【インタビュー】ジャフコグループ株式会社 取締役社長 三好啓介氏(1/1ページ)
投資家の立場から見た理想のCFO像や、CHROの意義、コーポレート部門に期待することなど、「企業価値向上を担うコーポレート部門のあり方」というテーマで、様々な見解をお話しいただく専門特集。
ジャフコグループ株式会社 取締役社長 三好啓介氏に、日々の活動の中で感じる率直な思いを伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 代表取締役 柳橋貴之
(オンラインをベースに、撮影側のマスク着用、ソーシャルディスタンス等、感染対策を十分に施した上でインタビューを実施しております。)
まずは御社の特徴、投資方針について教えて下さい。
初回投資のメインとしては、スタートアップのシード・アーリーと言われるステージで、社員数にしても10人未満くらいから関わります。一番早いと、ほぼ会社を作るようなタイミングから携わるケースもあります。
そこから追加の投資をしながら関与して、上場もしくはM&Aということを目指していくわけですが、基本的にはいわゆるリードインベスターという役割を果たすケースが非常に多いです。
分野については、コンシューマー向けサービス、SaaS、バイオテック・ヘルスケア、大学発ベンチャーのようなところまで、幅広く投資をしています。
幅広い分野で、早いステージから投資していくというのが基本のスタイルですね。
歴史のあるジャフコさんですが、投資方針の変化なども多少あったりされるのでしょうか。
そうですね、一番大きな転機はやはりリーマンショックでしょうか。
そのあたりから、「早いタイミングに出資をして企業成長を応援していく」ということを鮮明にして、そこにフォーカスするようにしました。
人のリソースもかけてきましたし、1社当たりの投資金額もどんどん大きくなり、平均すると10億円に近づいているといった状況です。逆に、社数は限定しながらになっていますね。
投資方針についてその他にも何かございますか。
大切だなと思っているのは、「この会社の10年後は一体世の中にどんな価値を与えられるだろう」ということを想像しながら出資することですかね。
昔は、その企業の価値を分析して…というイメージでしたが、今はそうではなくて、ある面「一緒に創る」みたいな発想で取り組んでいかないと、本当の意味でVCの役割としても果たせなくなると思っています。
この世の中が革命的なくらい、様々な変化をしているので、会社づくりや事業づくりにおいて、「我々は一体何ができるだろう」ということを考えながら動いています。
ありがとうございます。三好さんが企業価値を判断する上で大切にされていることがあればお話いただけたらと思います。
先ほどの話とも繋がりますが、起業家、経営チーム、コアなメンバーの皆さんが、「何を実現したいのか」ということをすごく大切にしています。
何を考えていて、何がしたいのか、そのためにどういう会社にしていくのかというようなことを、だいぶ早いタイミングで何度も話しますね。
まだ全くマーケットがなかったり、誰も考えたことがないようなところにチャレンジしていく会社を応援していくので、その先の世界を一緒に想像していく必要があるんですよね。だからこそ、事業の話ももちろん大切ですが、そのためにはどうするべきか、一体どうあるべきかという話が重要だと思うんです。
そのあたりはどういった観点で見極めていらっしゃるのでしょうか。
「なぜ事業をやりたいか」ということを追及すると、自分の原点となる過去の原動力やきっかけであったり、世の中の理不尽なことを変えたいという思いが出てくるんですよね。それをなぜそう思っているのか、本当に何がしたいのかということを、もっと深く聞いていくことが大切な気がします。
スタートアップは何もないので、起業家やコアメンバーが、「我々は何をしていきたいのか」ということを発信していかないと、人も何もかも集まってこないんですよね。
人が集まってこない会社は成長しないので、そのためにはやはり、この辺りの追及が大切になってくると思います。
企業価値の向上が期待できる会社とそうではない会社との違いは何かあるのでしょうか?
