事もありますし、自分が直接実施する時間がとれないのであれば、外部の方に任せる方法もあります。またはそれをもう少しわくわくするような形に変えてみるのも一つですよね。

私の考えとしては、職階や役割というのはただの機能軸であって、本来は一人一人がリーダーとして動くべきです。主体性の話ですね。

うちは大切にしている7つのバリューで人を引き付けていますし、それに共感した人が入ってくることが多いです。そこの文化的な土台が重要なので、ハードコントロールよりも、ソフトコントロールのところをいかに重視して守っていけるかというところを工夫しています。

なるほど。とても興味深いです。業務外での社内との関わりで言うと、キャリアジャグリング(ワーキングペアレンツコミュニティ)(※1)を立ち上げられたと聞いています。

嶋田:はい、現在メンバーが90名程です。初めは女性が多かったのですが、最近は男性もインスパイアされて、育休を取った方が、「これからのパパのためにできること」というテーマで育休報告会をやるなど、男性メインの会もあります。会社の制度としてやっているものではないんですが、結構Slackでのコミュニケーションは活発ですね。

細かい話ですが、活動の時間帯は何時頃ですか? 就業時間という考え方もあまりないのでしょうけど。

嶋田:月1回、お昼休みに1時間半取って、ご飯を30分ぐらいで食べたりして、1時間は事前に設けたテーマをについて集まった人で話をしてます。一昨日は新しい人事施策についてどう思うか、というのをテーマに人事の起案者や役員と話しました。

ユーザベースさんは自主的な活動が多い印象です。それはなぜなのでしょうか?

松井:空気感として、「やりたかったらやったら」みたいな感覚があります。誰かに許可を得るという概念自体があまりないです。

コミュニティを立ち上げたきっかけは、一人でバリに行かれたことだと聞きました。その間、ご家庭は大丈夫だったのですか?

嶋田:メンバーからも「出張とかどうされているんですか」等、その類の質問は受けますね。私の母が中学の先生で、私は生後3カ月くらいから人に預けられて育ったので、あまり違和感や抵抗感がなくて。預けられた先の家庭の方とはすごく親しくて、自分の結婚式にも呼びましたし、私もその方の娘さんの結婚式に出席するような関係でした。

なので、地域で育てるというか、子育て自体が自分の家族で完結しないといけないものだっていう概念が薄いんですね、もともと。

それが全ての呪縛な感じはしますよね。

嶋田:たぶん、それを前提に「人さまに迷惑を掛けちゃいけない」みたいな感じで考えてしまうと、息苦しいなと思っていて。コミュニティで育てていくのが良いのではないかと思っています。

(預けられたりすることを)こちらが勝手にかわいそうだと思っているだけのような気がしますよね。周りの大人が「かわいそうだ」と言うことで、「そうか、自分はかわいそうなのか」と思いはじめると聞いたことがあります。

嶋田:たぶん、子どもは思ってないんですよね。

『嫌なこと全部やめたらすごかった』の小田桐あさぎさん(キャリアジャグリングの初めてのイベントで登壇され方)の話で、これはみんなに知ってほしいなと思った考え方なんですが、小田桐さん自身が、自分がお母さんにすごくきっちりと育てられたらしいんです。本当に真面目に。なんですけど、そうやって子どもに手をかけて育てるために、母親が「私はあなたのために我慢したの」と言われたら、子供からすると「頼んでないし」っていう感じになるというお話しをされていました。

であれば、私はあなたを預けて映画に行ってるかもしれないし、仕事をしてるかもしれないけど、すごくハッピーだよっていう生き方が社会に受け入れられるといいんじゃないかと思っています。社会がこどもを「預けられる子どもはかわいそうだ、親(特に母親)は我慢してこどもを育てるべきだ」と決めつける意義は薄いかなと思います。

すごく共感します。

嶋田:一般的には自分の幸せは二の次で、「子どもの幸せ」という、実は正体のよく分からないものを第一に据えるじゃないですか。でも、お母さんに我慢させて、幸せになりたいと子供は思っていないと思うんです。

そういうことも、キャリアジャグリングで伝えたいメッセージの一つということですね。

嶋田:はい。もっと自由になってもいいんだよっていう、ハピネスの象徴としてのバリでの体験を、シェアしようというのがきっかけです。

バリに行かれた経緯を教えていただいてもよろしいですか?

嶋田:バリに行った日程はもともと海外出張の予定が入っていて、それがキャンセルになったんです。その期間は母にヘルプをお願いしていたので、良いきっかけだと思いました。

当時下の子がまだ小さく、夜もあまり眠れていなかったので、少し自分の時間が欲しいと思っていたところでした。バリの大自然に触れて、子育てからも仕事からも距離をおくことができリフレッシュできました。

おっしゃる通り、お父さんもお母さんも、もっと自由になれたらいいですよね。少し話がそれますが、男性で育休を取られる方はいらっしゃいますか?

