【インタビュー】株式会社ほぼ日 - ハードワークを支えた「助け合いの精神」を醸成できた背景とは?(2/2ページ) - Widge Media

【インタビュー】株式会社ほぼ日 - ハードワークを支えた「助け合いの精神」を醸成できた背景とは?(2/2ページ)

記事紹介

2017年3月16日に東証JASDAQへ上場を果たした株式会社ほぼ日
IPOへ導いた同社の精鋭チームに、これまでの足跡と今後の抱負を伺った。

※インタビュアー/株式会社Widge ゼネラルマネージャー 山岡直登

<苦しかったエピソード>

IPO準備過程での苦労話を聞かせてください。

井澤:基本的にはこれまで経験のない新しい仕事がほとんどでしたので楽しかったのですが、Ⅰの部を仕上げていく時は辛かったですね…。

上場審査中に財務局、東証の方と文言の修正を細かく指摘されたのですが、そのやりとりの過程でコミュニケーションがスムーズに行かなくなってしまって…。担当を変えたほうが良いと言われた時は、家に帰って泣きましたね(笑)。結果的に、多忙な篠田に一時的に窓口になってもらっていたので、篠田への申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

具体的な指摘内容や、やりとりはどういったものだったのですか?

井澤:私も初めての経験だったので、東証や財務局がどういう内容を求めているのかを把握せずにやりとりしていたことが悪かったのですが、先方としては、誤解するような余計な説明は避けて、この書類に求められていることを端的に必要な書き方で記載してほしいという指摘でした。

一方で、会社側としては、数字部分では表せない定性的な部分も、読んで頂く方に伝えたいという思いがあり、そこで食い違いが生じていました。あとは、3.11の震災後、寄付というかたちでではなく、新しい事業を産むことで東北の復興支援につながればと考え、子会社を設立しまし。その位置づけを説明するのも苦労しました。出向社員もいましたので関連当事者取引関連の議論もありましたね。 

初めての経験となると、要領やポイントが分からないので、外部機関とのやりとりは苦労しますよね。他の方はいかがでしょうか?

樋口:私はさきほど話に出たシステム変更の時期に、決算やいろいろなタスクが重なって物理的に大変だった記憶があります。

 

あとは、証券会社から数百の質問に答えるという作業があるのですが、担当している売上げに関する質問以外にも、商品の成り立ちからさかのぼって資料やデータを引っ張り出してまとめるということをしていたので、楽しい部分も多かったのですが、大変といえば大変でしたね。入社して日が浅いタイミングということもあったので、どこに必要なデータがあって、誰が詳しいのかが分からない…といった苦労もありました。

田路:僕は、主に二つあるんですけど、一つは東証審査の時期が年末年始をはさむタイミングだったので、営業日数が少ないこともあって、提出期限までに限られた日数の中で対応するというのがとても難しかったですね。

管理部門のミーティングも、全員がオフィスに揃って集まる時間がなかなか取れなかったので、休日にオンラインのビデオチャットでつないで打ち合わせをしていましたよね。

 

井澤:そういえば、僕も外でWi-Fiつながるところを探して、道端でスマホ片手に打ち合わせしてましたよ(笑)。

忙しい時期に大人数が集まる機会を作るのは難しいですからね。

田路:でも、それが可能になっていたのはチームワークの良さがあったからですよね。

本当にそう感じます。 

 

田路:もう一つは、当時、常勤監査役を務めていた方が、上場承認がおりた直後に亡くなられてしまったんです。非常にショックでした。

実務面では、篠田が東証に呼ばれるなどしたため、その間、代わりにロードショーで3コマくらいプレゼンをしました。役職者でもない私がロードショーで大役を務めることは非常にプレッシャーでしたが、糸井からのフォローやアドバイスもあり、何とか乗り切ることができました。

菊地:僕は入社して浅かったので、IPOというよりは、日常の経理業務や月次決算をメインに担当をしていました。田中と井澤にIPO準備に専念してもらうために、自然とボリュームが多くなっていったということはあるのですが、一人で抱え込むというよりは、チームで協力しながらという風土だったので、個人の苦労はそんなになかったと思います。

 

