【インタビュー】freee株式会社 - 進化を続けるファイナンスIRチーム。国内外の投資家と実直に向き合い続け見えてきたものとは。(2/3ページ) - Widge Media

【インタビュー】freee株式会社 - 進化を続けるファイナンスIRチーム。国内外の投資家と実直に向き合い続け見えてきたものとは。(2/3ページ)

記事紹介

2019年12月に東証マザーズに上場を果たしたfreee株式会社。日本のSaaS企業初のグローバルオファリングかつ大型上場ということに加え、上場時に海外投資家に約7割の株式を配分したという、日本のベンチャー企業としては異例の水準であったことでも注目が集まった。ファイナンス統括としてチームを牽引し続けている原さん、上場準備初期から上場後のIR・資本政策まで実務面で中心となっている内田さん、上場後のファイナンスIRチームに加入し若手ながら確かな戦力の重光さん。IPOから時間を経た今もなお持続的成長を続け、資本市場にまつわる先進的な取り組みを続ける同社のファイナンスIRチームにお話を伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 利根沙和

新メンバーの加入~縦割りではないチーム作りへのこだわり~

無事に上場された後、IRチームの体制には何か変化はありましたか?現チームメンバーの重光さんのご参画のタイミングもお聞きしたいです。

原:はい。上場後にチームメンバーが増えたというのは1つ大きな話ですね。上場直後は内田と私の2名でやっていたんですけど、四半期毎に100件超の投資家さんとの面談であったり、決算準備であったり、それ以外にもCorporate Developmentチームと一緒にM&Aや出資の検討・執行など色々していると明らかに人手が足りなくて…。上場後も少人数の体制のままで常に忙殺されている会社さんはけっこう多くて、そうなってしまうと何か新しいことを考えようとか、既存のオペレーションを改善しようとか、気持ちがあってもやっぱりできないですよね。余力がなくなってしまう。余力を作ることが大事だなと思い、重光に2020年の7月にチームに加わってもらいました。そうしたらチームの中で業務を分散できるようになったので、例えば「IR業務をもっと効率的に回すにはどうしたら良いか」みたいな話をこの3人でできるようになったんです。人を増やす意義があったなと。もうすぐ更に1人チームメンバーが加わる予定なんですが、新たなことに取り組めるだけのバッファというのはちゃんと持っておきたいなとは思ってますね。

そうなのですね。重光さんの簡単なご経歴も伺えますか?

重光:はい。私は入社自体は原よりも早く2018年4月に新卒でfreeeに入りました。最初はカスタマーサポートの仕事をしていたのですが、上場後の2020年7月にIRチームに異動してきました。昨年チームに入った時にはIRが何の頭文字なのかすらわからない状態で入ってきたので、この1年間は実際に業務に携わりながら、求められている知識の深さであったり、経験からくる対応の幅であったりというのがこんなにもあるのか…と。原と内田の2人の姿を見て本当にすごいなと思いながら日々成長すべく取り組んでいるところです。

ファイナンスIR 重光佳乃さん

社会人2~3年目の時にIRって言われてすぐにピンとくる方は少数ですよね。そこを一からお二方のところにジョインされて…。

原:実際のところ、重光が入ってくれてものすごく助けられているんです。海外の大学を出ているのでそもそも英語が得意というのもあるのですが、英文開示も作成できますし、投資家とのコミュニケーションも難なくできるし、本当に助けられてますね。うちはワーディングに拘って自分たちの言葉で伝えることを大切にしてきています。経営陣や私もみんな日本育ちですけど、ビジネス英語は一応できるので、例えばIPO時の英文目論見書なんかもCEO含め、メンバーが自ら赤入れをしていましたし、海外ロードショーも通訳なしで直接話をするようにしてきました。上場前も上場後もその辺は割と拘ってきたポイントだったので、そこを更に強く支えてくれるメンバーが加わってくれたと思います。

重光さんも加わって、チーム内での役割分担なども変化がありましたか?

原:役割分担は特に大きく変わっていないですね。というか、もともとチームであまり縦割りにしないようにしてるんです。上場後、うちのチームがやっているのは、まず、投資家面談、開示資料の作成、決算短信や有価証券報告書の準備等いわゆる普通のIR業務。それ以外にも、資金調達のプロジェクトも我々のチームでリードを取っていますし、国内外のソフトウェア企業の戦略分析や、M&A、出資をする時の執行のサポートなどがチームの業務範囲で、幅広く、かなりのボリュームになるんです。でも、各業務を明確に縦割りで分担するというよりも、それぞれ一通りの業務を各メンバーがこなせるようにしています。縦割りで担当者を限定してしまうと飽きが来ちゃうような気もしますし、それぞれの経験の幅を増やすためにも、各自が色々な業務をやってますね。

少数精鋭でグローバルな投資家と対峙し続けてきた中から見えてきたもの

なるほど。お一人ずつしっかり自立していらっしゃる良いチームなのですね。上場後のオペレーションについても事前に対応されていたというのも大きいのかなと感じますが、上場後にも特に活きている実施事項や取り組みなどはありますでしょうか?

