【インタビュー】ソウルドアウト株式会社/池村公男氏・榎本守晃氏 - 営業本部長をIPO準備責任者に。必要なのは「知識よりも意識」(2/2ページ)
2017年7月12日に東証マザーズへ上場を果たしたソウルドアウト株式会社。
IPOへ導いた同社の精鋭チームに、これまでの足跡と今後の抱負を伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge パートナー 山岡直登
コーポレート部門の経験がないことでの苦労はいかがでしょうか?
榎本:ビジネスサイドにいたため、事業理解が深かったというメリットはあったのですが、やはりIPOの経験もコーポレート部門の経験もなかったので、ロードマップの妥当性やポイントが分からない中で、手探りで進めていくのは大変でした(笑)。
規定の改定一つを取っても、経験者でないと分からないことが多かったので、池村や外部の方と議論をしながら進めました。
主幹事証券会社との対応においても、主幹事側の指摘をしっかりと理解することに苦労しましたね。正しく理解をして、分かりやすい言葉でメンバーに共有できているのか、緊張感を持ちながら対応していました。
経験がないというハンデのある中で、どのように乗り越えていかれたのですが?
榎本:今思えば申し訳ない気持ちもあるのですが、主幹事の担当の方に、とにかく自分が理解できるまで、「こういう認識で合っているか」、「こういう理解で良いか」ということを都度確認していました。
池村:泣きそうになりながら頑張っていたよね(笑)。
榎本:そうですね…(笑)。池村から求められるレベルも高かったので、それに見合ったアウトプットをするのは大変でしたね(笑)。
池村さんはいかがでしょうか?
池村:「親会社へ貢献したい子供心」と「少数株主利益の保護」のバランスです。
ここで大事なのは、どうバランスを取るかという基準を、しっかり自分たちで持つことだと思います。
この基準を持っていないと、一つ一つの判断と株主との対話がブレてしまうので、この基準をしっかりと共有する作業は重視していました。
株主保護の観点でいうと、親会社としては本来、子会社をコントロールしたいという本音がありますよね。だからこそ、きちんと自社で独立性を持って、その上で親会社の期待を上回る結果を出すということが大切だと思っています。
いま振り返っても、「事業を拡大するために上場をしたい」という方針に賛同頂いたオプトホールディング社には感謝しかないですね。
親子上場ならではのお話ですね。株主に対する恩をしっかりと返していくという姿勢にとても好感が持てます。
<大切にしていたこと>
IPO準備の過程で大切にしていたこと、心掛けていたことはありますか?
池村:経営陣での「意思の統一」は徹底していました。例えば、「なぜ上場を目指しているのか?」、「本当に上場は必要なのか?」というような議論は何度も行いました。
社内のインナーブランディングは、基本的には代表自ら行っているので、議論して決めたメッセージを、代表から幹部や社員むけに発信してもらいましたね。
代表が直接IPOの必要性を社内発信するのは大切ですよね。
池村:そうですね。手前みそですが、当社の従業員は優秀なメンバーがとても多いので、説明すれば理解してくれる。上場したらどう変わらなければいけないのか?というようなことを、率先して聞いてくれるメンバーが多かったので、IPOに対しての啓蒙活動での苦労や、社内反発のようなものも少なかったですね。こういった点は、非常にやりやすい環境だったと思います。
伝え方で意識していたことがあれば教えてください。
池村:前提として、IPO準備でもビジネスでも共通して必要なのは、「知識よりも意識」だと考えています。単に知識情報を与えただけでは加工されないですが、意識を植え付けておけば、言動に加工されます。
なので、曖昧な言葉やビックワードは使わずに、分かりやすく伝えることを意識していました。
分かった気になっただけで結局は分かっていない…ということは避けたかったので、できる限り正確で落とし込みやすい情報を発信して、きちんと理解・意識をしてもらうことに重点を置いていました。
非常に大切ですね。「上場したらどう変わるの?」という社員の問いに対してはどう答えていたのですか?
池村:「IPOをしても大きくは変わらない。会社法と金商法があって、その中でどうビジネスしていくかだけだ。」という前提のもと、理解しやすい例え話などで伝えていました。
たとえば、非上場企業と上場企業の違いを、田舎と都会の路上駐車に例えたりしていましたね。「田舎は路上駐車をしたとしてもそこまで取締りが厳しくなくて捕まらないかもしれない。都会は厳しいから、すぐに捕まってしまうかもしれないが、ビジネス効率が田舎よりも高い。上場とはそういう事であり、何かがダメになるのではない。上場有無に関わらず、大人のルール・マナーを守る事は前提であり、上場による知名度や社会的信頼の向上という恩恵を受け、大きく成長していくことのできるフィールドでビジネス展開できる資格取得のプロセスが上場申請だ。」みたいなことを伝えました。
なるほど。例え話で分かりやすく啓蒙をしていくのは有効かもしれないですね。
池村:エクイティシナリオにおいても、資料をとにかく分かりやすく、且つそれを言語化できることを意識していましたね。
国内・国外ともに、当社や当社の市場を知らない方々に発信していかなくてはいけないので、親会社の社長をはじめ、問題ない範囲の方々に意見をもらいながら、コアパートは1分で理解を頂けるように作りました。
マーケットの状況、なぜその市場が伸びるのか、競合優位性、諸々のリスクなど、数字的な裏付けをもとに、分かりやすく資料に落として、それを言語化することが重要だと思います。
ここができていないとロードショーでも良いアピールができないので。
振り返ると、エクイティシナリオの戦略や作り込みは、できる限り早い段階でやっておいても良いかもしれないですね。審査からロードショーまではあっという間に過ぎますので。
榎本さんはいかがでしょうか?
