【インタビュー】株式会社ロコンド/田村淳氏・長谷川貴之氏 - 大切にしたのは啓蒙。理解がないと、ルールが増えて、不満につながる(2/2ページ) - Widge Media

【インタビュー】株式会社ロコンド/田村淳氏・長谷川貴之氏 - 大切にしたのは啓蒙。理解がないと、ルールが増えて、不満につながる(2/2ページ)

記事紹介

2017年3月7日に東証マザーズへ上場を果たした株式会社ロコンド
IPOへ導いた同社の精鋭チームに、これまでの足跡と今後の抱負を伺った。

※インタビュアー/株式会社Widge ゼネラルマネージャー 山岡直登

<苦しかったエピソード>

 IPO準備過程での苦労話を聞かせてください。

田村:そうですね、開示書類でいうと、最後の目論見書の作成は長谷川がメインで対応しましたけど、ここはだいぶ大変だったと思いますね。

長谷川:そうですね。目論見書の作成において、代表の田中、証券会社、東証、財務局と4つの意見をうまく調整して書類に落とし込まなければならないのですが、それぞれの主張に対して、納得感をもって取り入れていかなければならないので、とても大変でしたね。田中としてはこう見せたいという強い思いがある一方で、証券会社、東証、財務局それぞれの意見もあり、間に立っての交渉にだいぶ骨が折れました(笑)。

田村:プッシュバックすべきところは、理由含めて納得してもらいながら、なるべく自社の見せたいように交渉するということをやっていたので、苦労も多かったと思いますね。

長谷川:そもそも弊社は、「決まってから走る」というよりも、「走りながら考える」というタイプの会社なので、方針が途中で変わることもよくあるんですよ。それ自体は健全だと思うのですが、その度に説明をする作業が増えていったので、ボリュームとしてはだいぶ大きかったですね。

なるほど、このやり取りはだいぶマンパワーが掛かりますよね。他には何かありますか?

長谷川:その他ですと、細かいところですが、各機関によって、Wordの修正履歴をつけてほしいであったり、Excelで修正箇所を送ってほしいであったり、それぞれ作成ツールがバラバラなので、ここも地味に大変でしたね(笑)。

田村さんは、CFOとしての苦労話などございますか?

田村:そうですね、CFOの立場として言うと、当たり前なのですが、売上げがなぜ伸びるのか?利益がなぜ伸びるのか?という事業計画の蓋然性を裏付けるバックデータを整備していくのが大変でしたね。

弊社のようなビジネスモデルの場合、会員が増え、商品が増えていけば、売上げは伸びていくのですが、具体的にどうやって会員や商品を増やすのか、どこのジャンルで、どういうお客さんを増やすのかなど、そこまで詳細な情報やデータが無かったので、苦労をしましたね。

確かに、新しいビジネスモデルだと情報が少ないですからね。

田村:EC事業であれば、例えば会員数・アクティブ率・客単価等を重要なKPIとして設定すれば売上管理ができそうに見えますが、弊社の場合、これらをKPIとして設定することは適切ではないと思っていたので、それを証券会社に納得して頂くのも大変でしたね(笑)。証券会社としては、当然これはKPIとして設定するべきだという考えがあったので。

最終的には、KPIとして設定してPDCAを回しても意味のない(うまく機能しない)ものになるので、そこは何とか納得をして頂きましたね。

そういった裏話もあったのですね。

長谷川さんは、お二人のマネジメントをしながら、ご自身でも幅広く実務を対応していたと思います。大変ではなかったですか?

長谷川:大変は大変だったのですが、倒れるほどというわけではなかったですよ(笑)。

他のメンバーは、IPOや開示の経験こそありませんでしたが、仕訳や入力作業などの日常業務は問題なく対応してくれていたので、非常に助かりました。

私自身、プレーヤーとしては、前職でも上場企業で開示資料の作成などの経験があったので、そこまで大きな負担にはならなかったです。

長谷川さんのように、開示実務の経験ある方がいらっしゃるというのは本当に大きいですよね。

田村:本当ですよね。やはり上場企業での経験を持つ人がいるというのは全然違いますね。特に開示実務は、経験の有無で大きな差があると思います。

長谷川は有価証券報告書などの作成経験もあったので、Ⅰの部の作成など、非常に助けられましたね。

 <大切にしていたこと>

 IPO準備の過程で大切にしていたこと、心がけていたことはありますか?

田村:社内的には、当初から啓蒙活動はしっかりやっていこうということを意識していました。上場とは?から始まり、なぜ内部管理をしっかりしなければならないのか、労務管理の重要性、情報管理の徹底など、社員には上場に向けての理解を高めてもらいたかったので、当初は四半期に一度、全社の勉強会なども実施していました。

上場への理解がないと、ルールが増えるばかりで、現場からの不満も出てくると思います。啓蒙活動は大切ですね。

長谷川:おっしゃる通りですね。あとはIPOするためのいろいろな規定やルール作りをやりすぎないということは意識していましたよね。

田村:あまりに縛りすぎて、ビジネスを伸ばしていくうえでの障害になってしまっては本末転倒ですから。会社は成長フェーズによっていろいろと変化をしていくので、都度、柔軟に合わせていくというバランス感覚が重要です。

まさにその通りですね。他には何かございますか?

田村:事業計画の精度を高めるというのも意識していました。

何か独自の施策などはされたのですか?

