【インタビュー】有限責任 あずさ監査法人 執行理事 坂井知倫氏(1/1ページ) - Widge Media

【インタビュー】有限責任 あずさ監査法人 執行理事 坂井知倫氏(1/1ページ)

記事紹介

監査法人の立場から見た理想のコーポレート組織や、CFOの意義、CAOの重要性など、「企業価値向上を担うコーポレート部門のあり方」というテーマで、様々な見解をお話しいただく専門特集。
有限責任 あずさ監査法人 執行理事 坂井知倫氏に、日々の活動の中で感じる率直な思いを伺った。

※インタビュアー/株式会社Widge 代表取締役 柳橋貴之

(オンラインをベースに、撮影側のマスク着用、ソーシャルディスタンス等、
感染対策を十分に施した上でインタビューを実施しております。)

本日はお時間をいただき誠にありがとうございます。

よろしくお願い致します。

まずは現在の坂井さんの監査法人での立ち位置や役割、どういった業務に携わっていらっしゃるか等、お聞かせいただけないでしょうか。

2021年7月に、国内外で株式上場を目指す企業に対して全力で支援する組織「企業成長支援本部」の本部長に就任しました。(業務を行う)事業部を縦割りとして考えると、本部から横串で全国をサポートするような体制になっており、そこの責任者を担っています。並行して、上場を目指している会社の監査責任者として、今でも10~20社ほどを担当しています。

長らくIPOのご支援をされていますが、どのくらいの期間になりますでしょうか?

入所が1995年で、その時から携わっているので、26年目になりますね。そのうち10年は監査チームのメンバーとして、約15年はパートナー(責任者)として支援をしています。

非常に多くのIPO準備企業を見てこられていると思います。

数は数えたことがないのですが、肌感覚で、上場準備で関与したうち上場する確率は2割くらいだと思います。私はパートナーとして30数社のIPOした企業の上場時の監査を担当させていただいてきたので、単純計算すると150社ほどでしょうか。2割の30社超が実際に上場されて、残りの8割は、今も上場を目指されているか、M&Aでエグジットしたか上場準備を一時中断しているイメージです。

現状、あずさ監査法人内で、そこまでIPOに特化して支援をされてこられている方は、他にいらっしゃらないのではないですか?

恐らく、現役だといないと思いますね(笑)。

年間200社近く上場していた時代や、マザーズができた頃に現役だった諸先輩方は、おそらくもっと担当をしていたと思います。ただ、リーマンショック後は年間19社まで落ち込みましたからね。そこから今は100社近くまで増えてきていますが、私は継続的に担当させていただいているので、やはり結構多い方だと思います。あまりこういった数の話はしないようにしていますが(笑)。

支援先について、特定のセクター、業界などは決まっているのでしょうか。

特にこの業種というのは決めていないのですが、結果的に見ると、SaaS系などのITベンチャー、ライフサイエンス、バイオベンチャーなどテクノロジーを持たれていて、研究開発をベースにビジネスをされている会社が多いです。

具体的には、どこまでの支援をされているのでしょうか?

企業の経営者やCFOとお話し、どういうロードマップで、どのタイミングから監査を受けるか、さらにいうと、その手前のショートレビュー(短期調査)をどのタイミングで受けるか等、まずは入口の段階で考えを伺います。

そして、これからIPOを目指していく中で、どういった事業の展開を考えているのかをお聞きし、それに対して私達が考える最適なサービス提案をします。しかし、お話を伺った上で、まだもう少し事業に集中された方が良い場合や幹部人員がまだいない場合等は、時期を見直して準備された方が良いのではないかという提案をすることもあります。

その後、一番のメインは、上場前2年間の監査になります。その間、様々な支援をしていますが、企業側と伴走をしている状態です。そして上場後も、数年、成長を支援させていただいています。

ありがとうございます。坂井さんから見て、企業価値の向上が期待できる会社とそうではない会社との違いはどのあたりだと思われますか?

やはり、売上高の成長部分を、ある程度しっかりと考えられている会社かどうかでしょうか。

今、マザーズだと、売上(直前期:中央値)で20億円前後の水準になってくるのですが、上場後に100億、1,000億といった成長ストーリーをより現実的に考えられているかどうかだと思います。

そういう意味だと、上場時に時価総額で1,000億円がつくような会社というのは、売上高が20~30億くらいあって、上場後、早々に売上高100億円を超えるような目標を描かれている会社が多いように思います。

坂井さんが担当し上場された会社の中でも、そういった先がいくつかあったかと思いますが、最初にお会いされた際は、どういった印象を持たれたのでしょうか?