様々な切り口があると思うのですが、事業としての価値があるかどうかという定量的な部分とは違って、僕自身は、その「テーマが作れるか」とか「人を集められるか」の方が重要だと思っています。
詳しく教えて下さい。
そもそも、今はどんどん世の中が変化していく中で、人の働き方というか生き方が、昔と違うわけですよね。
僕もこの仕事をずっとやっていますが、過去は起業家もメンバーの方も、言ってみれば「この事業に一生をかけます!」みたいな事が必要だったり、それが日本の原型だったわけですね。会社と自分はほぼイコールという価値観です。
でも今は、特に若い人だと「私はこの事業に5年かけます」とか「10年かけます」という表現をする人が結構多いんですよ。
起業家の考え方も変わってきているということですね。
はい。僕もこれまで多くの起業家とお会いしていますけど、昔の感覚で見れば、一定期間でキャリアホップしているように聞こえなくもないんです。でもよく話を聞くと、実際には全くそんな発想をしているわけではないんですよね。
人生のライフサイクルが何個にも切り分けられているということであって、この年齢での5年・10年という重みが、昔とは大きく変わってきているのではないかと思います。
だから「この事業に10年かけます!」という言葉の時の顔は、一生どころじゃない顔なんですよ。
なるほど(笑)。
そうやって動いていく世の中になってきたので、みんな自分の生き方を自分で決めているんですよね。
僕もこの10数年の中で、価値観や考え方も大きく変わってきたと思います。
たしかに、時代は大きく変わってきていますよね。
昔で言えば、よく分からないまま就職活動をして、そのまま会社に入ってしまったとしても、そこでずっと働く・生きていくということが、普通とされていましたよね。
でも、世の中が本来あるべき「自分の生き方を自分で決めていく」という方向にどんどん向かっているとすると、スタートアップ側とすれば、「我々は何がしたい」ということを明確に言えなかったら、やはり人が集まらないと思うんです。
逆に言うと、何もなくても、起業家の本当の想いや実現したいことに共感すると、自然に優秀な方々が集まってくるわけですよね。
定量的に計れない、いたって定性的な部分ですが、やはりこれがとても大切な要素だなと思っています。
仰る通りですね。そこでバリューが期待できる会社とそうでない会社とが明確に分かれるわけですね。
そうですね。仮に、発信していることの表現がそこまで優れていなかったとしても、人はその奥を感じることができると思うので、やはり「何がしたいのか」ということが大切になってきますよね。
ありがとうございます。話題を変えてファイナンスについても質問させてください。未上場時から意識すべき資本政策ですとか、エクイティストーリーの立て方など、三好さんなりのお考えについてお伺いしてみたいです。
先ほどの「何がしたいのか」ということをベースにすると、このやりたいことを実現するには一体どのくらいの時間とお金が必要だろうか…ということを逆算する必要がありますよね。
しっかりと逆算したうえで「トータルでこれくらい」ということを発想せずに、よくわからない中でスタートしてしまうと、最初の時点で高い安いという目線になってしまいがちです。
そのまま1回目、2回目…となってしまうと、結局のところ、社長のシェアが非常に低すぎるとか、誰々が高すぎるとか、そういう状態になってしまいますよね。
投資家対応という点ではいかがでしょうか。上手な会社の特徴などはあったりするものでしょうか。
知識の有無ということではなくて、自分たちの考えをクリアに話ができ、相手の立場に立ったときにどう見えるのかということをイメージしながら話しているかどうか、そこに尽きるような気はします。
投資家から見た時にどう見えるかということですね。
決して投資家に迎合するということではなく、相手から見たらどう感じられるんだろうと考えることが大切ですよね。
仮に想像していない課題が生じたときも、「この方にはどう受け止められるだろうか」ということが想像できれば、「この時点で話しておかなければ」など、複合的なアクションに繋がっていくわけです。
たしかにそうですね。ただそれは、包み隠さず全てを話すべきだということではないと…?
そうですね。基本的には全てを話すべきだと思うのですが、たとえば方向性が決まっていないうちに話をしてしまうと、違った流れになってしまう可能性もあるので、その辺りは難しいところですよね。
全体像であったり、その根幹の話をせずに、一部の事実だけを切り取って話をしてしまうと、本来の議論から外れていってしまいます。
ある程度の経験も必要になってくるかと思いますが、相手の立場や、話をする順番、タイミングなど、俯瞰して見られるようになると良いかもしれないですね。
この辺りは、CEOが話をするのと、CFOが話をするのとでは、内容は異なりそうですか?
