株式会社yutori/瀬之口和磨氏 ― 大切なのは折れない心。若い力で切り拓く。会社の未来を見据えたスイングバイIPOとは。(2/2ページ)

2023年12月、東証グロース市場へ上場した株式会社yutori。2018年の創業から5年とアパレル企業史上、最短上場を記録(最年少上場記録も更新)。一時はZOZOグループ入りをし、スイングバイIPOとしても注目を集めた同社。見事IPOを主導した取締役副社長の瀬之口和磨氏に、IPOに至るまでとその後の取り組みについてお話を伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 舘石鈴央
上場に向けた資本政策で意識されたことはありますか。
(株主が)ZOZOと片石と私しかいなかったので、資本政策については簡単でした。
それぞれの売出しはスムーズに決まり、調達は公開時価総額が小さかったので、自己資本比率を30%に戻せる最低限にして2億円ほど調達しました。
ロードショーについてはいかがでしたか。
私と片石の二人で全部回っていました。今後会社はこうなりますといったプレゼンをしていました。
成長性に関しても時価総額の規模としては小さめで上場したので、上場後成長を継続できるかを当時から考えていてしっかりとプラス30%以上の成長を描けるかを意識していました。
確かに大事ですね。
N期の予算は、バリュエーション、売出しに直結するので、結構パツパツに上げがちだと思います。でも、そうすると次の期が結構難しくて、予算を上げる理由は、関係者の方々の売出しを最大化する必要があるので、経営陣としてはやらなければいけないという力学だと思います。
ただ、私たちの場合は外部の株主が、ZOZOだけでしたし、ZOZOはいくらでもいいというスタンスだったので、上場時のバリュエーションにそこまでこだわる必要がなかったのは大きかったです。むしろ上場後を見据えて、N期はちょっと抑えて、その先をちゃんと取れるような予算設計にしていました。
なるほど。市場との期待値調整ということですね。
上場後すぐの最初の決算で上方修正をしていて、市場もしっかりと反応してくれて株価もグッと上がりました。上場したのが12月27日で、2月の決算の時に上方修正を出したので、上場するタイミングで上方修正を出すのは分かっていました。
本来だと、上方修正分もN期の予算に盛り込んでおけば上場時の価格をもう少し上げられたかもしれませんが、上場後を見据えて上がってから良いサプライズを出せるようにということでここはコントロールしていました。
大変貴重なお話ですね。審査の中で親子上場に関する論点で何か指摘事項はありましたか。
親子上場の論点はほぼありませんでした。親子上場の論点は基本2つで、内部統制と事業において親会社に依存していないかどうかだと思います。内部統制については全くなく、社員の派遣もなく、社外取締役が1名入っただけだったので独立しています。また、事業のところも、ZOZOに出店はしていましたが、他のブランドとほぼ同じ条件でやっており、売上の比率も3割いっていませんでした。そのため、どちらも独立でやっていても変わらないということで、ほぼ論点にならなかったです。
そうだったのですね。
もともと私たちがM&Aのタイミングで上場を目指す前提で話していたこともあって、ZOZOもちゃんと独立性をキープしないといけないと、気を遣ってくれました。