お会いした会社の多くは上場に向けて一定の黒字を描かれる会社が多いと思います。

それに対して高い企業価値の向上を目指している会社は損益を意識しないということではないものの、キャッシュフローというか資金調達を上場前にもしっかりとされて、それを基に、将来の成長のために大きく投資をされているように思いますね。

様々なスタートアップを見てこられている中、「成長性」という面で意識されているポイントなどございますか?

その市場の規模感は見ています。どれくらい世の中に広がっていくかを考えた時に、やはり100億の市場規模よりも1,000億の市場規模の方が、成長できる可能性が高いですからね。

既存のビジネスということであれば、コンペティターの状況も把握します。先に上場している会社があれば、そのシェアであったり、そこをどう崩していくかということもポイントになります。一方、ここ最近は、新しい領域を開拓されている会社も増えていて、それは市場規模の拡がりを期待しています。

監査法人という立場上、ガバナンス体制やコンプライアンス遵守なども意識されると思いますが、特に見られている点はどの辺りでしょうか。

前提として、やはり「経営者の誠実性」という点。これがマスト条件になります。

誠実性と一言で言っても難しいのですが、しっかりと監査に協力いただけるような体制や、上場会社として開示や内部管理体制を、仮に今は未熟であっても今後整える意識を強く持っているかどうかといった「経営者の心構え」が大事だと思います。

あと、上場だけが目的になってしまっているのでは…と感じることもあります。上場が目的になっているから誠実性が低いということではありませんが、やはり永続的に上場会社でいるというコミットメントですね。その「覚悟」のようなものは見ています。

経営者の「誠実性」と「覚悟」ということですね。他にもございますか?

CFOや管理部長の方が、どういった方なのかということも意識しますね。

社長としっかりとコミュニケーションを取りながら、至当な決算をしようという方がいるかどうか。ショートレビューの時にはまだ在籍していなくても、本格的に上場準備を進めていくにはそういった方がやはり必要ですよね。

社長はビジネスの執行にしっかりと関与され、管理系の業務は任せるという権限移譲は、上場はもちろん、会社の規模を大きくしていく中では必須となります。管理面をきっちりと任せられる人がいないと、適正な管理体制も構築できないので、そういった相棒、右腕の方がいらっしゃるということは絶対条件だと思います。

ありがとうございます。経営者の右腕という件、会社のフェーズによっても変わってくるかと思いますが、はじめの頃は、どういった方が良いとお考えですか?

最近ですと、未上場の段階から多額の資金調達をされて、それを投資に回していくという会社が多いので、ファイナンス系の方がいらっしゃるパターンが多いように思います。

一方、社長がファイナンスをされていて、管理面をこれからどうにかしないといけないという会社も少なくないので、その場合はアカウンティング系の方になりますかね。

短期的に大きな成長を思考している会社の場合、最初の頃は会社として資金調達をしていくことが重要な要素になると思います。そして資金調達後は、その資金をしっかりと管理していかなければなりません。ファイナンスに強い方と管理ができる方の双方が最初から揃っている会社は少ないと思いますが、やはり要所で必要な方が着任している会社は、しっかりと成長されている気がします。

たとえばショートレビューの際、「管理側にいてほしい」「こういう人はいてもらわないと困る」といった方はいらっしゃいますか。

監査法人の視点だと、管理部長のような方でしょうか。単に「会計ができる」ということではなく、「会社の状況を把握した上での会計ができる方」がいらっしゃることが望ましいと思います。

なるほど。最近「CAO」というポジションを置かれている会社も多くなってきたと思いますが、「管理部長」と「CAO」の違いに関して、お考えなどございますか?

CAOの場合は、単なる会計知識を持っているということではなく、その会社のことをしっかりと把握されているかどうかでしょうか。

例えば他のCxOなどと密にコミュニケーションを取り、管理体制を構築する上できちんと物事を言えるかどうか。特に、アドミやアカウンティングの部分については、ボードメンバーの1人として、社長はもちろん、他部署を管掌している役員にも、はっきりと提言できるかどうかが非常に重要になると思います。

一方、管理部長は、その名の通り、管理部のヘッドですので、プレイングマネジャーというイメージでしょうか。実務を担いながら、背中でチームを引っ張ると言いますか。

坂井さんからすると「CAO」というポジションは必要だと思いますか?

