【インタビュー】株式会社モダリス/ 小林直樹氏-難局でも逃げない突破力をもったチーム作りへの拘りから見えてきたCFOの真の役割とは(2/3ページ) - Widge Media

【インタビュー】株式会社モダリス/ 小林直樹氏-難局でも逃げない突破力をもったチーム作りへの拘りから見えてきたCFOの真の役割とは(2/3ページ)

記事紹介

2020年8月に東証マザーズに上場を果たした株式会社モダリス。入社と同時にIPO準備チームを立ち上げ、そこからわずか1年半後に上場承認がおりるまで、CFOとして牽引した小林直樹氏。現段階では治療に利用可能な薬がほとんどない希少疾患を抱えている方々に、これまでにはない革新的な遺伝子治療薬を届けるべく開発を続けるバイオベンチャーならではのスピード感あるIPO準備ストーリー。手掛ける事業同様に、スマート且つイノベーティブなIPO準備チームの発足から今後の展望まで、様々な角度からお話を伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 利根沙和

本質をついて理にかなったIPOモデルで切り抜けたコロナ禍の上場

かなり大きな資金調達をするバイオベンチャーとしては、IPOを目指すというのは最初からデフォルトなのだと思いますが、IPOを前提としていたとしても、このようなスピード上場は異例ですよね。

そうだと思います。森田は、これまで他の会社で社長とは違う立場から経営やIPOを見てきた経験があったり、もともと理系の研究員ということもあったりしますが、ITエンジニアのような発想力を持っていて、どうしたら一番効率的にIPOを進められるかということを考える人なんです。最初からIPOチームありきではなく、まずは事業が真っ当に回り始め、監査法人や証券会社とIPOの話しができるような状況になるかならないかの絶妙なタイミングでCFOを入れる。そして、CFOにIPOチーム作りを任せて回していこうという考えがあったんですね。この計画には、「最短かつ効率的」という森田のポリシーが貫かれていると感じます。

本質をついた理にかなったやり方ですね。IPOをめざしたものの、後に事業が伸び悩んでしまう企業もあると思いますから。

IPO準備メンバーを集めたものの業績が上がらない、社長が良かれと思って選んだメンバーが実はIPOに対する力量が足りなかった等…。確かにこのようなことでなかなかIPOができず、ずっとIPO準備期間中となっている会社はたくさんあると思います。

御社の場合は、事業にしても、採用されたメンバーそれぞれにしても、本当にピタッとはまる無駄のなさがありますね。

全く無駄はないですね。それが当社の社風と言ってもいいくらいです。家具もIKEAで買って組み立てるぐらいですから(笑)。実は、入社時に入ったオフィスは古くて、広さとコスト重視で選んだビルでした。でも、コロナ禍になったことで、上場承認後すぐに、広さは縮小してセキュリティレベルが高いビルにまた移り更にオフィスコストを削減しました。この辺も全く無駄がないのですが、それを実現する管理部門のメンバーにとってはコストを削減できるなら、自分たちは進んで体育会系のマラソン100回望むところかと(笑)。

それほどまで上場準備をスマートに進められてきた御社ですが、準備中、想定外だったことやご苦労されたことはありますか?

森田が私をCFOにしたのは、“想定外のことを起こさないようにできる人”という期待があったからではないかと思っています。ですから、いろいろなシナリオを準備して、想定外のことが起きても、想定内に収められるようにという動きは常に心がけてきました。そういう意味では、すべて想定内にできたと思っています。ただ、コロナだけは例外でした。

コロナは誰もが想像できなかったことと思います。承認が下りたのが2020年6月。ということは、その後のロードショー、承認申請の最後の佳境のところが、まさに最初の緊急事態宣言中だったということですよね。

そうなんです。コロナ禍によって証券会社は大変コンサバティブになりました。機関投資家がお金を出せず、IPOの値付けができなくなり、何社も上場承認を取り消したのはご存じの通りかと思います。証券会社は投資家あってこそですから、主幹事証券からはIPOの先送りを提案されましたが、最短最速スケジュールをこなしてきた私達としてはコロナ禍であっても先が見えないからこそIPOを最短でするというのがポリシー。調達金額やバリュエーションは望めなくても、タイミングだけは絶対譲らないと頑張りました。