田村:当初は、事業計画を2週間に1回アップデートをするという程度だったのですが、最終的には、デイリーで管理する体制にまで持っていきました。デイリーで管理していれば計画に対してビハインドしそうなのが分かった段階で、早期にアクションが取れるので、営業やマーケティングもやりやすくなったと思います。

長谷川さんは他に何かございますか?

長谷川:当時は日々の業務以外に様々なタスクがあったので、振り返っている暇がないほどの状況でした。次から次へと仕事が降ってくるので。その中で、時間管理を徹底したり、できる限り仕事は溜め込まないように進めていたりしながら、プラスアルファの仕事が出てきても、都度対応できるように意識していました。

素晴らしいですね。

長谷川:ただ、事実として、IPO準備期間よりも、上場した今の方が忙しいかもしれないです(笑)。短信などの他に、適時開示の数が多いので。

田村:確かに、弊社はいろいろな取り組みをしているので、何かをやろうとするときに、当たり前ですが適時開示の要否を含めて検討しなければならなく、必要であれば、東証や財務局へも確認しなければならないのですが、取り組みのスピードがかなり速いので、さらにスピードは求められています。

御社は最低限の人員で対応をされていたと思うので、だいぶ多忙を極めたと思いますが、体力的には問題なかったのですか?

長谷川:そうですね。もちろんスポットで忙しい時は帰りが遅くなることもありましたが、法令通りしっかりと休みも取っていたので、体力面は大丈夫でしたね。

やはり、仕組み化ができていたのが大きかったと思いますし、メリハリをもって業務を進められていたので、全く問題なかったです。

田村さんは、外部機関との交渉で意識されていたことなどございますか?

田村:特には無いですが、しいて挙げるとすると、事業計画を背伸びしないということですかね。あまり大風呂敷を広げてしまうと、それが叶わなかった際に大きく信頼を損ねてしまうので、この点は意識していました。事業計画に基づいて様々な評価を受けるにあたって、一度信頼を失くしてしまうと、取り戻すのが大変ですからね。

 <IPOを目指す企業へ>

 IPO準備を進めているコーポレートチームの方々に向けて、何かお伝えできることがあれば、お願いします。

田村:そうですね、先ほど少しお話しましたが、社内ルールを作りすぎないこと、労務管理をしっかりやること、セカンドオピニオンを持っておくことなどは経験を通して大切だなと思いました。

セカンドオピニオンについては、自分の専門分野ではないところで相談できると良いと思いますね。私の場合は会計以外の分野で、例えば主幹事証券会社以外の証券会社や知り合いのCFOなどに相談していました。

セカンドオピニオンは確かに大切かもしれないですね。

田村:あとは、弁護士以上に司法書士の先生にとてもお世話になったので、司法書士が身近にいると良いかもしれないなと感じました。

人にもよるかと思いますが、弁護士は、こちらからの相談に対して、一般論での回答が多いのですが、司法書士は、登記法上の観点からにはなりますがその時の相談内容や状況に沿った具体的なアドバイスを頂けたので、非常に助かりましたね。

司法書士を活用されるということですね。

長谷川:あと、これは当たり前な話になってしまうのですが、経理という面でみると、日々の業務の積み上げじゃないですか。だからこそ、期日通りに、正確にしっかりと仕上げられるような体制づくり、仕組みづくりを推進していくことが大切だと思うんです。実際にそれを実践して、とてもうまくいったと思っているので。

日々の業務の積み重ねが、後々の結果に繋がりますよね。その他はいかがですか?

田村:IPO準備とは離れてしまいますが、採用に関しては苦労の連続でした。

設立当初はスキルや経験重視の採用を進めていて、会社理念への共感や、社風とのフィット感よりも、求める経験がマッチしていれば採用していたんですね。でも、それだと中途採用者がほとんど定着しないということが分かって。

当たり前なのですが、スキル・経験があっても、ベクトルが同じ方向を向いていないと別れてしまうんですよね。ベンチャーの採用にとって、事業共感や社風とのフィット感は特に大切ですよね。

<今後の目標>

今後のビジョンがあれば教えてください。

田村:ビジョンとは異なってしまうかもしれませんが、組織のボトムアップはとても考えています。今のメンバーをもっと引き上げて、今の業務よりも、どんどん幅広い経験を積んでほしいなと思っています。

私の大きな役割だと思っていますし、そういった教育・育成については、今後しっかりと実施していきたいですね。そして、少数精鋭ながらも、強固でより良い組織にしていきたいです。

長谷川:まず目先の話になりますが、今年の5月に株主総会があるのですが、その運営を初めて私がメインで対応することになっています。初の経験ということもありますが、様々な方がいらっしゃる中で、しっかり対応をしたいなと思っています。

先ほどの田村の話にも繋がりますが、コンパクトな組織だからこそ、まずは自分の持ち場を完璧にこなし、そのうえで、どんどん業務領域も広げていきたいですし、自分自身の経験値も上げていきたいです。

管理本部の組織が強くなっていけば、会社のベースが強固になるので、企業価値の向上に繋がります。そこを意識して、日々精進していきたいと思っています。

株式会社ロコンド取締役兼管理本部ディレクター 公認会計士 田村淳氏(左)
経理担当 アソシエイトマネージャー 長谷川貴之氏(右)
※2018年3月22日時点