企業ステージにもよってくるとは思いますね。
ただ、原則として、CFOはCEOができる立場だと考えていますけどね。
やはりそうですか。
本来の役割から見ても、CFOはCEOができるわけですよね。
あまり皆さん分かっていらっしゃらないと思いますが、たとえばCEOに何か不測の事態が生じたときは、CFOがCEOを担わなければいけないと思っています。
そうですよね。
とある著名なCFOの方も、「CFOは、会社を商品として売り込むことが仕事だ」と仰っていました。これはその通りだと思いますし、会社を商品として売り込むことができるということは、全てができるということに近いんですよね。
どんなに立派なバックグラウンドであっても、そういったマインドセットが何より大切かもしれないですね。
仰る通りですね。仮に立派な経歴の方であっても、そのステージにおいてCFOがやるべき役割を誤ってしまうと、マイナスに振れてしまいます。
例えば、既に組織ができてきているタイミングであれば、それまでやってこられたメンバーの上に立つことになりますよね。メンバーの方々が「付いていこう」と思える人じゃないと成り立たないくらい難しい立場だと思いますし、「CFOが入ってきて組織が崩壊した」という会社は実際にありますからね。
たしかにそういった会社もありますね。そういう面でも、やはりCEOと同じ感覚で会社を成長させられる方がCFOということになりますね。
そうなんですよね。単にファイナンスだけをやっていれば良いというわけではないと思うので。
ちなみに、「CFOは会社を商品として売り込むことができる人」ということでしたが、たとえば管理部長はどうでしょうか。しっかりとした商品に仕上げることであったり、品質を担保したりする役割といったイメージでしょうかね。
まさにそうだと思いますね。CFOと管理部長の役割は、明確に違うと思います。
たまに「管理部長としては非常に優秀だ」という方を、誤って取締役CFOみたいにしてしまうケースもあるんですよね…。
実は結構多いかもしれませんね。
みんな「CFO」という言葉を使いたがりますし、上のポジションをやってみたいという気持ちもありますからね。会社側も、その方が採用しやすかったりもしますし。
でもこれは、はっきりと役割が違うと思うんです。
能力がある・ないということではなくて、管理部長は、会社として体裁を整えていく上で、実務を含めて全体をマネージする役割ですよね。
役割分担の違いですよね。
そうなんですよ。でも採用する側もされる側も、「このステージでCFOは何をすべきか」ということをお互いに分かっていないケースが多いように思います。
「何が必要か」が明確になっていないと、ミスマッチやすれ違いが生じてしまって、後々苦しくなりますよね。
そうですよね。ちなみに、CFOと管理部長、それぞれいらっしゃる会社さんの場合、そのお二人が上司と部下という関係性になっているというケースも多く見受けられます。これも、「役割が違うだけで、上下というのはおかしいのではないか」という意見もありますが、この点はどう思われますか。
上下がおかしいという意味合いも分からなくはないですが、現実のオペレーションや意思決定の場面を考えると、誰がそれを実行するのかが整理されていないと話が成り立ちませんよね。
なので、理屈ではそうかもしれないですけど、前に立つ方がいないと会社のためには良くならないので、ある程度の整理は必要だと思いますし、前に立てる方がCFOだと思っています。
ありがとうございます。コーポレート部門の組織に関しても伺いたいのですが、会社のフェーズによって、必要な人は変わっていくような気がします。まず初めは、何を意識した方が良いと思いますか?
最初は器を作ることだと思いますね。「品質」ということも大切になってくるとは思いますが、まずは、何があっても壊れない「器」をしっかりとつくることでしょうね。
とても納得です。
壊れない器ができて、そこから優秀な人が集まってきてというイメージでしょうか。
その点でいうと、最近人事領域でも、CHROといった職責を置いていらっしゃる会社さんも増えてきています。CHROと人事部長の違いなど、お考えのことがあれば伺いたいです。
これも、CFOと管理部長の話と同じだと思いますね。
役割の違いということですね。
はい。CFOは何をやる人なのか、CHROは何をやる人なのか、という整理ができていないまま、タイトルだけが独り歩きしているようなところがあるので。
本来「何をやってもらうのか」「何についてこの人にトップとして担ってもらうか」ということがあってのポジションですからね。
最初のステージでの社長の仕事は、人集め、お金集め、資金繰り等が重要になってきます。
特に今は、経営のスタイルがだんだんとチームをつくる方向になってきているので、「人」という面から、CHROというポジションも非常に大切になっているような気がしますね。
確かにそうですね。
社長が「CHROを採用したい!」と言い、社外役員他から駄目出しが出るというケースがあります。社長は「良い人がいれば!」という強い思いですが、現実に具体的に考えた時に誰が何をするのという事が組み立てられていない、そういう話です。
全く整理がついていなかったのですね。
そうですね。「仮に採用戦略とかが曖昧なままでも、凄い人が来てくれれば、まるっと受けてくれるんじゃないか」「採用もどんどん進むんじゃないか」では、「それじゃ、それって採用担当と何が違うの?人事部長と何が違うの?」と何を期待する役割なの?となりますよね。
なるほど。
器ができるまでの間、組織ができるまでの間は、むしろ社長がやらないといけないですよね。あまり考えがまとまっていないうちにCHRO候補の方に入っていただいて、「実は採用担当と変わらない…」みたいな話であったり、ミスマッチになってしまうケースも多いような気がします。
結構そういった経営者は多いような気がします。CHROの必要性という面は、いかがでしょうか。
もちろん必要だと思いますし、実際、CHROという職責を果たせる方が増えつつあると思っています。
言語化すると、どういった方がCHROだと思いますか?
