【インタビュー】freee株式会社 - 進化を続けるファイナンスIRチーム。国内外の投資家と実直に向き合い続け見えてきたものとは。(3/3ページ) - Widge Media

【インタビュー】freee株式会社 - 進化を続けるファイナンスIRチーム。国内外の投資家と実直に向き合い続け見えてきたものとは。(3/3ページ)

記事紹介

2019年12月に東証マザーズに上場を果たしたfreee株式会社。日本のSaaS企業初のグローバルオファリングかつ大型上場ということに加え、上場時に海外投資家に約7割の株式を配分したという、日本のベンチャー企業としては異例の水準であったことでも注目が集まった。ファイナンス統括としてチームを牽引し続けている原さん、上場準備初期から上場後のIR・資本政策まで実務面で中心となっている内田さん、上場後のファイナンスIRチームに加入し若手ながら確かな戦力の重光さん。IPOから時間を経た今もなお持続的成長を続け、資本市場にまつわる先進的な取り組みを続ける同社のファイナンスIRチームにお話を伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 利根沙和

上場後も成長し続ける為に…持続的成長を望む全ての企業へ

色々と貴重なお話をうかがってきたのですが、今後御社のように上場を達成し持続的成長可能な企業を目指しているスタートアップさんですとか、今まさにIPOされた直後の企業さんも含めて、何かアドバイスがあればいただきたいです。

原:そうですね。先ほども言ったことではありますが、やはりまずは上場前も上場後も投資家とのコミュニケーションに一定のリソースをちゃんと割いた方が良いということですね。そしてその中で機関投資家層を拡大していくということが、中長期的にその会社が成長していくために価値があることだと思っています。しっかりと中長期の投資目線で投資してくれるような投資家と関係を築いておくと、短期的な業績の上げ下げに議論が終始するのではなく、中長期の成長のためにどうすべきかというアドバイスをくれたり、そのための議論ができたりするんですね。そういう人たちを多くファンにするというのは、経営上もプラスだろうなと思っています。

なるほど。御社の持続的成長を支えているポイントの1つは、この投資家の方々との向き合い方ですね。

原:はい。また、中長期目線の機関投資家と接点持っておくことの副次的な効果もあります。今年の春に、中長期的な成長を目的として、主に将来的なM&Aを資金使途とする海外公募増資をやったのですが、これは日頃から海外機関投資家との信頼関係を築いていたからこそできた案件でもあると思っています。もしすぐに株主になってくれなくても、いつかそういう公募増資した時に株を買ってくれたり、あるいは今後マーケットで株を買ってくれたりするような存在になりうるんです。そういう投資家と日頃から継続的に会話を持っておき、投資家とのパートナーシップをできるだけ広げておくというのが大事ですね。ただそのためには一定のリソースを割かないといけないので、そこが1つ重要なところかなと思っています。でもそれによるリターンは絶対あるはずだというふうに我々は感じてますね。

お互いに中長期での目線をもってというところ、大切ですね。

原:もう1つ、先ほどもお話したことではあるのですが、チーム体制にバッファをもつということですね。一定のバックオフィスへの投資というか、そのチームが忙殺されないようにしておくというのは大事なのかなと。会社によってはバックオフィスをコストセンターと捉えて最低限の人員構成にした結果、メンバーが忙殺されてしまって、それではIRでいうと資本市場との十分なコミュニケーションなんて取れない状況になってしまうので。ここは大切なところだと思っています。

ご経験からくる的確なアドバイスありがとうございます。内田さんはいかがでしょうか。

内田:そうですね。上場準備中は色々な悩みや不安が少なからずあると思うのですが、1人で抱え込まずに、同じように上場を目指しているスタートアップのコーポレート部門の人と交流を持ってみるとか、既に上場を果たされた先輩企業さんに色々と聞いてみるとかはけっこう有用だと思います。僕も上場準備中に何社かの上場された会社さんとお会いして、「その愚痴わかるわかる(笑)」みたいな感じで盛り上がったりしながら、悩み相談とか質問をさせてもらっていたので、コーポレート部門同士の結びつきとか、コミュニケーションは大事だなと思っています。上場後もいろんな会社のコーポレートの方々と話す機会が多いのですが、やっぱりそこでディスカッションするとより良いアイディアが出ることも多くて、助けられたことも沢山あるので、そこの繋がりはすごく大事だと思いますね。

