【インタビュー】株式会社Speee/西田正孝氏 - 2度の準備を経て実現したIPOの舞台裏と、それを支えたカルチャーとは(3/3ページ) - Widge Media

【インタビュー】株式会社Speee/西田正孝氏 - 2度の準備を経て実現したIPOの舞台裏と、それを支えたカルチャーとは(3/3ページ)

記事紹介

2020年7月に東証JASDAQに上場を果たした株式会社Speee。マザーズからJASDAQへの上場先変更、コロナ禍での上場承認など…次々と押し寄せてくる難局を乗り越え、IPOを牽引したCFO西田正孝さんに、これまでの足跡や、同社の文化、同氏のキャリア観など様々な角度からお話を伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge利根沙和

コロナ禍のIPOのリアル

その後の審査過程は順調に?

そこから怒涛の苦労があったんですよね(笑)。

2020年3月の半ばに上場承認が下りたんですが、コロナ禍真っ只中で連日ほとんどの企業の株価がダダ下がり。日経平均も今の半分ぐらい。ロードショーで投資家をまわった時も本当に反応が悪かったです。機関投資家も株を売らなきゃいけない状況でそもそも買ってる場合じゃない。Speeeの前後に上場承認を取り下げている会社が十数社もあって、「あそこもダメだったか、あそこもやめたか…」という感じで。うちもダメなんじゃないかとどこかで気づきながらもロードショーを回るしんどさというのは本当にすごかったですね。

結局はうちも承認を取り下げることに。ロードショーを回りきった最終日の夜、主幹事証券会社の方から「ダメです」と言われました。なんというか…「フルマラソンをずっと走ってるんだけど、最後にゴールテープ切ったらタイムを測られてなかった」みたいな感じでした。

マラソンの例えは絶妙ですが、辛すぎますね…。

通常のロードショーでも、一日に6~7社の投資家に会うということ自体それでなくてもハードなことなので、結果が伴わないダメージは大きかったですね。途中うすうす感付いてはいたけれど、でも万が一の可能性を考えたら走りきるしかないという。

コロナ禍は続きますが、その後すぐに上場に向けて再チャレンジをされたのですか?

はい。チャレンジできる限りはし続けようということを代表やチームと話しまして、3ヶ月後にもう一度チャレンジすることをすぐに決めました。コロナ禍が続くことも想定し、公募金額を下げて再チャレンジするために、市場をマザーズからJASDAQに変更しました。

マザーズでもJASDAQでも基本的な審査基準が変わるわけではないのでそこは問題なかったんですが、JASDAQレポートというものを新たに作る必要があったのが大変でしたね。3ヶ月後を狙うためには2週間で作り直さないといけなくて、かなりの短期間。しかも作成途中で緊急事態宣言が出てしまったので、全員がリモートの中で社内外とコミュニケーションを取りながら、手分けして作業するという。四半期決算を締めなくてはいけないタイミングでもあったので、本当にタイトなスケジュールでした。

かなりハードですね…。

はい。ただでさえ大変なところに、「今後のコロナのことも考えると数字変わるかもしれませんよね。予算を作り直してくださいね」とか、「今後は本当にプラスですか?一時的ではないですか?」とか。証券会社から今後の事業や予算のことについて様々な質問がバンバン飛んできたので、それに対して「いや違います」っていうのを返しまくるということを当時は慣れていないZoomでやっていました。実際には社会的なデジタルトランスフォーメーションの流れがおきており、弊社の事業的にはプラス材料だったのですが、1つ1つに答えてわかってもらうのはとても大変な作業でしたね。

でも結局それらが無事にうまくいって、2020年6月に再度上場承認をもらえたんですが、そこからまた怒涛の投資家まわりが始まりました。でも1回目がダメだったんで、2回目もコロナ禍で全然楽観視はできませんでしたね。3ヶ月前に40社回って、マザーズからJASDAQに切り替えて、また3ヶ月後に40社回っている会社…相当レアだと思います。主幹事変更も経験していますし(笑)。

難局だらけのIPOを支えた企業文化

ここまで壮絶なIPO準備のお話を聞いたのは初めてです。

なかなか大変でしたね。後から証券会社の方に言われたことなんですが、リトライするにあたって様々なプランがある中で、普通は、「最短スケジュール」で、しかも「JASDAQに切り替える」という提案はしないと。ただ、うちがIPO準備に対する体制がしっかり整っていたから、それだけの大きな負担がかかってもいけるかもしれないと思って提案したと。それを聞いて嬉しかったですね。