そうですね。必要だと思います。

「CFO」は、その名の通りファイナンスなので、資金調達や経営企画等をしっかりリードできるかという面が強いと思いますが、未上場でも規模が大きくなると監査の要求事項の水準も上がってきます。そうなると「CAO」というポジションの方がいるのといないのとでは、大きな違いが出るかもしれないです。

社会的にもガバナンスをきちんと構築しなさいという風潮がどんどん強くなってきているため、C職として責任を果たせる方がいないと、なかなか世の中が求めている水準に応えられないのではないかと思います。

おっしゃる通りですね。CAOはアカウンティング以外にも、リーガルやコンプライアンスなども含まれると思いますが、いかがでしょうか。

はい。アカウンティング一つを取っても、会計処理上、コンプライアンスを重視するということは当然必要になってきますし、そこは全て包含しているように思います。

HRについてはいかがでしょうか。

最近はHRが非常に注目されていますよね。時代背景もあると思いますが、これから少子高齢化で労働人口が減る中、企業が競争していくにはやはり人材は非常に重要ですから。

なので、そのトップである「CHRO」が増え始めているのは必然の流れかなと感じています。

それぞれ専門領域があるので、「CAO」が「CHRO」も兼務するというのは少ないと思いますが、組織の規模や、社員にどれくらい投資されているかによるかもしれないですね。

ちなみに、リーガルは会計に紐づく割合が高いので、そこはCAOがカバーされているケースが多いのではないかと感じます。

CFOとCAOという観点では、CFOは攻め、CAOは守りというイメージですかね。

そうですね。やはりその2つのポジションがタッグを組んで推進することが必要だと思います。

例えば最近ですと、M&Aですよね。成長ストーリーの中では確実に企業として実行していくことだと思うのですが、まずはファイナンス寄りのCFOが取得までの一連の動きを行う。どのように買収しようか、買収するための資金をどうしようか、そもそもこの会社を買収して良いのか…といった判断を主体的にされると思います。

一方、買収して良いのかを判断するうえで、会計面やリーガル面を精査する必要もありますので、そこにはCAOの力が必要ですし、PMIにおいてきちんと管理していくという動きになると、メインはCAOに移っていくように思います。

両者がいることによって企業体として強くなるということですね。

アクションをしてアクセルを踏むのがCFOだとすると、その後のモニタリングはCAOが中心となって推進していく。必要な情報をCFOないしCクラスの人たちに伝えて、アクションを促していくといった、縁の下の力持ちのような役割がCAOになってくるのではないかと思います。

なるほど。CFOはアクセルでCAOはブレーキではないというわけですね。

止めるのではなく、モニタリングなので。車でいうメーターですよね。何キロ出ているかを把握しないとスピード違反になってしまうし、あまりスピードが遅いと後ろの車から文句を言われたりクラクションを鳴らされてしまいます。自分が何キロで走っているかというのを正確に把握するための物差しを正しくする。そういう意味だと整備員なのかもしれないですね。「実学(著者:稲盛和夫」でも会計がコックピットのメーターと仰っていたので、メーターをメンテナンスする整備員がCAOなのかもしれません。

興味深いですね。ちなみにCAOの方のバックグラウンドとして、どういう方が適していると思いますか?

もちろん管理部長の延長でCAOになられる方もいますが、「正しく測定する」という意味でいうと、会計士も適していると思います。

出てきた数字を見て判断するのはCFOや金融機関の方だと思いますが、正しい数値を的確に把握するという仕組みをつくっていく面は、やはり監査で得られた経験が非常に役立つのではないかと思います。

我々がお会いするCAOの方も、ほとんどが会計士の方なので、認識は一致していますね。

やはりそうですか。

一方で、会計士の方であっても、「CAO」と「管理部長」では仕事の質が変わると思います。「CAO」にはどういった方が適していると思われますか。

当然のことながら経営的な視点が必要になると思いますし、何よりも会社のビジネスをきちんと把握できていないと務まらないですよね。そのうえで、コンプライアンス遵守の必要性やそれに伴う管理体制整備の重要性など、会社全体に対してしっかりと意味のある進言・啓蒙ができることが大切になってくると思います。

教科書的に、「営業部長が承認しなきゃいけないです」と言っても、全く説得力がないですし、本当の意味でのコーポレートガバナンス構築や、経営に必要な管理体制を構築していくためには、経営陣を中心にきちんとコミュニケーションを取るということと、納得してもらえるだけのナレッジが必要なのだと思います。