松井:まだ女性に比べるとそれほど多くはないですが、それでも増えてきているイメージです。

キャリアジャグリングがあるおかげか、ちょっと男性の意識も変わってきたと聞いています。こういう会ができたことで、「取ってる人いるんだ、聞いてみよう」みたいな感じで、少しずつ増えている感覚はありますね。

嶋田:印象深かった事例としては、あるエンジニア社員が何も言わずにすっと育休に入りました。彼は、あえて「育休とります」と宣言せずに、通常の休暇のように会社を休んでいて、自然体で育休をとる姿にかえって女性社員が感銘を受けたという話がありました。個人的には、あえて「男性が育休」みたいなところを切り出して主張しないというのが、目指すべき姿だなと思いました。

おっしゃるとおりですね。「男性が何人取りました」と自慢してる時点で……みたいなところはありますよね。

嶋田:自然体で、さも当たり前のように育休をとったことが格好良かったと思います。あえてそこをお祝いするのではなく、空気を吸うように育休を取るっていうのがその人らしくて良かったと思いました。

そもそも、なぜこんなに本質的な働き方が出来ているのでしょうか。7つのバリュー(※2)がお題目ではなく、浸透しているように感じられます。

嶋田:そうですね、オープンコミュニケーションを大事にしていることが大きいかもしれません。社内では「景色の交換」という言葉を使っています。お互いに見える景色が違うから、その人の意見が異なっているのであろうと。そこの前提条件みたいなところ、あるいはその人の置かれている環境などを知ることができれば、きっとあなたも同じ答えを出すかもしれないですよね、という。同意はできなくても理解はするかもしれないですね、という意味合いでその言葉をよく使っています。

一方で、もう少しバリューを丁寧にブレークダウンした、何を大事にしてるかではなく「大事にしないもの」も、忖度しないといった内容の事柄を「31の約束」(注:※3)として大事にしており、ホームページにも掲げています。

忖度禁止! 忖度せずにコミュニケーションを取る文化が土台にあるのですね。

嶋田:それはバリューを自ら体現しているトップの姿勢が一番大きいと思います。

なるほど。だからお題目にならないということなのですね。少し話が大きくなりますが、内部監査を含めたコーポレートセクションの働き方で、あるべき像のようなものがあればお聞かせいただけますか。

嶋田:現場(ビジネスサイド)は、会社の外の人がお客さんなので、顧客をより知って、プロダクトやサービスを良くしようというインセンティブが働くと思うんですけど、コーポレート職にとってのお客さんは社内なので、あんまり「お客さん」っていうイメージがないと思うんです。ただ、そこを顧客として捉えた場合、もっとできることが見えてきたり、甘えがなくなるんじゃないかなと思っています。

確かに。

嶋田:例えば、内部監査を外注している企業さんもいらっしゃると思うんですけど、外注するのと中でやるのとどちらに頼む方が良い? となったとき、「中にいる人に頼んだ方が良い」と、お客さんに選んでもらいたいですよね。もう少し顧客解像度を高くすることによって、どういう価値を届けたらいいのかが分かってくるのではないかと思います。

社内を「お客さん」だと思うと、全然見方が変わってきますよね。

嶋田:だから、お客さんの名前を覚えないとか、お客さんの業務を知らないとか……

あり得ない、ということになりますね……。

嶋田:働き方に関して言うと、ステークホルダーの役に立つことを第一義に考えて、そこからの働き方だと思うんです。

例えば、家で集中して考える方が良いアイデアが浮かぶのであればその時間はリモートが良いでしょうし、会社にいる従業員と対面で会った方が連携しやすいのであればオフィスに来ればいいですし、子育てで子供の世話をした方が自分の心が落ち着くなら、子供の時間に合わせて動くのが良いと思うという感じです。

「どうすればより価値を提供できるのか」を考えての働き方、ということですね。考えてみれば本当にその通りです。本日のお話、とても勉強になりました。

◆インタビュアーあとがき◆

「キャリア」の語源は、ラテン語の「carrus(車輪の付いたより物)」という説があり、車輪の通った跡(轍・わだち)がキャリアとのこと。すなわちキャリアとは、振り返ってはじめて分かるということであり、「キャリアプラン」という言葉自体も矛盾しているという説があります。

「好きを仕事に」という風潮がある一方で、まずは「自分が(人よりも)価値を提供できること」に集中する。それが積み重なって、やがて「好き」になる。お二人のお話を聞きながら、まさにこの諸説の通り歩まれていると感じました。

なお、ユーザベースさんでは、育休中もSlackを見ることができ(名前に「育休中」と付いている)、業務システムにログインすることができるとのこと。「仕事をして」ということではなく、育休中も情報が遮断されないということです。できる限りシームレスに育休を取得するということを考えると、こういった対応も意味があると感じました。

(注釈)

※1  キャリアジャグリング立ち上げのきっかけ

https://journal.uzabase.com/journal/775/

 

※2 大切にしている7つのバリュー

https://www.uzabase.com/company/seven-rules/

 

※3 31の約束

https://speakerdeck.com/uzabase/31-promises-of-uzabase-japanese-ver-dot

株式会社ユーザベース松井 しのぶ氏
公認会計士。大手監査法人で会計監査業務に従事後、大手税理士法人で国際税務のコンサルティングマネージャーに従事。その後、家庭の都合によりトルコで4年半を過ごし、帰国後にユーザベースに入社。2020年1月よりCPO/CAO (Chief People & Administrative Officer)。2児の母。

嶋田 敬子氏
公認会計士。大手監査法人で会計監査業務に従事後、事業会社およびコンサルティング会社勤務を経て、2015年より常勤監査役としてユーザベースに入社。2019年3月より内部監査責任者。2児の母。