【インタビュー】株式会社VOYAGE GROUP/永岡英則氏 - 創業期のCFO参画。MBO、IPO、市場変更…。CEOの本質的パートナーとして(3/3ページ)
前身となるアクシブドットコム創業直後に参画し、サイバーエージェントの傘下入りからMBO。東証マザーズへのIPO、東証1部への市場変更など、企業成長を牽引し続ける株式会社VOYAGE GROUP・CFOの永岡英則氏。そのキャリアストーリーを伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 代表取締役 柳橋貴之
実際にコンサル業界に入ってみていかがでしたか?
新卒として入るには、とても良い環境だと思いますね。社会人として鍛えられるというか。 もともと新人なので、やれることといったら、まずプロジェクトに入って、いろいろなインタビューをして…みたいなところですよね。その会社の中の人であったり、競合の人であったり、取引先であったり。 インタビューに行く先々でヒアリングメモを書いて、それをまとめる。データをもらってきて、入力して、分析して…というのをひたすらやる。
コンサルってこんな地道な(つまらない)作業ばっかりなのか…っていう感じも当時はあるんですけど、結果的にすごく鍛えられるんですよね、その反復練習が。社会人としてというか、仕事人としての基礎体力作りなので。 体力という意味では、長時間労働でもあるわけで、深夜1時・2時に帰るのがほぼ毎日というか(笑)。そういうハードワークが普通という認識を持てるということも含めて、とても良いベースになったなという感覚ですよ(笑)。
特別、優秀なコンサルタントだったわけではないし、4年で一人前になったというつもりもないですけど、とにかく鍛えられたなという思いはありますね。
CDIさんに在籍したのは4年ほどですか?
そうですね。ちゃんと籍を置いていたのは4年ですね。その後半年は、今の会社と二足のわらじを履いていましたけど。
頭の中には、やはりVCというのも、まだあったのでは?
そうですね。一応コンサルに行くと決めた時に、ベンチャーキャピタリストになるのに必要な要素は3つかなということを考えていました。一つは、コンサルのように実際の経営というものを客観的にかつ徹底的に考えるということ。もう一つは、(社長でなくても)自分自身が会社の当事者となって実業を行うということ。もう一つはMBAのように、人類が考え出した経営に関する論理を網羅的に理解するというか、経営を研究するというか、そういうことも考えていましたね。今は必ずしもそうとは思いませんけど。
そんな中、たまたま宇佐美君(現VOYAGE GROUP代表取締役)がコンサルの世界の外に出て、会社を創るという話になったので、そもそも時代的にもビットバレーなんていう言葉も出てくるくらいネット業界が盛り上がっていたので、これは面白いなと。もともと実業の世界にという考えもあったので、気持ちの中で移るというハードルも決して高くなかったんですよ。
退職される際は、むしろ大変だったのでは?
まさに(笑)。アサインされているプロジェクトが動いている途中で「辞めます」と言ってしまったので、当時のパートナー(現在の社長)には、だいぶ怒られましたよ(笑)。ここの責任はどうするんだ、もう一回考えろ!と言われて。 でも、もう一回考えても揺らぐことが無かったので、「無責任に投げ出しはしたくないので、プロジェクトは外れません。でも会社は辞めさせて下さい。」と。思い返すと、だいぶ無理を言ってしまったな…という印象ですよ。
でも、その方とは、いまだに年一回必ず会うようにしているんですよ。ある寿司屋さんで(笑)。 過去もそうですけど、今でも僕の師匠なので。 27歳で会社立ち上げに参画して、どんどん自分よりも若い人達が入ってきて…というような環境なので、僕にとってはとても貴重な存在なんですよ。
27歳ですか。 ちなみに当時結婚もされていたのですか?