たしかに「ナレッジ」が必要かもしれないですね。たとえば会計士の方の場合、どの程度の経験が必要になりそうでしょうか。

監査の仕事であっても、最初から感度高くいろいろなことに興味を持ちながら携わっていれば、短期間でも身につくかもしれませんが、会社の全体感などを見られるのは、最低でも5年目~6年目くらいです。監査の現場責任者として関わって、ようやく会社全体のことを把握できるという人が多いように思います。

やはり、会計の知識は高くとも、5〜6年の経験は必要になってきますよね。

入所1~2年目であれば、一部の業務、例えば販売業務や購買業務などの一部のパーツしか見ることができないので、会社全体を理解するという意味ですと、最低でも5年はかかると思います。「そもそもマネジャークラスにならないと本質まで理解することはできない」という見方も多分にあるので、そうなると10年ほどは必要になりますよね。

監査法人で、マネジャーになるというのも一つの指標なのですね。

はい。マネジャークラスになると、ビジネスの理解もそうですし、どういう業務が必要か、それにプラスして「こうあるべき」のような理想像を意識できるようになると思います。

たとえば、ガバナンス体制が構築されている会社とそうではない会社など、たくさんの事例を見ていくと思うので、様々な経験の中で「こういう形があるべき」といった知識、経験が身につくのではないかと思います。

やはり、事業会社で一定以上のポジションで活躍したいという会計士の方は、監査法人でもある程度の経験を積んでおいた方が良さそうですね。

そうですね。若くて地頭が良くて…と期待をされて、スタートアップなどに引き抜かれる方もいますが、それで転職をしてしまうと、その後は完全に「使われる側」になってしまいますからね。

使い勝手が良いと思われてしまうかもしれないですね。

たとえば、もともと社長と親しい間柄だったなどであれば、社長側としても、「自分の良き相談相手にもなるし、管理にも詳しいから」という思いもあるので、対等な関係になれると思うのですが、逆に、ある程度ビジネス経験がある社長で、そこに「若くて地頭が良いから入って」と言われれば、その時点で対等な関係には絶対になれないですよね。

数年後には、CAO候補として別の方が入ってこられるかもしれないですね。

本当にそうなりますよね。会計士という資格があったとしても、未熟な段階で事業会社に転職して、経理担当として何年も経験する…。すると、気づけば、その上に経験豊富な会計士が入ってきて、モチベーションが保てなくて、結局辞めてしまう…。

そういう流れ、我々も非常に多く目にしています。最近、若い会計士の方に対して転職を煽る人材紹介会社がすごく増えてきているので、転職市場の問題もあるかもしれないです。そこは真剣に考えていかないといけないですよね。

そうですよね…。たとえば短期的にIPOを経験できるというキャリアだけのためにスタートアップへ転職をして、それをステップにして次の上場準備会社に行くという方もいらっしゃいますが、おそらく、ほんの少し立場が上がるだけのような気がします。

もちろん、そのキャリアパスが悪いということではありませんが、上場後のビジネスの向上をボードメンバーの一人として一緒に考えていきたいのであれば、そういった路線ではないと思いますね。

会計士の方が、事業会社で一定以上のポジションに就くためには何が必要でしょうか。

社長・経営者に対して、きちんとあるべき姿を話せる、納得してもらえる、本当の意味での相談相手になれるというようなことだと思います。

だからこそ、まずはベースとしてしっかりとした経験値や知識を持つことが重要です。

たしかに、事務スタッフポジションで事業会社に転職をされても、なかなかそうはなれないですね。それであれば、監査法人でしっかりと地肩を強くした上で転職された方が、現実的な気がします。

そうなんですよね。先ほど柳橋さんもおっしゃっていましたが、若い会計士に転職を煽る会社が本当に増えてきたと思っています。ただ、会計士本人のことを冷静に考えれば、未熟な経験のうちに事業会社に行ってしまうと、使われるだけになってしまうと思うんです。

どの世界でもそうだと思いますが、特に、会計士の方の場合、ある程度のところまでは頑張って経験を積まないと、せっかく取得された資格が勿体ないことになってしまうかもしれないですね。

おっしゃる通りですね。やはりマネジャークラスになれば、IPOの場合は社長と直接話をする機会も増えますし、その中で社長が考えていることやどういったものの言い方をすれば理解してもらえるのか、数字はどうか、組織はどうか等、経営目線でのやり取りが増える分、格段に経験値は上がります。