IPO準備を通して想定外だったこと、苦労したことなどはありましたか。
苦労というと、採用と、やはり内部統制ですね。例えば、勤怠管理など労務系や、稟議でも苦労しました。N期に入ってすぐの頃に、事後稟議が結構な数見つかったりと苦戦しました。
そのようなことがあったのですね。
上場した時の平均年齢が25歳くらいと若い子が非常に多く、正直管理はあまり向かない組織だったので、そういった細かなところは大変でした。
そこはトップダウンでやってくれと?
そうですね。できなければチームの責任で、連帯責任になるよと。やるしかなかったので「絶対やるぞ」という感じでした。
IPO準備の過程で大切にしていたこと、心がけていたことなどはありましたか。
一番は折れない心だと思います。
どうしてもトラブルが起きると審査期間を延期する方向に力学が働きます。確実に対処し切るので延期はせずに予定通り上がるということを言い続けました。
あとは、証券会社と監査法人と、ちゃんと期待値調整をし、率直にコミュニケーションをしていくというところです。悪いことも、良いことも隠さずに伝えることは大切だと思います。信頼関係をしっかりと作るということです。
「折れない気持ち」というお話がありました。その熱量を高く持っていられたのはどういった想いからなのでしょうか。
シンプルに私たちにとっては「上場準備の期間を延ばしても良いことが何もない」ということが一番にありました。M&Aでブランドを増やすのが成長のドライバーになりますが、N期に入ると予算統制の問題からM&Aも難しく、この一番窮屈な準備期間を延ばしたくないなと。それに、延期すると社内の士気にも影響すると思っていました。準備が長引いている会社の社員からすると、この厳しい締め付けをずっとやっていくのか…となって良いことはないですよね。
そうですね。
ですから、とにかくなるべく早くこのフェーズを抜けたいという想いがありました。結局、上場する・しないの要素は、重大なインシデントを除くと上場時のバリュエーションとのトレードオフだと考えていて、上場しない理由は納得いくバリュエーションに届いていないことが要因として多いと思います。
仰る通りですね。
予算は経営の意思だと思うので、予算を下げればその分公開価格も下がるけれど、上場する確率は上がる。これをどこまで取るかということなので、私たちは期日通りに上場することを第一優先にしたという感じです。
それは株主が少なかったことも影響しているのでしょうか。
そうですね。株主が3者しかいなかったというのが大きいと思います。外部の株主がたくさん入っているとどうしても最初の売出しを最大化する力学は働いてくると思います

上場後の瀬之口さんのコーポレート管掌における役割について教えてください。
全社の予算策定、M&A、IRの3つです。
IRについては主に機関投資家の対応です。その他の日常的な経理業務、決算資料作成、内部監査まわりは任せており、コーポレートの役割はかなりライトです。
上場後に活かされている、未上場時に実施して良かったことは何かありますか。
上場前にM&Aを2回実施できたことは良かったです。
2社M&Aを実施してだいたいの勘所をつかめていたので、上場後heart relationのM&Aができました。同等に近いくらい規模も大きかったので、もし初めてのM&Aだったら勘所もわからないし怖いよね…となったと思います。数億のM&Aを2回実施できたからこそだったので、先に小さくやっておくというのはあるかもれないですね。
M&Aについては、ブランドなどご自身で探してこられているのですか。
今までは基本的に片石か私の知り合いが多かったです。上場前にM&Aをした2社は片石の知り合いでした。heart relationも両者とも知り合いで。仲介会社さん経由だと決まったことはなかったので、普段のネットワーク外も今後増やしていかないと、とは思います。
上場後のファイナンス、IR戦略についてお話いただける範囲でお聞かせいただけますか。
大きく3軸あります。まずはM&Aでちゃんとブランド連合軍を作っていくこと。2つ目はアパレル以外の商材の拡張です。実際2024年3月にはコスメを始めました。3つ目は既存のアパレル事業を伸ばしていくことです。直近、ストリート系のブランドで海外展開もやっているので、国内では着実に店舗を作りつつ、海外にも展開を広げていきたいです。
上場前の時点で、上場後の戦略は具体的に検討されていたのでしょうか。
M&Aについては、IPO前から重要な成長戦略でした。ただ、コスメは上場前からあまり描いてなくて、上場後にいろいろお話があってできました。他の商材もやろうという構想はありましたが、コスメに具体化したのは上場後でした。