太田:私は、審査の中で、証券会社や東証に予算の部分を説明する役割だったのですが、佳境を迎えていたため、絶対に失敗できないというプレッシャーがありました(笑)。それまでの過程で、糸井を始め、みんなが苦労して会社の魅力を伝えている中で、自分のパートでこけられないなと(笑)。予算の出し方も、普通の会社とは異なる独特なやり方ということもあるため、きちんと理解してもらえるかが不安でしたね…。

 

趙:たしかに各々責任を持つパートがありましたね。証券会社審査の最初に糸井が「なぜ上場をしようとしているのか」をプレゼンしたのですが、その想いや完璧なプレゼンを聞いていたメンバーはもちろん、証券会社の方々にも非常に魅力を感じて頂き、応援モードの雰囲気を作って頂けたので、だいぶ進めやすくなったのですが、一方で、これで失敗するわけにいかない!と自分のパートでのプレッシャーはどんどん大きくなっていったかもしれないですね(笑)。

中原:私は育休から復帰したら、だいぶ上場準備が進んでいたという状況でした。月次決算を対応しつつ、東証からの質問に答えることも担当していたのですが、時短勤務でもあったので、限られた時間の中でボリュームの多い仕事をこなすということは大変でしたね。

当時は、リモート作業ができなかったので、オフィスでいかに集中してやるかという感じでした(笑)。あとは、子供の夜泣きがひどかったので毎日眠かったですね…(笑)。

とはいえ、みなさんにいろいろと助けて頂けたので、管理部のメンバーには本当に感謝です。

 

趙:私は、内部監査や規程類含めて会社としてもやったことのない地盤整備のような仕事が多かったのですが、私自身、上場準備や上場経験がなかったので、正解のない中で形を作るということが難しかったですね。

審査期間も大変な面はあったのですが、資料を作成する上で、改めて会社の歴史を知ることができたり、仲間が作ってきた仕事のおかげで今があることも再認識できたということもあったので、苦労もありながら、とてもやりがいがありました。

あとは、年末年始に家族旅行でハワイに行ったのですが、冬休み明け直後の東証審査がちょうど自分の労務と内部監査のパートだったんです。なので、ハワイで徹夜して対応をしていました(笑)。つらかったですけど、今となってはとても良い思い出です(笑)。

 

小竹:私は、前職で上場準備の経験があったのですが、会社のカラーによって進め方が異なるので、その点はいろいろと学びになりましたね。

規程に関していうと、前職では管理部門で作ってそれを現場に落とし込むというようなやり方だったのですが、ほぼ日は、規程一つをとっても、会社に合うようにお手製で丁寧に作るスタンスだったので、進め方も異なりました。

いわゆる「お作法通り」にやればスケジュールがずれることはないだろう…という目算が大きく崩れましたね(笑)。先ほどの話にもありましたが、ちょうどその時期に、引っ越しや社名変更なども重なっていたので、非常に大変でした(笑)。

 

田中:私は、上場に向けた社内のワークフロー整備とシステム導入がメインだったのですが、ワークフローの部分は、「こういうフローにしたからやってくださいね」と言って投げるだけでは、不満も出てうまく回らないので、現場の方々にどういうメリットがあってなぜこういうフローにしたのかというのを理解して頂くために、しっかりと運用をフォローしていくように心がけました。

特に、システム部とはよく喧嘩しましたけど、良い経験でした(笑)。

井澤:そういえば、採用媒体の取材で、田中さんとシステム部で喧嘩しているところが載っていましたよね(笑)。

趙:そうだった!その部分も載せるんだとみんなで話してましたよね(笑)。

 

田中:取材が来ているのが分かっていたので、ちょっとは抑えていたんですけどね(笑)。

<大切にしていたこと>

IPO準備の過程で大切にしていたこと、心がけていたことはありますか?

田中:よく他社さんのIPOの話を聞くと、とにかく上場準備が大変で、上場した後はその反動で仕事を辞めたくなるみたいになる方が多いという話を聞いていました。弊社ももしかしたらそうなってしまうのかな?という心配も少しあったのですが、管理部メンバーは身体ともにみんな元気で、上場後も良い状況を継続できています。

振り返ってみると、メンバー全員が協力・助け合いの精神を持っていたから楽しく仕事ができていたんだと感じています。

 

なぜそういった環境を作れたのでしょうか?