「何を実現するのか、どういう会社にしていくのか、そのためにどういう人たちが必要で、どういった体制で臨むのか、そして皆が活躍するにはこういった環境を整えないと…」のようなイメージができて、しっかりと周りを巻き込みながら先導できる人がCHROだと僕は考えています。
全体を俯瞰して見て、その根本をしっかりと捉える。そしてマーケットや会社など様々なことを吸収しながら、自分の役割を今のステージで果たそうとする方ですかね。
まだまだ日本では、一部の方にとどまってしまっているかもしれないですけど。
最後に、経営者とコーポレート部門の理想の関係性について伺いたいです。こういう関係性が良いのではないかという視点があればお聞かせください。
事業をつくって推進していくことと、会社としての器をつくっていくこと、どちらも絶対に必要になってくるので、そのバランスを保っていかないといけないですよね。
なかなか言語化することが難しいですが、そのバランスを保つための関係性が、最も良い関係性ということになってくるような気がしますね。
とても深いですね。そして納得感もあります。
僕らも取締役会に出席しているので、立場的に、そのバランスを意識した支援をしています。
経営者の背中を押す場面もあれば、逆にブレーキを踏む場面もある。このバランスをどう取るかが大事だと思っているんです。その経営判断も、VCの役割の一つだと思いますから。
「VCの役割」ですか。
「どんどん行きなよ!」と起業家の背中を押し続けていくだけも違いますし、逆に新たなチェレンジをしている中で「こういうルールが…、こんなリスクが…。」と今までのルールに縛られて、保守的になるのも違うと思うんです。
会社ごと、それぞれのケースごとによって、どう判断するのかということが大事で、その役割を担えるように頑張るのがキャピタリストだと思っています。
キャピタリストの立場も、バランスが大切ということなのですね。
はい。起業家も初めてのチャレンジということが多い中、真面目で優秀な方ほど、すごく悩んだりするわけですよね。そのときに、起業家と一緒にその課題に向き合う姿勢は絶対に必要だと思います。起業家が悩んでいることや考えていることを、できる限り理解して、「我々としてはこう思う」ということを伝えていかなければならない役割だと思っているんです。
経験に裏打ちされたご意見ですね。
たとえば社長から「自分の立場でこれをメンバーに言いにくい」という話もありますし、逆も然りで、社員から見て「自分たちの立場では言えないから社長にこれを言ってほしい」というのもあります。様々なケースがありますが、キャピタリストが起業家に寄り添うというのは、そういった細かなことも含めてなんだろうと思っています。
まさに、パートナーとして伴走されているというイメージですね。
目的は一緒ですからね。経営陣、社員、株主、みんなが目指しているところに成長させていくことが本来目指す姿なので、いろいろな役割があって然るべきだと思っています。
これまでたくさんの会社さんを見てこられたご経験がありますからね。
やはりうまくいかなかったケースも山のように見てきましたからね(笑)。失敗は何の役にも立たないと言う人もいれば、失敗が次に生きるという人もいて、どちらの意見も正しいと思っています。ただ、そのときに何が起きたのかということは、当事者として立っていないと分からないことですし、それを伝えられるというメリットは大きいと思っています。
同じような失敗はしないようにする、できる限りのことをやる、ということは常に思っています。
本日は貴重なお話を誠にありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。