これからIPOを目指すスタートアップへのアドバイスがあればお願いします。
良いことも悪いことも隠さず伝えていくことが一番だと思います。ちゃんと素のままで伝えていく。業績がちょっと落ちて予算に届かない時でも、一時的な要因だから戻りますなどと見繕ってしまいがちですが、普通に悪い時は悪いし、良い時は良いというのをそのまま伝えることが大事ですね。信頼関係をしっかりと築いていくことで何かあった時にも信頼してくれるので。変なことをしないのが一番だと思います。
IPO準備の過程でZOZOさんとはどのくらいの頻度でコミュニケーションを取られていたのでしょうか。
ZOZOのCOOの方が社外取締役に入っているので、月に1回の取締役会で報告は行っていました。ZOZOの経営陣とは半期に1回か1年に1回ぐらいですが、適宜ご飯を食べながら話していました。
ZOZOさんからは、口うるさく「こうしなさい」ということは無かったのですね。
全くなくずっと良い関係性でした。上場した時の売出しで、ZOZOも投資のリターンが出ているので、今はリターンも返せて、さらにフラットになったと思います。そもそも、M&Aの際に良い関係性を築ける構造というのも初期の頃から意識していました。
詳しく教えていただけますか。
ZOZOは時価総額が1.4兆の会社なので、時価総額100億前後の会社に介入するインセンティブがそもそもないと思います。私たちを取り込んだところで業績も時価総額にもインパクトがありません。仮ですが、例えばZOZOの時価総額が200億くらいだったら自分達の業績に影響を与える規模になるので、もっと介入してくる可能性もあるかもしれません。規模の差というのは意識していました。
仰る通りですね。
言葉だけではなく、それぞれの会社の立ち位置として、適切な構造になっているかどうか。これは最初のタイミングでかなり考えていました。上場を目指すのであれば、いかに独立性を担保して事業運営ができるかどうか、自由にやらせてくれるかどうかがすごく大事だと思っていたので。
確かに重要なポイントですね。そう考えるとZOZOさんとは本当にご縁でとても良いタイミングだったのですね。
そこは本当にラッキーでした。他にもアパレルの大手などからもお話はいただきましたが、逆に事業モデルが近すぎるので、本当の意味で自由にはやらせてくれなさそうだな…というのも少なからずあったと思います。

今後の目標・ビジョンについてお伺いできたらと思います。まず会社としてはいかがでしょうか。
「若者帝国」と掲げているのですが、若い子たちの熱意をいかに私たちが翻訳し、社会に出していくかがコアだと思っています。今のこの勢いを消さずに、優秀な若い子たちをちゃんと惹き付けて、その子たちの才能をうまく活かしていけるように、ずっと「接続役」をキープできるようにやっていきたいなと思っています。
一方で、資本市場に上場しているので、会社としてのやりたいことと、資本市場からの期待をすり合わせていくことはしっかりと意識していかなければと考えています。
コーポレートチームとしてはいかがでしょうか。
この1年、コーポレートアクションがかなり多く、大型のM&Aをし、海外の子会社も作り、今子会社は3社になっています。ここから先もいろいろとやっていく予定なので、あらゆるコーポレートアクションを通じていろんな変化にもしっかり対応できるような、柔軟で優秀な若い少数精鋭チームをそのままキープしてやっていけたらと思っています。
瀬之口さん個人としての目標もお伺いできたら嬉しいです。
個人としてはあまり変わらず、その都度「自分が楽しくできるかどうか」をキーに置いています。会社のために自分が我慢する、自己犠牲みたいなことはあまりやりたくないので、いかに自分のやりたいことと、会社として必要なことをちゃんとすり合わせて延長線上に置けるようにするか。自分としても楽しく、かつその楽しくやっていくことが、会社にとってもちゃんとインパクトがあるようにというところは変わらずにいきたいですね。
今後の更なる御社の発展が本当に楽しみです。本日は貴重なお話をありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。

2018年大学の同級生と株式会社yutori創業、取締役COOに就任。23年取締役副社長就任。ZOZOへのハーフM&A、東証グロース市場へ上場、heart relation社のM&A等コーポレート、ブランドの全国店舗展開、海外展開を主導。 24年8月台湾子会社 悠特莉股份有限公司 董事長兼總經理 兼任。