ちょうどアクシブドットコム(現VOYAGE GROUP)に入社したのが2000年5月で、結婚したのが2000年7月なんですよ。前の年から一緒に住んでいたので、当時妻に言われたのは、「結婚するっていうのは身を固めるっていうことなんじゃないの?」って(笑)。
それなりにコンサルって給料も良かったりするじゃないですか。どうなるか全く分からないベンチャーなんかに行って、年収もすごく下がって…。一方で会社側の実態を見ると、この状態でこれだけの給料をもらっちゃって良いのかな…みたいな(笑)。 でも、うちの妻は僕と結構似ている面があって、普通の人生よりは面白い人生をっていう、自分らしく生きた方がいいよねっていう感じの人なので、実際には反対とかされずに、「いいんじゃないの」みたいな感じでしたよ(笑)。
良い奥様ですね(笑)。
本当ですよね(笑)。
一方、「当事者として実業を」という中で見れば、選択肢はアクシブさん以外にもあったと思うのですが。
どうでしょうかね…。本気で探せばあったとも思いますが、少なくとも大学時代の仲間達はみんな大企業に行ってしまいましたし、コンサルタントの先輩方も、辞めた後はだいたいファンドとか金融系に進んでいたので。同じくらいの給与を払えるのは金融くらいしか当時は無かったというのも理由の一つではあると思いますが。 ベンチャーといっても、ネットの世界って、大人達はかなり冷やかに見ていたと思うんですよ。子供の遊びというか、そもそもビジネスになるのか…みたいな。だから周りでやっている人がいたかと言われると、そんなにいなかったんですよ。
ところがたまたまコンサル業界に進んだ同期の繋がりがあって、DeNAの川田さんとか、アイスタイルの吉松さんとか…。宇佐美君もそうなんですけど、その仲間の中では結構いたんですよ。そういう意味では、他に選択肢がいろいろとあった中でここを選びますっていうのではなくて、本当に一つだけ見えてきた世界みたいな感覚ですよ。
本当にたまたまだったのですね。
もちろん当事は未来がどうなるのか全く分からなかったわけですけど、今から振り返れば本当に不思議な縁という感じです。 学生時代も移籍当時も、宇佐美君と際立って親しい仲だったわけではないんです。同じグループの中ではありましたけど。彼は比較的そういう仲間の中心にいる存在で、僕はその外周にいるというか、一応面識はあるけれど…という程度だったんですよ。 でも皆に「会社やります」みたいな連絡をくれて。その時に話をしてみたいなと思ったので、「ちょっと遊びにいっていい?」って言ったら「もちろんいいよ」って言ってくれて。不思議な縁ですよね(笑)。
とても良いお話ですね! 創業時からのCFOという意味では、とてもエキサイティングなポジションであったかと思いますが。
そうですね。僕は創業者ではないですけど、ある意味何もない会社で、このままいくと何もなくなってしまうという環境からのスタートでもあったので、精神的なタフさというか、むしろ鈍感力はあるかもしれないですよね(笑)。 一般的には事業や組織がある程度できてから入ってくるCFOの方が多いじゃないですか。そこは根本的な違いがあるかもしれないですね。 もともとゼロベースからなので、何もできなければまた元に戻るだけだよねって。なので、本当の意味での最初を知っているということは、とても強みになるなとは思います。
ゼロベースから参画されているCFOと、後から参画されているCFOとでは、トップとの関係性も異なりますよね。
たしかに、そう思いますね。CFO論になるといろいろな論調があると思うんですが、理想的なことを言えば、CEOの本質的なパートナーとして機能をしていくべきですよね。でもそれって実態としては結構難しいんじゃないかなと思うんですよ。
僕の場合は、もともと宇佐美君と大学時代に知り合っていたり、出発点が創業時からという間柄なので、自ずと好きなこと言い合う関係ですし、こちら側も遠慮なく物事を進められるんですが、創業社長がいて、後からその人に採用されて、そこで本当の人間関係としてのパートナーシップを築くというのは、結構難易度が高いんじゃないかな…と思います。 根っこがあって初めて成り立つ二人の関係ということもあるので、そういう意味で僕はとてもやりやすい環境だったなと感じています。
創業時に参画されてから、だいぶ苦労もあったと思いますが。
それが、そんなに苦労に感じたことってないんですよ(笑)。そういうお話をたまに頂くんですけど、本当にないんですよね。
「永岡さんがいらっしゃらなかったら、今のVOYAGEさんは無かったと思う。」というお話を、私も他のところで何度か聞いたことがありますよ。
そう言って頂くとうれしいですけどね。どうなんでしょうね…。いなかったら逆にもっと立派な会社になっていたかもしれないですし(笑)。
外から見ると「よく逃げなかったな…」という場面もあったかと思います。
それもたまに言われますけどね(笑)。でも先ほどの話と重複しますけど、やはりゼロベースから一緒にやってきているということが大きいような気がします。何しろもともと何にもないわけですから。出発点から見ればいずれの局面も恵まれた状況ですから。
もともと、あまり苦労を感じないタイプなのですか?