スケジュールにしてもバリュエーションにしても、非常に高い目標をずっと置いていたんですよね。私自身本当に大変だったなっていう感覚はあったんですけど、そこを妥協せずに高い目標のまま置いていたからこその大変さだったし、この大変さを経験できたのはやっぱりすごい財産だなって思います。

本当にすごいことですね。高い目標設定に対する努力や実行力、達成すればまた更なる目標設定をという西田さんのそういうスタンスやマインドというのは、コーポレートチーム自体が共通して持たれているものなのでしょうか。

めちゃくちゃあると思います!IPOだけでなくコロナ対応という今までにない状況でも、メンバーみんながすごく能動的に動いてくれています。どういう状況であれ、会社としてこういう方針で行くとなった時の様々な対応を、みんな本当にスピーディーに能動的にやってくれるので、そういう前向きなスタンスやマインドが会社の文化として根付いているなと感じます。

ご苦労が多かった準備を経て上場されたわけですが、実際に上場されて、いま改めてどのようなご心境ですか?

上場できて本当に良かったです。クライアント獲得や採用においてプラスの効果を感じます。一方で、そもそもIPO自体を経営のイシューとしていなかったので、会社としてもチームとしても特に大きく変わったことはないんですよね。投資家対応など、対外的な対応をするようになったのは変わったことの1つではあるのですが、基本的には今まで通りやっています。

会社が成長するために、しっかり事業が伸びていくために、必要なことをその時々できちんとやってきた。IPOもその中の1つの手段でしかないので、IPOのためだけに何か特別に取り組んだことは特にないと思っていて…。そういう感じだったので、実は今審査に入ってるとかいつ上場するとかも社内にも全く知らせていなくて、本当にチームと役員しか知りませんでした。

そうなんですか!こんなに壮絶なドラマがあったというのに!?知らせたのはどのタイミングだったんですか?

当日の夕方、東証からのリリースが出てからですね。なので一連のドラマも全然誰も知らなかったです。しかもコロナ禍で今後どうなるかもわからないので、「承認下りましたけど、今後どうなるかはわかりません」という話もしました。その動画で話した様子が結構暗い感じだったみたいで、みんな「この話は喜んでいいのか?」みたいな様子でした(笑)。

なかなか珍しい社内発表のエピソードですね(笑)。

今後の目標とアドバイス

昨年は大きな目標を達成されましたが、今後のさらなる目標を伺ってもよろしいでしょうか。

はい、まず会社としてですが、コロナ禍ということもあり、社会におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が高まっています。そこを推進する会社として、きちんと社会に貢献できるよう、さらにスピードを上げて事業を拡充していきたいと思っています。そのためにも採用をさらに積極的にやっていく必要があるので、コーポレートチームとしてしっかり取り組んでいきたいですね。

また、新たにできるプライム市場にできるだけ早いタイミングで上場させるということ。これは私の直近のミッションとして進めていくことになると思います。それからM&Aも。そのためには、ますますIRに力を入れてしっかりとミスなくやっていくのが大事だなと思っています。チームとしても個人としても、新たなステージでの新しいチャレンジがまだまだ盛りだくさんですね。

次に向かってワクワクしていらっしゃる様子が伝わってきます。すごく楽しみですね。最後に、これから上場を目指される会社の方に向けてのアドバイスがあれば、お聞きしたいです。

そうですね。とにかく妥協しないことだと思っています。IPO自体の難しさはそこまでないなかで、時期やバリュエーションにどこまでこだわるかが大事。前例がないとかいろいろと無理である理由を言われるんですが、自分たちが実現したい方向に向けて努力し議論していけば、突破できることが多かったという印象です。何のための上場なのか、常に念頭に置くこと。上場自体を目的として諸々の判断をしてしまっていたら、今の結果はなかったと思います。

あとは、現在は既にたくさんの会社さんが上場を経験されています。経験された方の生の意見は参考にした方が良いと思います。私自身、何人もの人に会い、実際に足を運びました。ただ、鵜呑みにしないこと、やはり置かれた状況は会社ごとに違いますから。

まさに御社が初期から貫いてこられた重要な視点での的確なアドバイスをありがとうございます。今後のさらなるチャレンジ、さらなる成長が本当に楽しみです。本日は貴重なお話をありがとうございました。

株式会社Speee取締役CFO 西田正孝氏
同志社大学経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格。2002年、あずさ監査法人へ入社。転職先のベンチャー企業にて上場準備に携わった後、大手金融系企業グループの取締役を歴任し、2009年に創業2年目のSpeeeにCFOとして参画。10年以上にわり、コーポレート部門責任者として同社の成長を牽引している。