そうですね。弊社もコロナ禍で形を変えながらではありますが、コーポレート部門の皆さんの横の繋がりをより支援できるような取り組みは、この先も続けたいと思います。重光さんはいかがでしょうか?IPO後のIRチームに参画される方々へのアドバイス何かあればお願いしたいです。

重光:IRに関する本やwebのまとめサイトみたいなものって、サイトによっても少しずつ内容が違っていて分かりづらいんですね。実際にfreeeで行っているIR業務とは乖離があることも多く、読んだり調べたりしても助けにならないこともけっこうあるので、内田の言うように同じような取り組みをしている会社さんにお話を聞いてみるというのはお薦めできることだなと思います。

それぞれが見据えるこれから~資本市場との更なる対峙と社内外への発信~

確かにIRは業界によっても違いそうですし、スキルを一般化しにくい分野かもしれませんね。重光さんがチームに参加されて1年以上が経ちましたが、今後の目標などはありますか?

重光:個人的な目標としては、私自身がファイナンスやIRへの業界知識をもっと深めることが大事かと思っています。この1年は、とにかく会社のバックオフィスについて学び、投資家から聞かれた質問の内容を理解できるようになったのですが、投資家が求めている回答の深さといいますか、本当に彼らが知りたいことを答えられないと感じる場面があるので、もっと業界の理解を深めることでより厚みのある投資家対応をできるようになりたいと思います。あとは、何か1つ判断するにしても、自分の知識をもっと深めることで、自分だったらこういう判断がいいかなというような物の見方ができると思うので、それを身につけられたら、もっとこの仕事は面白くなるのかなと思っています。

また1年後には深めた知識とともにどのような視点を持たれるのか…楽しみですね!

重光:ありがとうございます。あとこれはチームとしてですが、先ほどご紹介したnoteの記事のように、freeeのIRが行っている取り組みをもっと社内外に発信することも続けて行っていきたいと思っています。先ほども言った通り、IRに関する本もあまりないので、実際に私達がやってることを発信することで、1年前の私のようなIRを知らない人やIRに興味がある人の役に立てたら良いなと思います。カスタマーサポートにいた時は、プロダクトやどうやってサポートを効率的に提供するかという点を見ていました。IRに来て、freeeは「freeeのプロダクト」があるだけではなく、プロダクトを作り、どういう戦略でユーザーに届け、そのためにはどういう人材が必要か、freeeはマーケットから今どう見られているのか、というように、freeeには複数の側面があることに気づきました。こういう気づきがあったので、社内の特に新人・若手の方々に発信したら面白いんじゃないかなと思っています。

なるほど。プロダクトを売る部門の若手の方も、対する方はコーポレートの上層部というケースもよくありますよね。そういう方々に1つ上の視点が共有できたら強みになりそうですね。内田さんも今後の目標などあれば教えていただけますか?

内田:個人的な目標というか、考えを深めたいところとして、日本の資本市場のポテンシャルについてもう少し中長期的に考えてみたいと思います。やはり日本はUSと比べると若干遅れているというか、資本市場の制度があってもなかなか使いにくいところがあったり、発行体である企業側も資本市場をそこまで活用しきれていなかったりというところがあるなと以前から感じています。例えば、ディールの数とか金額もUSの方が断然大きいですし、投資家の厚みももっとあったりと、けっこう違う側面は多いと思います。資本市場ってもっとポテンシャルがあるのに、何かそれを日本企業や日本という国自体がそこまで活かしきれてないような気はしてるので、その辺の中長期的な可能性を考えたいなと思っています。

早くから海外の投資家の方々とも積極的にコミュニケーションを取られてきたからこそ、日本の現状のはがゆさみたいなものも感じられていらっしゃるのですね。

内田:そうですね。チームとしては、上場直後は原と2人かなり忙しくて大変だったところに、昨年重光が入ってきてくれて、やっとチームとして落ち着いて、より仕事を回せる体制になったんですね。でも一方で、この1年は最低限の基礎固めをしてきた年だったなとも思うので、今後はまだ出来ていなかったことや新しい工夫もどんどん取り入れて、現状に満足せずに少しずつでも前進させていけるような年にしたいなと思っています。

チームとして更に力を発揮できる年になりそうですね。ありがとうございます。原さんはいかがでしょうか?