そうですね…。それでいうと、先ほどの祖父の話になるんですけど、戦争に2回も行っていて、子供の頃に「出征する時ってどんな気持ちだったの」って聞いたこともあるんですよ。 彼の答えは非常にシンプルで、戦争になって、相手が攻めてくる。これに対して自分が妻や子供達を守らないといけないわけだ。その当事はみんな純粋な気持ちで、そう思って出て行ったもんだよと。
その話を聞いていた頃の僕はまだ子供だったので、まぁそうなんだろうな…くらいにしか思っていなかったんですけど、実際に自分に子供ができてからは、いざそこに赤紙が来たらどう思うんだろうと、とても臨場感を持って感じることができるようになりました。 もちろん自分が守らないとという思いも理解できる一方、この子達を置いて、十中八九死んでしまうだろうという戦争に行くことって、人としてとんでもなく修羅場だなって思うんですよ。
そう思うと、会社が傾くとか、会社が潰れるとか、失業するとか、色々あるかもしれないんですけど、平和になった現代のこの日本で、修羅場なんてものはほとんど存在しないんじゃないかと思うわけです。 仮に何か厳しい状況があったとしても、それを当時の祖父に話したら、は??って思われちゃうよなって思うんです(笑)。それって命を取られる話なの?みたいな。
目の前に大きな課題ができた時も、たまにそのお話は頭をよぎりますか?
そうですね。これって今自分にとってはとても修羅場なんですけど…と言っても、は??って言われるのが想像できてしまう。そういう対比で物事を考えてしまうと、あまり苦労ってないんですよ(笑)。 正しくは、「これが苦労したことです」とか「これが修羅場でした」という話を、あまり語る気になれなくて…。そんな感じですかね。
現在の組織構成上、管掌されている範囲はどこまでなのですか?
まずコーポレート部門として、経理、IR含めた財務、総務、法務、労務ですね。それと、上場をしてから事業投資戦略室というのを設立しまして、M&Aや資本業務提携を推進しています。それとも関連しますが、VOYAGE VENTURESというベンチャー投資をする子会社がありまして、これを含めた範囲を直接管轄しています。 あと、取締役としての管掌の中には、システム本部も入っているのですが、基本的にはCTOに見てもらっているので、実質的にはこんなところですかね。
今、全体で何名くらいになられているんでしたっけ?
グループ全体で約300名ですね。
そのうち管掌範囲は?
30~35名ほどですね。派遣の方も含めて。
いずれは、その中から永岡さんの後継も見つけていかないとですよね。
そうですよね。でもCFOを誰か一人に継承するって結構大変ですよね。ある意味全部ですからね。社長の継承と同じように難易度の高い世界かなという気はしています。 まぁ、でも(自分もそうであったように)その立場に立つとできるようになるというのも真実ですし、一人の人が全てを前任者と同じようにやる必要もないわけなので、実際には何とかなっていくものなんじゃないかと思います。柔軟に考えたいですね。
仕事をする上で大切にされていることって何かありますか?
