株式会社タイミー/取締役CFO 八木智昭氏 ― スタートアップの常識を覆すファイナンス戦略と前倒しの組織作り(2/2ページ) - Widge Media

株式会社タイミー/取締役CFO 八木智昭氏 ― スタートアップの常識を覆すファイナンス戦略と前倒しの組織作り(2/2ページ)

記事紹介

2024年7月に東証グロースへ上場を果たした株式会社タイミー。公開時時価総額は約1380億円と大型上場で、売り出し株式の約8割は海外投資家向けでグローバルオファリングとしても注目を集めた同社。上場前の2022年には183億円、2023年には130億円とスタートアップでは珍しいデットファイナンスでの大型調達も実現。これらを牽引した取締役CFOの八木智昭氏にIPOに至るまでとその後の取り組みについてお話を伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 山岡直登

上場まで振り返って今だから思う想定外だったこと、苦労したことは何かございますか。

グローバルオファリングという形態で上場していますので、英文目論書を作り海外の弁護士も入れて一番負荷がかかる形でやったので、そこは本当に大変でした。証券会社の時はグローバルオファリングのプロジェクトがほとんどだったので、具体的にやることや大変さは知っていましたが、事業会社側でいざ自分がやる立場となるとものすごく大変だと感じました。

また違う大変さがあるのですね。

例えば、目論書。日本語ですら分厚いですが、日本語版の目論見書と、さらにもっと分厚い英文の目論見書を作るので、作業量としては2倍以上になってしまいます。デューデリジェンスの審査も日本版と海外版の両方でした。スケジュールが同じ中、グローバルだと全ての作業が2倍以上かかるのと、日本ではあまりグローバルオファリングの事例も多くなかったので、実際にやってみると相当大変でした。ただ、希少な経験ができたのは良かったことかなと思います。

IPO準備の過程でCFOとして心がけていたことはありますか。

IPO準備はいわゆる作業みたいな、数多くのアクションプラン・タスクがあって、それを地道に一個一個潰してチェックして…などと思われがちです。そういった形も否定しませんが、きちんと本質的な意味を考えてやることがとても大事だと思っています。つまり、「審査のためにやらなくてはならない」「審査上これをやらないと通過できないから形式的にやっておこう」などとなりがちですが、それだとあまり意味がなく負荷しかかかりません。「どうしてこれをやる必要があるのか?」と考えることが大切です。

仰る通りです。

例えばサービスのオペレーションフローとか、タイミーのプラットフォームではどういった形でやっているのか審査で聞かれましたが、今のまま機能しているので大丈夫ですではなく、色々なポイントを言われた中で、さらにお客様にとって本当によい形になっているのかとか、安心して働けるかどうかをきちんと見直す良い機会になりました。審査で言われたことをミニマムでやるのではなく、審査に求められている以上にしっかりやろうということです。その審査がただのタスクではなく、自分たちのサービスをより改善させるために必要な論点やポイントの洗い出しをしてくれて、そのきっかけによりサービスとか会社の組織体制がよくなるようにできればというのは心がけていました。

本当に大事なことですね。捉え方次第で負荷にもなればやりがいにもなりますし。

かなり忙しい中でひたすら言われたことを潰し込む、タスクをどれだけやるかといったことが上場準備だと思われがちですが、審査においては全くやらなくていいものや、やってはいけないものを要求されることは一切ないので、むしろ示唆をくれているからこそ、その示唆に対して「自分の会社はこうしたい」と改善ができたらすごくポジティブですよね。

単なるタスク管理や作業で終わってしまうことなく、本質を考えるということですね。

こういう意義があるからやろうとなれば、捉え方が変わってくると思います。仕事の本質をみることができるとモチベーションも保てる気がします。

上場後のコーポレート組織の変化などについて教えてください。

上場後に大きく変わったということは特にありません。元々、経理・財務・法務と3つの役割がありましたが、上場を想定し、上場前にIRを新設しました。さらに、IR、広報は連携する必要があるので2024年11月から広報もコーポレート組織と一緒にします。

 上場前と後で八木さんのCFOとしてのミッションに変化はありましたか。

IRで投資家の方とお話する機会は多くありますが、根本的にやっていることはあまり変わらないと思います。強いてあげれば、一度原点に立ち返るために、上場した週末にタイミーを通じてアルバイトをさせていただきました。

え?!八木さんが自社のプロダクトを使ってアルバイトをされたということですか?!

そうです。実は入社して以来、定期的にタイミーを使って色々なところに働きに行っていまして、現場の状況をリアルに体験して経営の意思決定にいかしています。因みに、タイミーで働きにいった先で引き抜きされて、スキマバイトから正規アルバイトになって働いていたりもしています(笑)。

上場後に働かれたのはどういう仕事ですか?