コロナ禍で上場する不安などはなかったのでしょうか。

上場承認が下りた直後に緊急事態宣言がきていたら、準備するのは難しかったと思いますが、私達は幸運にも、緊急事態宣言などを踏まえた上で投資家にヒアリングができました。親しい投資家からは、「このご時世にコロナを跳ねのけてIPOしてくる会社があれば、むしろ投資したい」と言ってもらい背中を押してもらえました。また、アメリカでは、コロナ禍でもバイオ系はIPOで資金調達ができていたんですね。もしこれが飲食や旅行ビジネスのIPOだったら非常に厳しかったと思いますが、逆にどこの業界にもお金がつかない状況なら、バイオビジネスのIPOが投資家たちの数少ない投資先になれる。むしろそこは救世主となって絶対いけると確信していました。結果的に私達の見立てが正解だったと思っています。

たしかにその時期、ワクチン関連の製薬会社含めたメディカル系など特定の分野に対してだけは期待感がありましたね。

はい。そうやって証券会社に主張を繰り返し、8月にようやく上場ができました。もしコロナ禍でなければ、もっと早く上場できていたと思います。どなたも記録は取っていないかもしれませんが、上場準備開始から上場までの最短記録保持者になっていた可能性もあるんじゃないでしょうか(笑)。

そうですね、そのくらいすごいスピード感です!通常はいわゆる「1年ルール」というものもあり主幹事証券さんは通期1年はみたいはずですので、これらのスケジュールでの達成は現実的ではないと思います。小林さんはじめチームの皆さんのお仕事ぶりから、よほど証券会社や監査法人からの厚い信頼を得られたのではないかと推察いたします。

ありがとうございます。上場後に、主幹事証券の方からも同様のコメントを頂きました。「小林さんが入る前から絵に描いていたことを、入社後はすごいペースで準備を進めてくれ着実にそれが現実になり始めた。実はかなり心配していたけれど、実現できて本当によかったです」と。証券会社の方も内心は相当心配しながらも、私たちにプレッシャーをかけて、このスケジュールをクリアさせてくれたんですね。ご支援いただいた多くの方々の思いの中で実現できたのだと思います。

IPOは人がすべて。CFOとして果たすべき役割とは?

今回、IPOが達成できた一番の要因は何だったとお考えですか。

良いメンバーに集まってもらえたことです。IPO準備は、“人”が全てだと思っています。もちろん、事業が成長しなければ審査に落ちますし、IPOの知識やテクニックも一定以上のものがなくてはいけません。しかし、結局は、多少なりとも無謀なスケジュールや想定外のことにもちゃんと向き合って、それを突破できる精神力や体力を備えているメンバーがいるかに尽きるんです。これを持ち備えたメンバーに恵まれたおかげで、最後までやり遂げることができたのだと思います。そうでなければ、上場のタイミングは1年から2年以上狂っていたのではないでしょうか。

最後の踏ん張りどころで、踏ん張れるかどうかですね。

上場準備期間中は、たいてい無理難題ばかり起こるものです。これはきっと他社でも同じ。当社はゼロからの立ち上げを全て最短スケジュールで行っていくという、常に時間との闘いのようなところがありました。他社さんの場合、準備期間はもう少し余裕のあるスケジュールだとは思いますが、膨大な過去の負債をリセットしなくてはならず、もうため息しか出ないような状況など色々なパターンが想定されます。でも、どちらにしても限られた時間の中で、通常業務と別枠でIPO準備をこなしていくメンタリティはどんな会社でも共通して必要だと思うんですよね。「これ本当にできるの?」ということが出てきた時に、できない理由を次から次へと上げる人には向いていない。「嘘でしょう!」と言いながらも、「やるしかない!」と、確率論ではなくて「やる」というベクトルに合わせられるか。これができたら、上場準備はほぼ成功と言えると思っています。