いろいろとあるんですが、何かに絞れと言われると、基本的には信頼関係ですかね。チームで発揮できる力を最大にするということがテーマだと思うので、そこは信頼関係をどれだけ築けるかっていうことが大きな優先順位を持ちますよね。 あとは、それをいかに持続させるかっていうことですね。信頼関係って、すぐに築けるものでもないじゃないですか。とても時間がかかる。一方で崩れるのはあっという間ですからね。だからそれを持続し続けるということがとても大切になりますよね。
たしかにそうですよね。
そのためには、あらゆることをちゃんと誠実にやろうねっていうことは、僕もそうですし、VOYAGE GROUP全体でも重要な考え方になっています。
他に、会社・チームとして何かありますか?
挑戦しようっていうことですかね。会社全体としてですが、やったことがないこと、前例のないことをやってみようと。 一人一人にとってもそうだと思うんですけど、その人の器を広げていくのって、様々なことに挑戦するかどうかで圧倒的に違いが出てくると思うんですよ。だから会社としてはとても大切にしています。
さらに管理部門っていうのは比較的前例主義になりやすいじゃないですか。もちろん前例は大いに参考にはなるんですが、やはりどんどんチャレンジしていこうよと。どんなに専門性を持っていたとしても、更に幅は広がるし、深みもどんどん増していくだろうし、とにかくチャレンジですね。
他には、永岡さん自身の価値観というか、意識されていることってあったりしますか?
あとは、他人にどう思われようとも、自分でやりたいと思ったことを先延ばしにせず、絶対にそこでやるということですかね。
なるほど。
僕、実は若いうちに、同期とか仲間が何人か亡くなっていて、人間っていつ死ぬかわからないなっていう思いをいつも持っているんですよ。 だからこそ、人と比較して自分は劣っているとか優れているとか、誰かにどう思われているかとか、そんなことはもはや何の意味も持たないですし、いつ終わるかも分からないたった一回の人生、どれだけのことをやれるかっていうことが大切なんじゃないかなと、すごく思うんですよね。
おっしゃる通りですね。 では、ここから先、ゆくゆくはこういうことをしたいな…ということも、まずはやってみようということですね。
そうですね。もともと社会人としての出発時点ではいずれ投資の側にという思いもありましたし、今でも興味は大いに持っています。ただそれも今の会社でもうやり始めちゃっていますし(笑)。 投資に関していえば、昔はベンチャーだなって思っていたんですが、ベンチャーに限らないなと思ってきたというのが、その後の発展ですね。 上場会社でもいいし、もはや株式会社である必要もない、企業である必要もなくて。例えばスポーツをする人やスポーツチーム、アーティストだったり、何でもいいわけですよね。 そういう色々な人達が価値を生み出していくところに、(もはや投資という言葉ではないかもしれませんが)支援していくことのできる形があるとすれば、とても価値が高いですし、広がりのある世界だなって思うんですよ。
「思い」も徐々に進化しているということですね。
あとは、これまで、どちらかというとインプットをしてきた方なので、徐々にアウトプットをしていきたいなという思いもありますかね。 内容はだいぶバラエティに富んでいるんですけど、ビジネス的なハウツーに近いような世界から、ものの考え方であったりとか、あるいは小説という形でもいいですけど、とにかくアウトプットをする。
で、何がアウトプットできるの?何を蓄積してきたの?と聞かれると思うんですが、それは自分でもよく分からないんですよ。アウトプットをして、はじめてインプットされてきたことが分かるような気がするので。結果的に何も出てこないということもあるかもしれませんが、まずはやってみたいですね(笑)。
それは是非やって頂きたいです。
特に当たり前ですけど、CFOのファンクションにはとても興味があります。10年前に比べればだいぶ進化したと思いますが、日本においてはCFO自体がまだまだ未成熟です。歴史もないですし、研究も薄くて、発展途上なんですけど、日本企業の競争力を強化していく上では、とても大事な機能だし世界観だなと思うんですよ。 そこには自分も多少はやってきているというか、何が理想的なCFOなのかということは追及しているつもりですので、それをしっかりと次の世代に拡げていくことの役に立ちたいなということですよね。 いろいろと手段はあると思うんですけど、ライフワークとしてやっていけるといいかなと思っています。
是非とも実現して頂きたいです。
そうですね。そのためにも、今を精一杯がんばりますよ!