我々の立場ですと、上場に向けてどうあるべきかという話になります。仮にCAOなどを目指すのであれば、ある程度の経験を監査法人で積んで、社長・経営者にしっかりと納得させられるだけの経験や知識を持ってからの方が良いと思います。

監査法人の立場から、経営者にはっきりと進言ができるようになってからでも遅くない(むしろその方が良い)ということですね。

最近は起業家の年齢も下がってきているので、社長が28-29歳であれば、監査法人で6-7年経験すると、まさに対等な関係になるような気がします。単に経験をするというだけではなくて、実際にスタートアップ経営者とコミュニケーションを取る量を増やしていくべきだと思いますね。

経営者はどういったことで悩んでいるのか、どういったことに関心を持っているのか、そのうえで経営者に対して何をしなくてはいけないのかなど、考えながら実行に移していくことで、様々な学びがあると思いますし、それがご自身のナレッジに変化していくのではないでしょうか。

このお話は、会計士の方を採用しようとしている経営者の方々にも伝えられたらと思いますし、会計士の方々にも理解していただきたい内容ですね。

一般論として、2~3年で辞めてしまうと、「監査法人で何を経験したの?」ということになります。採用側が何を期待しているかにもよりますが、あまり多くの役割を任せられないのではないかとも思います。

ミスマッチになる可能性が高まりますね。

そうですね。

会社側としては、「会計士だから何でもできるだろう」と思って採用したものの、「あまり経理担当と変わらない」と見られてしまうリスクもありますし、逆に転職した会計士の方からしても、それなりのポジションで活躍できると思いきや、気が付けば「使われるばかりだ…」という可能性もありますね。

たとえばIPO準備中の企業に入り、監査対応はできるだろうと思われていて、結果的に社長が満足できるレベルでなかったり、会社として取り組むべき問題も社長とのミスコミュニケーションによって浸透できていなかったりといった話はよくありますよね。

会社自体に改善すべき点がたくさんあるのにもかかわらず、社長が全て丸投げという場合、当然管理部側だけで片付く話ではないので、しっかりと社長や他の経営陣に提言をしながら、推進していかなければならないと思います。

実力不足がゆえに、なかなか社長に聞き入れてもらえないといった方も多いですし、むしろそれを会社や社長のせいにしてしまう方も少なくないと思います。

たしかにおっしゃる通りですね。支援側の坂井さんから見ても、この経験値だと厳しいと感じる会計士さんは結構いらっしゃいますか? 

残念ながらそうですね…。我々としては会計士がいると、話した内容を社長に通訳して、会社の中で旗振り役として推進していただけると思うので、本来は期待が持てるのですが、そこがうまくいかず、「監査法人側から直接社長に説明してください」という話までされてしまうケースもあります。そうなってしまうと、その方の役割自体が不透明になりますし、社内での必要性がどんどん薄れてきてしまうと思います。

会計士の本来あるべき姿とは何でしょう?坂井さんなりのお考えを教えてください。

公認会計士法の第一条には「品位の維持や、公正かつ誠実に業務を行うこと」が書かれています。

いわゆる人格者として、経営陣に対して、コンプライアンスやガバナンスの必要性をきちんと説明し、且つ、納得していただくというのが、会計士の最も担うべきところだと思っています。私ももちろんそういうつもりでお話させていただいていますし、事業会社側にいらっしゃる会計士の方も、経営に近ければ近いほど、そこが一番重要になってくるのではないかと思います。

人格者であれということなのですね。

そうですね。常にそういう意識で業務に取り組むべきだと思っています。加えていうと、監査法人では、とても多くの会社に関与しているため、その中で、時には会計面での不正が起きたり、(ガバナンスが上手く構築できずに)従業員による不正が起きてしまうという会社を見ることもあります。

もともとの会計の知識のみにぶら下がることなく、そういった一つ一つの経験を糧にして、より説得力のある提言を行っていくことが会計士の役割かなと思います。

この資格を持っている意義を全うし、社会に貢献するということが、会計士の使命ではないかなと思いますね。

本日は素晴らしいお話、誠にありがとうございました。

こちらこそありがとうございました。

有限責任 あずさ監査法人 執行理事 坂井知倫氏1995年 朝日監査法人入社(現 有限責任 あずさ監査法人)、2008年パートナーに就任。
企業成長支援本部のメンバーとして大小様々なベンチャー支援に長年携わり、現在は執行理事の役割も担う。