【インタビュー】パナソニック株式会社 副社長執行役員 片山栄一氏(2/2ページ) - Widge Media

【インタビュー】パナソニック株式会社 副社長執行役員 片山栄一氏(2/2ページ)

記事紹介

メリルリンチ日本証券のマネジングディレクター(調査部長)から、パナソニック株式会社に転じ、本社役員・事業会社社長と、それぞれの役割にて大胆な改革を牽引する片山栄一氏。
幾度もランキングトップに輝く著名アナリストという立場から、日本を代表するグローバルメーカーの経営推進役に徹し、2023年5月からはJ.フロントリテイリング株式会社の社外取締役にも就任するなど、常にチャレンジを敢行している同氏。
極めて稀なキャリアを歩む同氏から、その足跡を通じて得られた数々の知見を伺った。

※インタビュアー/株式会社Widge 代表取締役 柳橋 貴之

経営の視点で、特に意識されていることはございますでしょうか?

これはもう、社員との信頼関係に尽きます。

米国ハスマンには月に1回、1週間のペースで訪問していますし、意識して直接対話をしてきました。細かい決め事も日本だけで勝手に決めず、丁寧に米国トップやシニアマネジメントと会話することを踏まえて具体的な決断をする形態を継続しています。

また、EOS(従業員満足度)の改善にも全力で取り組みました。

特にEOSの数字が分社発足前にグループ全体で見ても最下層グループにあった、国内コールドチェーン事業の改善には多くのエネルギーを費やしました。

1回あたり5人のラウンドテーブルを合計で100回以上やりましたし、これは大変でしたね…。

決して回数が大変だったということではなくて、やはりそれぞれの人たちから見た風景が違うじゃないですか。毎回巨大なプレッシャーを抱えて向き合っていました。

ただ必死に自分の思いを直接伝え、皆の思いを直接聞く、その繰り返しです。

もちろん実現できる提案にはすぐに反応し、実行することが最も大事なことです。

まだまだ不十分ですが、国内事業のEOSは数字的には劇的な改善が実現しました。これも改善努力を続けます。

日本を代表する著名アナリストであった片山さんのキャリアから、「EOSへの挑戦」という想像はできませんでした。

経営って、様々なチャレンジをすることを混ぜながら進んでいくものですよね。

でも順番は大事です。チャプター1、次はチャプター2、その次にチャプター3と。

1がなくて2や3はありません。

だから従業員満足度の改善は、一番初めに実現しないといけない領域です。

前回の事業会社社長の時も同じでした。

1章を飛ばして2章の話をすると、従業員はついていくことが難しくなります。

自らのキャリアとこうした取り組みでの成果に何か関係があるかといわれると、そういうものではないと思いますよ。金融出身の人間がそういう定性的な数字を気にすることに意外感を持たれるのも理解ができます(笑)。

しかし、私からするとむしろ当然のことなんです。気持ちの問題を問われているのに、その課題に対して、理屈やロジックで向き合っていてはいつまでも課題は改善しません。

だからこそ、これをクリアできないとその次に行けないということを、誰よりも敏感に感じていると思っています。

素晴らしいですね。これまでの経営全般のご経験をもとに、2023年5月より、J.フロントリテイリングさんの社外取締役にご就任されました。現役役員が、他社の社外取締役に就任されるのは、これまでのパナソニックさんの歴史の中でも、だいぶ稀だと思います。

たしかに稀ですね。

社外取締役を兼務している方は何名かはおりますが、事業部門(事業企業)のトップとの兼務は私が初だと思います。

CCS社を担当するようになって、流通に関してだいぶ勉強をしました。それで、流通の面白さに引き込まれたんですよね(笑)。

そして、「全ての事業において、流通は、次の時代の先行指標である」ということを理解しました。

その中で、たまたまご縁があったということです。

大丸も松坂屋もパルコも好きなんです。性格的に、もともと興味を持てないところではできないですし、パナソニックもそうですけど、愛着が持てないところでは役割が果たせないと思っているので。

百貨店って厳しい業界だと言われているじゃないですか。余計にファイトが湧きますよね。そう言われれば言われるほど。

加えて、指名委員会等設置会社でもあるので、是非ともという思いで、お受けしました。

事業企業のトップを担いながら、他社の社外取締役を担うということに対しても、何かしらのお考えがあるということですね。

本社役員であった際に、社外取締役から見える風景ってどういうものなんだろうと、ふと思ったんです。

そして、いろいろと考えて、これは執行側にいる間に見てみなければと思ったんですね。社外取締役の貢献の仕方というのは、執行を兼ねているからこそできることがあるのではないかと。

今リアルで見えている風景は、仮に業界が異なったとしても同じです。

業界が異なると、社長が悩んでいる題材は、Jリーグ(プロサッカー)とBリーグ(プロバスケットボール)というような違いがあるかもしれないですが、プレーヤーを雇い、試合をし、相手に勝って、ファンを作り上げ、それで収益化するということは同じなんですよね。その意味では、私にしか持てない視点はきっとあるだろうと思ったんです。

もちろん、持ち込まない、持ち出さない、ということを徹底的に守るという前提ではあります。

しかし、考え方であったり、同じ経営環境をシェアしている経営者としての視点というのは、それなりに相互に還元できるのではないかと。

J.フロントリテイリングさんの社外取締役にご就任されるにあたっての決意などありますでしょうか?

自分の責任の重さと向き合いながら、どういう結果を出さなければいけないかということは、明確に胸に秘めていますし、常に考えています。

当然、会社のパフォーマンスに対して、社外役員として貢献できることが大半を決めるかと言えば、そうとは限らないと思います。単にマクロ環境の良し悪しでも株価は変動しますので。

ただ、少なくとも私が在任期間中もしくは退任後に、この決断が企業価値に影響するという仮説に対し、自分が向き合った足跡は堂々と説明できるような、そういう1年1年を刻みたいと。

その覚悟と強い緊張感を持っています。

社外取締役としてのご活躍も楽しみです。

J.フロントの中では、社外役員の中の1人ですが、何分の1という考えではなくて、しっかりと全体が活性化するような役割を、私なりに果たしていきたいと思っています。

素晴らしいお話、本当にありがとうございました。今後のパナソニックさんが非常に楽しみですし、J.フロントさんも非常に楽しみです。

精一杯がんばります。

パナソニック株式会社 副社長執行役員 片山栄一氏1989年慶應義塾大学経済学部卒業。
同年株式会社野村総合研究所入社。約9年間素材産業を担当した後、2000年MITでMBA取得。帰国後、野村企業情報株式会社を経て、2001年から野村證券金融経済研究所にて家電セクターを担当。
2010年メリルリンチ日本証券に入社。2012年より日本証券調査部長(MD)。2014年よりバンクオブアメリカ・メリルリンチのアジア太洋州地域調査本部副本部長を兼務。
2016年パナソニック株式会社入社、本社M&A担当役員。2017年4月よりパナソニックサイクルテック社長、6月よりパナソニックエイジフリー社長。2020年本社CSO。2022年4月よりコールドチェーンソリューションズ(CCS)社長。
2023年5月よりJ.フロントリテイリング株式会社社外取締役。