飲食店で、皿洗いをしに行きました。焼肉屋さんで、トマトのヘタも300個くらい取りました(笑)。

現場を体験させていただき事業に反映させる、とても素晴らしいお考えですね。話は変わりますが、上場前に取り組んでいて良かったことはありますか。

未上場時、だいたい1年以上前からIRの採用や組織の立ち上げをしたことでしょうか。

かなり余裕を持たせたのですね。IRは上場直前ギリギリのタイミングや上場後に採用する企業が多い印象です。

上場後から組織作りや採用活動をするとリードタイムを含めて時間がかかってしまうと考えていました。IRの方にとっても、上場1~2ヶ月前や上場後にジョインするとあまり経験ができないままスタートとなってしまいます。未上場の段階から上場準備のプロジェクトにIRの方が携わっていると、会社をよく理解し、会社の強み・弱みをしっかり把握することができます。会社の成長戦略を描いていくプロジェクトにも関与することや、未上場の段階から投資家との接点を多く持つことも可能です。グローバルオファリングで通常の2倍以上の負荷がかかってしまうこともあり、早めの組織化を意識しました。

現状IRは何名ほどいらっしゃるのでしょうか。

私以外で3名です。2名採用し、既存メンバーの配置換えで1名加わりました。

IRは非常に重要だと思いますので、上場後に備えて上場前の早期に採用するのはポイントですね。

未上場時から投資家の方とたくさんお会いしたことはとても役に立っていると思います。海外だとタイミーのようなビジネスはそもそもありません。同じようなタイミングで上場している会社はもちろんありませんし、未上場でもそこまで大きな会社は無いです。面接無し、履歴書提出不要、スマホだけで完結し、テキパキ働く…やはり海外の方からすると「そんなことあり得ないでしょう」と思われるようです。その国の文化もありますが、なぜこのビジネス自体がワークしているのか、ビジネスの特徴、ユニーク性など、未上場の段階でインプットができます。IPOの時に「はじめまして」だと恐らく誰も理解していないだろうと思います。今、日本ではCMも含めてメディアに取り上げていただいていますが、海外だとわかりませんからね。

海外投資家へのビジネスの啓蒙や事業がしっかりとワークしていると伝えていくことが大切ですね。全てにおいて戦略的に前倒しで動いていらっしゃるのはとても素晴らしいと思います。

ありがとうございます。

上場された今、これからCFOとしてどういった戦略でやっていきたいか、お話いただける範囲で教えてください。

上場時は公募でのファイナンスはしていませんし、現状ファイナンスを多くやっていくわけではありませんが、IRの点でお話すると、タイミーのビジネスモデルがユニークであるがゆえに、なかなかスーッと1回で理解していただくことが難しいです。より地道に投資家さんにお伝えしていかなければなりません。

また、タイミーのやっていることや目指したい世界観は、人によっては異なった視点で捉えてしまう方もいるのかなと思っています。日本でタイミーがこのビジネスをやっている意義、タイミーが目指したい世界観の中で、働き手の方が自由に働きたい、いわゆる働く障壁を取り除いて、色々な機会に触れることができるようになってほしいなど、「働く」を通じて、その人が「自分はこれほど人生のポテンシャルがあった」とか「こんなに向いている仕事だった」と見つけることをミッションに掲げているので、そういった世界観を作りたいというメッセージを投資家さんにお伝えしていきたいです。

世界観をしっかりと伝えていくということですね。

そうしないと「派遣会社と何が違うの?」「求人広告と何が違うの?」「人を紹介するビジネスと同じでしょ?」などと既存のビジネスモデルと同じように見られてしまいます。タイミーとしては、提供している価値も、大切にしていることも、ビジネスモデルも全く違うので、そのあたりを理解していただくように啓蒙を根気強くやっていきたいなと思います。

伝え方、啓蒙の仕方で工夫されていることはありますか。

伝え方は正直なかなか難しいですよね。アルバイト自体あまり馴染みがない投資家さんも多いので。そうした背景もあり、私は現場でアルバイトをさせていただいています。このような現状で、人手不足で、お客様は相当お困りですよと。私も正規アルバイト先で翌月のシフトを提出しているのですが、先のスケジュールはそんなにわからないですよね。

え?!シフトも出していらっしゃるのですか?!

はい。週末にやっているのですが、家族の予定もありますし、先の予定がたたないことがあります。ですが、現場はそうはいきません。

現場は早めにシフト出してくれとなりますよね。

これも実体験ですよね。そこでタイミーだったらこうなりますと。体験談として自分の声で話すことによって、リアリティを持った形で投資家さんに伝えられたらと思っています。地道に啓蒙をしていくしかないです。

説得力があります。その他にお話いただけるようなファイナンス戦略はありますか。

エクイティ・デット・セカンダリーを全部やったとお話しましたが、上場したからこそできるファイナンスがあると思います。今すぐ何かということではありませんが、いろいろなスキーム、手法がありますから、引き出しをたくさん使った上で事業をどう成長させていくか、しっかりと戦略を練っていきたいです。