榎本:なにをするにしても、「どうすれば会社が良くなるか」ということを常に考えて行動をしていました。
あとは、先ほどもお話した通り、専門知識も無かったので、「空気を読まずに、とにかく聞く」というスタンスで、積極的に社内外の方々に聞いて回っていました。
特に池村には事前に聞いた方が良い内容がたくさんあったので、忙しそうな池村を捕まえてどんどん聞いていたような気がします。池村は大変だったと思いますが…(笑)。
池村:本当に、今来る?っていうタイミングは何回かありましたね(笑)。でも何事も聞く姿勢というのは非常に大切ですよね。
<IPOを目指す企業へ>
IPO準備を進めているコーポレートチームの方々に向けて、何かお伝えできることがあれば、お願いします。
池村:まずは、上場後をしっかりと想像する事が重要だと思います。上場承認後、開示やIRをはじめ、様々な事が始まります。機能新設や経験者採用が必要になるかもしれません。最初の株主総会が終わるまでがIPOプロセスだと改めて感じました。準備プロセスで一番重要なのは、主幹事証券会社を信用して、頼って、良好な関係性をキープする事だと思います。
具体的にどのように信頼関係を築いていかれたのですか?
当たり前ですけど、「嘘をつかない」、「隠し事をしない」、「約束を守る」ということだと思います。上場を目指すような企業にとっては当たり前過ぎるかもしれませんが、私達のプロセスにおいては、虚勢をはりたくなったり、恥ずかしくて聞けなかったり、相談する事をカッコ悪く感じてしまうようなシーンも正直何度かありましたが、馬鹿正直に話す事でほとんどが解決しました。
だからこそ、最後までしっかりと良い関係性が築けたと思っています。
主幹事との関係性は本当に重要ですね。
監査役会の設置においても、どういったバックグラウンドの方を、どういった機能で配置するかということを早めに決めておいた方が良いと思いました。加えて、社外取締役や常勤監査役はできる限り早めに目星をつけておくということですね。
弊社の場合、直前期の半分は常勤監査役不在であったので、あと3ヶ月遅れていたら上場承認も遅れていたかもしれません。
自社とフィットする常勤監査役を探すのには時間がかかりますよね。たしかに早めに動き始めた方が良いように思います。榎本さんはいかがでしょうか?
榎本:きちんとスケジュール感を把握して、何事も前倒ししながら動くことが大切かもしれないですね。
特に採用に関しては、いつ入社してもらえるかも分からないので、早めに動くに越したことはないと感じました。
また資料作成において、社内データの正確な数字や情報を引っ張る作業に時間がかかったので、すぐにデータを取り出せるような体制づくりは大切だなと感じています。使いやすいツールを利用して整理しておくことができれば良いかもしれません。
<今後の目標>
今後のビジョンがあれば教えてください。
池村:そうですね。コーポレートとしては、事業との連携、組織のバランスがとても大切だと思っていまして、それは強すぎても弱すぎても良くないですよね。
それぞれのメンバーが事業を尊重し、協調し、最適な資源で今後も組織を創っていくことができたらベストだと考えています。
全員が誇りを持って働ける組織であり続けたいですね。
役割に拘りは無いので、当社経営陣の一員として、企業価値を高めていくためのピースを引き続き埋めつつ、設立から携わっている当社、及び当社メンバーと一緒に大きく育ち、一緒に大きな景色を見る事ができたら嬉しいです。
榎本さんはいかがでしょうか?
榎本:ビジョンではないのですが、私がコーポレート業務を経験して、今また事業部門に戻って感じることは、コーポレート側の大変さとありがたさです。
ビジネス側の人間には見えにくいことも多いと思うのですが、実際に経験してみると、各方面からの無茶な要望にも対応をしながら、円滑にビジネスが進むように、日々様々な業務をコーポレート側の方々がやってくれているなと感じています。普段、意識せず普通に業務に取り組める状態を創ってくれているのが、コーポレート側の方々のおかげということを強く実感しています。
実際に経験をした私だからこそ、コーポレート側の大変さやありがたみをもっと伝えていって、より良い組織を創っていきたいと考えています。
IPO準備責任者 榎本守晃氏(写真左)