田中:メンバーの人柄ももちろんですが、全社のミーティングの時に、糸井自ら「なぜ上場をしたいのか、するべきだと考えているのか」ということを、定期的に話してくれていました。ですので、社内で上場準備している管理部が浮いてしまうこともなく、むしろ応援してくれる雰囲気があったので、全員のモチベーションを高く維持できていたのではないかと思います。

田路:それは本当に大きかったですよね。上場は目的ではなく、手段だっていうことをよく話していて、上場後の会社の世界観を社内全体がイメージできていたことはとても大きかったです。

趙:管理部にとって上場準備は「高地トレーニングだ」ということも言ってましたよね。

全員:それ言っていましたね!

 

代表自ら、定期的に上場への想いを語るという場は大切ですね。

全員:本当に大切だと思いますね。

特に意識をされていたことなどございますか?

趙:これは管理部みんなが意識していたことだと思いますが、社内における他部署とのコミュニケーションは気を付けていたと思います。

他社さんのお話で他部門との壁ができるというのを聞いていたこともあり、糸井含め、管理部のメンバーもそういった状況にはならないようにしようという話はしていました。

なので、他部署とのコミュニケーションの際には、背景含め、できるだけ分かりやすくメリット含めて丁寧に伝えるということを意識していました。

井澤:そうですね。あと、当時、管理部が何をやっているかを可視化しようということで、上場までのスケジュールを管理部チームの壁に大きく貼りましたよね。

 

田中:そうすることで、今の管理部は何をやっているのかということを、他部署の方にも理解してもらうことができて、そこからコミュニケーションが生まれたり、応援の言葉をもらえるようになった気がします。

コーポレート業務の可視化は良いアイデアですね。

小竹:私は、そもそも総務・人事の在り方として、総務は「他の人がやらないことを全てやる」、人事は「人にかかわることを全てやる」ということが仕事だと思ってるので、そういった意識を持つということは常に心がけていました。

 

趙:あと、気を付けていたこととしては、審査質問への回答をはじめ、外部の方々から、会社の文化や風土などを聞かれる際に、できるだけ背伸びをせずにありのままの状況をお伝えすることを心がけていました。ありのままのほぼ日を応援して頂きたいという思いがあったので、背伸びをせず、良く見せようとせずに対応しようと。

そのお考えも、ほぼ日さんらしさが出ていますね。 

IPOを目指す企業へ

IPO準備を進めているコーポレートチームの方々に向けて、何かお伝えできることがあれば、お願いします。

全員:とにかく、上場準備中にシステム変更、引っ越し、社名変更はしないということですね(笑)!

 

田中:特にシステム変更は本当にお勧めしません(笑)!

菊地:具体的なアドバイスですね(笑)。

やはり相当大変だったのですね(笑)。他には何かアドバイスはありますか?

井澤:実は、上場準備をスタートする前に、管理部メンバー全員で、上場準備を経験した会社の管理部門の方々に何社かインタビューをさせて頂いたんです。どんなことを気を付けたら良いかや、全体の進め方など、不安だったことをいろいろと聞くことができたので、非常に役に立ちました。

これから上場準備を始められる方も、直近でIPOを経験した会社の管理部門の方々に話を聞きに行くというのはお勧めです。

 

趙:それは間違いないですね。我々も当時、いろはの「い」から聞きに行きましたからね。実務についての具体的なところも細かくお聞きできたので、非常に参考になりました。

田路:経験がないために、イメージが全くわいていなかったのですが、このインタビューを通して、いろいろと想定ができたのはとても大きかったです。

樋口:ネットの情報でも上場準備の記事などはありますが、表面的な内容も多いので、経験者からより具体的な実務や経験談を聞けたのが本当に良かったですね。

 

確かに、取り掛かる前に、IPOを経験された方々にお話お伺いできたのは大きいですね。

その他はいかがでしょうか?