原:まずチームについてでいうと、先ほどの縦割りにしていないというお話をしましたが、メンバー全員が投資家やセルサイドアナリストとの対応をして、資本市場と直接の接点を持つこと。それぞれが相手と信頼を形成できるようなチームであるということを続けていきたいと思っています。大企業のIR部でメンバーレベルの方はサブスピーカーでいることがあるかもしれませんが、うちは全員が、重光のような一番若い人でもメインスピーカーを務める機会をもつことを大事にしています。投資家やセルサイドアナリストと直接バイネームで関係構築をしていくというのを今後も意識して続けていきたいなと思ってます。

そんなメンバーが集まったIRチームはかなり強いものとなりそうですね。

原:そう思います。なぜ全員がメインスピーカーであることに拘っているかというと、自分がメインスピーカーで投資家やセルサイドアナリストと向き合うことで、マネジメントと同じ目線で物事を語ろうという意識も保つことができるからなんですね。あとは、ダイレクトに投資家やセルサイドアナリストとやり取りする中で、彼らの関心事項や質問の意図というのをより敏感に嗅ぎ取らないといけない。そこの感覚を研ぎ澄ますためにも各メンバーがメインスピーカーを務める機会は大事だと思っています。そしてそういう感覚を持てるようになると、開示資料を作る時ひとつをとっても、これを伝えたら投資家はどう受け止めるだろうというような観点を持つことができる。なので、チームの全員が資本市場とよりしっかり直接向き合うというのは今後も大事にしていきたいことですね。

なるほど。深いですね。

原:そして、これからも先進的な取り組みというのを常に続けていきたいなと思っています。我々のこれまででいうと、グローバルIPOを行ったこと、上場企業の中で海外株主比率が非常に高い会社としてIR業務を行ってきたこと、あと今春には海外公募増資をしたこと…と、資本市場に関して先進的な取り組みをしてきたと思っているんです。ただこれに満足するんじゃなく、今後も何か新しいことができるのであれば、慣習にとらわれず貪欲に取り組んでいきたいですね。あと先ほど重光が言ったように、そういう新しいことができた時には、積極的に外部にもいろんな情報を共有していきたいなと思ってます。

これからの御社の新たな取り組み、そしてIRチームからの発信がとても楽しみです。

原:ありがとうございます。私個人としては、そういう色々なことができるチームであり続けられるようなチーム作りを引き続きすることと、新しいメンバーも新しいことにチャレンジできるような環境づくりをすることっていうのを今後も意識していきたいと思っています。また、今後はIRや資本政策だけでなく、財務管理や経営管理という部分もより進化させていけるように、これまで資本市場と接点を持ってきたからこそ培うことのできた観点を活かしていきたいなと考えています。freeeのプロダクトの種類も年々増えていく中で、管理方法やKPI測定なども更に高度化させていかないといけないので、そこをしっかりと取り組んでいく。それをやっていくにあたっては、投資家の方々がfreeeをどのように見ているかという観点、この資本市場と接点をもっているというのが良い相乗効果を生むのではないかなと思うので、自分の関心は常に広いところに置いておきながら携わる領域も少し広げていきたいですね。

投資家の方々との対峙から今後も色々な新たな視点を得ながら、皆さんが更なる進化をしていかれるのが本当に楽しみです。本日はありがとうございました。

freee株式会社執行役員ファイナンス統括 原昌大さん
新日本監査法人でキャリアをスタートした後、野村證券とモルガン・スタンレーにて投資銀行業務に携わり、2019年5月にfreeeに参画。ファイナンス統括として、IR、資本政策、FP&A等を担当。

ファイナンスIR 内田修平さん
新卒でみずほ証券に入社。上場審査や、引受審査業務を経て、組織再編やファンドのエグジット案件等のM&A案件に従事。2017年9月にfreeeに入社。事業計画の策定、予実管理、資金調達、IPO準備を経て、上場以降はファイナンスIR活動に従事。

ファイナンスIR 重光佳乃さん
アメリカの大学を卒業後、2018年4月にfreeeに新卒入社。カスタマーサポートを経て2020年7月からファイナンスIR所属。

(注1)
note/『freeeの新たな挑戦を支えるIRプラクティス』Yoshino Shigemitsu@freee
参考URL:https://note.com/yoshino_shige/n/n6c455f3c30a0