原:そうですね。おっしゃる通り上場後のオペレーションを準備段階で事前に組んで考えておいたこと。これはまず本当によかったなということですね。あとはやっぱり投資家との信頼関係の獲得と維持・改善ですね。上場前から長いお付き合いの投資家、IPOの際に出会った投資家、その時々で信頼関係を築いたけれども、それで終わりではない。信頼関係はけっこう大事にすべきところかなと思っています。あとは上場時にもう大体の主要な投資家にはお会いできたかなと思っていたんですが実はそんなことなくて。毎四半期、新しい投資家と出会ってるんです。IPOまでで既に知り合いになった投資家との関係だけを重視するんじゃなく、新たな投資家の層も大切に拡大していくことも大事だと思っています。新規投資家層の拡大はチームの行動目標にも入れてかなり精力的に取り組んでいますが、やってきて良かったし今後も続けていきたいなと思っています。

なるほど。上場後も投資家の方々との良質なコミュニケーションを継続されていて、さらにブラッシュアップされている感じですね。

原:そうですね。上場してから何かすごく変わったというわけでもないですけど、投資家との接し方についても、日を追うごとに慣れてきたと思いますね。四半期ごとのミーティング件数は100件を超え、そのうち7割ぐらいが海外の投資家とのミーティングなんですが、3人という少人数のIRチームでグローバル投資家の方々に対峙し続けてきた結果なんとなく見えてきたポイントというか、他の成長企業の方にも少し参考にしていただけるのではないかというものを、海外公募増資が落ち着いたタイミングで重光がまとめました。

重光:はい。note(注1)に記事を書かせていただきました。普段から意識していたわけではないのですが、今振り返ってみると、こういったことを気にしていたからこそ、投資家の方との対峙がうまく行ってるんだろうなと思ったポイントが3つほどあったんです。

すごく興味深いです。記事も読ませて頂きたいですが、そのポイントを教えていただけますか?

重光:1つ目は、決算報告説明会の直後に、決算情報等をなるべく早く日本語でも英語でもスクリプトを出すということです。当然ですが海外投資家の方々は日本語のスクリプトだけではわからないので、英語でも出す。すると、それを読んだ上で面談に参加してくれる方がいるので、決算の情報について投資家の方の理解も深まってよかったです。2つ目は、同じく決算直後に英文スクリプトだけではなく英語のグループコールというのも実施していることです。説明会は日本語だけになってしまうので、海外の投資家に向けて英語で行い、そこで海外投資家の皆さんに、直近四半期の情報をアップデートする機会を設けるようにしているんです。

なるほど。限られた人数でもなるべく素早く、投資家の方々により直接届く言語や方法で情報開示をするというのは、当たり前のようでありながらそれを確実に行える会社さんは限られていますね。

重光:そうだと思います。3つ目は、通訳なしで英語面談をしていることです。これも会社の事業やカルチャーを伝える上でとても良いことかなと思っています。カルチャーひとつにしても、CEOやCFOが経験してきたことを自身の思いで直接語る雰囲気と、そこに通訳が入ってしまうのとでは温度感や伝わるものがやはり変わってくると思っています。経営陣だけでなく私たちIRチームも通訳なしで英語面談をやるというのは、グローバルの投資家の方々と対峙する上で大事なポイントで、今後も大切にしていきたいところだなと思っています。

2021年6月の新戦略発表会に登壇された佐々木CEO

ありがとうございます。1つ1つの実施ポイントもさることながら、素晴らしい分析力・対応力ですね。先ほど原さんが、IRチームは縦割りではなくみんなが一通りできるようにとおっしゃっていましたが、若手の重光さん含めたチームのバランス感がすごくよく伝わってきました。それぞれの方が本当に力を発揮していらっしゃいますね。

原:ありがとうございます。本当にそのとおりだと思ってます。

IPO自体はコロナの影響を受けない時期でしたが、ポストIPOの時期は早々に予期せぬ情勢となりましたよね。コロナ禍において投資家の方々とのコミュニケーションなどは良くも悪くも変化や影響はありましたか?

内田:IPO後初めての四半期決算が2020年2月にあり、まだコロナ前でしたので、弊社でフィジカルで説明会を開催したのですが、その次の5月からは全部Zoomで決算説明会を開催しています。コロナ前は東京の投資家とのIRミーティングは、先方のオフィスでの面談が普通だったんですが、やはりIRミーティングもZoomに切り替わっていきました。従来のフィジカル面談だと移動時間もかなり取られてしまって、1日頑張っても5件まわるのがやっとだったところ、コロナ禍で基本的にZoomとなってからは、多い時は8件ほどできるようになったので、非常に効率は良くなったと感じています。一方で、初対面の方とのZoomでのコミュニケーションはやっぱり難しいなと感じる時もあったりして…。そんな時にもともと上場前からフィジカルで何回も投資家と会っていたことは、今思えば良い財産だなと感じました。上場前から投資家とフィジカルで面談したからこそ、現状のZoomでのやり取りでもスムーズにIRがうまくいっている部分もあると思っています。

上場されるまでに積み重ねていらっしゃった投資家の方々との関係性ですとか、そこから得た知見というのは、コロナ禍の今となってはとてつもなく大きなものかもしれないですね。