田中:他社さんのお話を聞くと、管理部門の人員を最低限の人数で取り組まれる会社様も多いと聞きます。人件費を抑えて効率化をはかることも大事ですが、個人的には今の人数や体制だからこそ、みんなが明るく、心身ともに健康で乗り越えられたという実感があります。上場すると四半期決算やIR含めて業務量も増えていくので、リスク管理を考えても、ある程度余裕のある組織づくりも重要なのではないかと思いました。そういった意味では、弊社は非常に恵まれていたので、経営陣に感謝です。

コーポレートチームの重要性を、経営陣がとても理解されていたということですね。

小竹:私は、管理部門の上場準備スケジュールや業務内容を可視化しオープンにすることであったり、なぜ上場を目指しているのかということを全社員に定期的にアウトプットするということが、とても大切だなと感じました。

 

前職の上場準備を担当していた際は、上場準備室は隠密組織のような形で、社内のコミュニケーションも少なかったのですが、オープンにすることで社員の理解も深まり、上場準備も進めやすくなると思います。

上場準備の進捗や、コーポレートチームとしてのミッションを全社に可視化するということは、様々なメリットがありそうですね。

田路:ロードショーの際に感じたのですが、機関投資家やアナリストは、意外と数字よりも理念やビジョンを聞きたいんだなということですね。主幹事からも数字面の説明が大事と言われており、もちろん成長性を裏付ける数字はとても大切だと思っていたのですが、どういう思いで会社を創って、今後はどういう会社になっていきたいのかという部分を経営者から直接聞きたいという場面がとても多かったです。

 

菊地:僕は特にこれといった内容ではないですが、忙しい時も思い詰めずに楽しむことは大切だなと感じました。隣りの席で、井澤が電話口で怒られて険悪なムードになった時も、冗談を言ってなるべく和むように心がけていましたから(笑)。

菊地さんのようにムードメーカー的な存在は大きいですね。

太田:そういえば、「管理部門チームは仲良いよね」とよく他部署から言ってもらえていましたね(笑)。そういう意味では。忙しくても元気に仲良く仕事ができている管理部門チームは本当にありがたいですね。

 

秘訣はありますか?

趙:良くも悪くも、上場準備の期間が比較的長かったということもあって、みんなでしっかりと土台作りができていたということは言えると思いますね。

田中:経理チームは決算が終わった後など、定期的にみんなで食事に出かけてコミュニケーションを取っていたので、それは良かったかもしれないですね。

菊地だけあまり食には興味ないので、モチベーションにつながらなかったかもしれませんが…(笑)。

菊地:僕、小食なんです…(笑)。

樋口:部署をまぜるかたちで定期的にくじ引きで席替えをやって、私たちの席がバラバラだったということも良かったかもしれないですね。

一長一短はあるかと思いますが、同じ席にずっといるよりも、何か話さなければいけないことがあるときに、移動をして話に行くスタンスって、案外良いなと思いました。

仕事の話以外も、他愛もない話やプライベートの話など話が弾むことが多かったので。

田中:確かにずっと同じ席に固まっていたら仲が悪くなっていたかもしれないですね(笑)。

中原さんはいかがですか?

中原:個人的にとても助かったのが、管理部門の資料や仕事の進捗状況を一つのツール(ドロップボックス)に集約して、みんなで共有できていたことです。

私の場合、時短勤務ということもあって、時間が制限されていたり、急に子供が熱を出して帰らなくてはいけないなどの状況になった際にも、翌日にドロップボックスを見れば、みんなの仕事の進捗が分かったり、資料の共有ができていたので。

趙:一方で、みんなの仕事の進捗が一目瞭然だったので、仕事が遅れているとプレッシャーになりましたけど(笑)。 

<今後の目標>

今後のビジョンがあれば教えてください。

一同:とにかく、動きと変化の多いほぼ日の動きをささえて、会社の成長を支えたいというのが全員一致して考えていることです。

また具体的ではないのですが、当社は商店街のような会社なので、後ろの方から各商店を盛り上げたり、街に新しい空気を送り込むような手伝いができるようになりたいです。

株式会社ほぼ日人事総務:趙啓子、小竹由佳乃氏
経理:田中朋子、井澤知士、田路修平、菊地俊介、中原真理子、樋口理恵氏
商品事業部・IR担当:太田有香氏
秘書:倉持奈々氏

※写真(上・左から)倉持奈々氏/太田有香氏/樋口理恵氏/田路修平氏/菊地俊介氏/井澤知士氏
(下・左から)中原真理子氏/田中朋子氏/小竹由佳乃氏/趙啓子氏