今後IPOを目指されるスタートアップのCFO、コーポレートの方々にアドバイスなどがあれば是非お願いします。

前倒しで進めていくこと。短期だけではなく、中長期目線でどうしたら良いのか考えることは大切だと思います。

ファイナンスも採用も、全て前倒しの方が良いと仰っていましたよね。

あと、経営者の一人として毎回勉強だと思うことがあります。目先の売上、利益、業績を最優先に考えると中長期的には絶対失敗するということです。タイミーに当てはめると、ワーカーである働き手の方の視点で考えていますし、使っていただく企業様にも安心安全に使っていただけることが重要です。そこを疎かにすると短期的に良くとも、持続的にはなりません。繰り返しですが、タイミーは「働くインフラをつくる」を揚げているので、インフラは1年あれば良いわけではなく、持続的にないといけません。本当に大切にしなければいけないものを最優先に考えてやっていくということです。

仰る通りです。

スタートアップはミッションやビジョンをお持ちだと思いますが、意思決定をするときは必ずそこに立ち返ることが重要です。いくら売上や利益が上がったとしても、ミッションに少しでも繋がらないことやベクトルが違うのであれば、絶対それを止めるべきだし、やらないという判断をする。コンプライアンスなどもそうです。これが持続的な成長に絶対繋がります。私自身がタイミーに4年間ほどいてすごく感じていることです。

とても大事なことですね。会社としての目標があれば教えて下さい。

会社として、またチームとしてもですが、ミッションを達成するためにインフラをつくっていくことは成し遂げたいと思っています。数年ですぐ出来るものではないと思いますが、IPOを通じて、特急券のようなスピードをもって行ける切符をいただけたので、早く、そしてしっかりとたどり着けるように邁進していきたいです。

個人としてはいかがでしょうか。

タイミーは「一人ひとりの時間を豊かに」というビジョンを持っています。

個人としても、人生の時間が有限な中でどれだけ時間を豊かにするか、後悔の無い時間にするかが大事だと強く思っているので、色々なことへのチャレンジも含めて、様々なことに取り組んでいきたいです。やりたいと思っていたけど、何かやらない理由なり、制約を考えてしまってそれをやらなかったなら、恐らく自分が死ぬ時に後悔すると思います。やって成功するかもしれないし失敗するかもしれないけど、いざやったら後悔しないはずですよね。やらなかったことの方が後悔すると思います。

間違いないですね。

失敗したら、それはまた次の新しいチャレンジに繋がりますし、長い人生の中でみればやった方が絶対に時間が豊かになると思っています。

私も同意見です。やった方が絶対後悔しないと分かりつつも、つい腰が重くなってアクションを起こせないということもあるので、年齢に関わらずやらなければいけませんね。宜しければ、具体的にやりたいことを教えていただけませんか。

今も一部関わりがありますが、昔から海外ボランティアや国際協力まわりをやりたかったので、それは続けていきたいです。全く違う景色を見ることができて、感性、考え方がタイミーの方にも活きるし、世界観が広がるような気がします。

素敵です。

自分の人生を終える時に、笑って死ねるように色々なことにチャレンジし、色々なことを経験していきたいと思っています。自分だけが良いのではなく、周りの人にも伝播し、周りの人がハッピーになるような感じでのチャレンジを目指したいです。産まれた時は周りの人は笑っていて、赤ちゃんは泣いている。逆に、自分が死ぬ時は笑って死んで、周りの人が泣いている。そういう人生を送りたいな…と。

そうですね…。そういう人生は理想ですね。

赤ちゃんは産まれた時に泣いていますが、周りは「産まれて良かった!」と笑顔で喜びます。でも死ぬときは逆で、本人はやることは全てやったし、経験したいことも全部経験し、限られた人生はすごくハッピーだったと笑って死ぬ。周りが「なんで早く死んでしまったんだ…」と悲しんで泣く。人生を終える時にどうありたいか。その時に後悔を残すパターンだと死ぬときに「あれをやればよかった、あれをやり残した、あの時思い切ってやっておけばよかった」と、もしかしたらちょっと苦しい顔をしていて、周りは「ああ、亡くなってしまったね…」だと嫌ですよね。

八木さんはきちんとやりたいことにチャレンジして人生を歩まれていらっしゃるようにお見受けします。

まだまだそんなことはありません(笑)。タイミーに入社して、タイミーのビジョンをずっと考えていて、そういったことも考えるようになりました。本当にタイミーは良い会社だと思っています。

最後にとても良いお話も伺えました。本日はありがとうございました。

ありがとうございました。

株式会社タイミー 取締役CFO 八木智昭氏三菱UFJ銀行にて、商銀・信託・証券等のグループ総合取引や法人営業業務に6年従事。その後、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の投資銀行本部にて上場・非上場企業のIPO、M&A等の投資銀行業務に従事。SaaSベンチャーで事業推進、ファイナンスを主導後、2020年12月から株式会社タイミーに参画。