少数精鋭ですから、それぞれに強靭なメンタリティが求められたのではないでしょうか。

そうですね。組織が大きいと、新しい課題が浮上した時、どの部門が引き取るんだという縦割り的な発想に陥りがちですが、うちはどうやってもこの3人しかいないので。どんな難題でも、どんなスケジュールでも、そうする必要があれば3人でやるのが当然と思っています。だから、誰も課題から逃げない。これが私達の強みだと思います。

このようなコミット力は、なかなか履歴書や職務経歴書のスキル面からは分からないところでもあります。どのようにしたら、そのような方をチームに招き入れることができるでしょうか。

実は人を採用する際の「目利き」には少しだけ自信があるのです。過去に私がIPOを2回達成できたのは、もちろん運もあるのですが、いずれもIPO準備を進める為に必要な良いメンバーを集める目利きが悪くなかったからだと思っています。これについては言葉でお伝えするのが難しいのですが、直感のようなセンサーが働くというか…。この人とはしっかり同じ方向を向いてIPO達成までやっていけそうだ、この人とは難しそうだなっていうのが、お会いして少しお話する中でわかってしまうようになりました。IPOまでの期限を考えたら、スキルさえ満たしていればその時来てくれた人にすぐ決めたくなるのですが、そこは決して焦らず妥協せずに、突破力のある人を見極めることが大切だと思っています。

なるほど、これまでのご経験の積み重ねの賜物ですね。誰もがすぐ真似できるわけでもなさそうです。

そうですね。IPO準備チームにとって必要なことの良し悪しの判断というものは、社長の得意分野とも違いますから、CFOがしっかりとコントロールすべきことだと思っています。もしそれができるCFOがまだ見つかっていない場合には、その分野のプロとして目利きが効く人や、準備期間からIPO後の世界まで知っていて実務に詳しい人などに採用面接時に同席してもらうのも1つの手段として良いと思います。マインドまで見極めるのは難しくても、少なくとも表面的な資格やスキルの有無など以外にも目を向けた判断ができれば、採用でミスジャッジするリスクはかなり下がるのではないでしょうか。

IPOは大きな経営課題ではありますが、その特殊性から社長が得意とされる分野とは違うことも確かに多いですね。

IPOの本質は、事業を成長させることであり、それは社長の力が大きく及びます。創業者社長、CEO、起業家はゼロからものを生み出すクリエイティブな方々です。誰も思いつかないようなことをビジネスにしてしまう、ある意味自由さやクレイジーさも必要です。一方、IPO準備はそれとは正反対の世界。基準や規律を遵守し、正しい会計処理やコンプライアンスを実行することが求められます。社長の自由な発想と、IPOの規律的な概念、この二つの違うベクトルを上手に融合させていくこと。これこそがCFOの役割であり、その実務を推進していくのがIPOチームなので、その選定や遂行は社長に委ねるのではなく、CFOが責任を持つべきであると思います。

なるほど。CFOに期待される役割は大きいですね。

社長のところには証券会社、金融関係、コンサルなどたくさんの方が挨拶に来られると思います。実際、森田もいろいろな方々からIPOや資金調達に関するさまざまな提案や指摘、誘いを受けていましたが、これらに直接に反応することなく、私に「どう思うか」と必ず確認をしてくれました。餅は餅屋に任せる。これはすごく正しい判断だと感じましたね。考えもつかないビジネスを生み出す自由な発想力と強力な推進力を持つ社長だからこそ、投資家も投資したいと思う。でも「上場するならこの規律だけは守ってよね」という部分は絶対あります。その時にCFOは「いや社長、これはどうしても必要なことです。こっちのほうが絶対良いです」と確固たる自信をもって進められるかどうかがとても重要。一方で「規律的にはこうだけど、社長のアイディアは活かした方が事業として伸びるはずだから何とか活かす方法を考えたい」という場合ももちろんあり、会社のリスクを下げながら事業の成長を加速させるという両極のバランスを図ることがCFOに求められるものであり、CFOの要件とはそのようなことが負担ではなく楽しめる人ということになるのではないでしょうか。

社長との連携がとても良いバランスですね。特殊で専門性のあるIPOの領域を社長に委ねずにCFOがしっかりと役割を果たしていく。このことを明確に指摘されていたのが印象的でした。森田社長と小林さんが作り上げてきたものがまさにお手本と感じます。