【インタビュー】株式会社モダリス/ 小林直樹氏-難局でも逃げない突破力をもったチーム作りへの拘りから見えてきたCFOの真の役割とは(3/3ページ) - Widge Media

【インタビュー】株式会社モダリス/ 小林直樹氏-難局でも逃げない突破力をもったチーム作りへの拘りから見えてきたCFOの真の役割とは(3/3ページ)

記事紹介

2020年8月に東証マザーズに上場を果たした株式会社モダリス。入社と同時にIPO準備チームを立ち上げ、そこからわずか1年半後に上場承認がおりるまで、CFOとして牽引した小林直樹氏。現段階では治療に利用可能な薬がほとんどない希少疾患を抱えている方々に、これまでにはない革新的な遺伝子治療薬を届けるべく開発を続けるバイオベンチャーならではのスピード感あるIPO準備ストーリー。手掛ける事業同様に、スマート且つイノベーティブなIPO準備チームの発足から今後の展望まで、様々な角度からお話を伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 利根沙和

難局に挑み続けるIPO準備チーム。彼らの心を決して折らせないために

準備期間中、メンバーに対してはどのようなことを大切にして向き合ってこられたのでしょうか。

そうですね。一番はメンバーの心が折れないようにすることですね。日々、監査法人や証券会社から、できていない部分を指摘されダメ出しをされるわけです。しかもこんな最短スケジュール。でも、やるのは私達3人しかいないという状況の中、心が折れそうになる局面は何度も起こるんです。メンバーにはそれぞれIPOへの想いやそれまでの背景がありますから、「この会社で今度こそ、達成してみせよう」「苦しいけどこんな短期間で達成したら、その分評価されるぞ」など、決して正解はないですが、できる限りそれぞれに響く言葉を選んできたつもりです。心が折れそうな時に、絶対に折れさせない。このことは心がけてきました。

ひとりひとりが責任感を持って取り組まれる中で、時には追い込まれることもあったかと思いますが、それぞれの方に合ったお声掛けされてこられたんですね。

私達がしている仕事が、どれほど価値があり、どれほどレアなことかもできるだけ伝えました。当社の事業は、薬がなくて苦しまれている希少疾患の患者さんに遺伝子治療の新薬を提供するための仕事です。そういう方々の命を救うことに、自分たちの頑張りが直結しているんだと。誰にでもできることではなく、子供や家族、友人にも誇れる重要な仕事だと。IPOについても、年間約100社しか達成できる会社はありません。最難関と言われる東京大学や司法試験の合格者でも年間何千人といますから、それよりもはるかに少ない。だからこそ、自分のキャリアにとってもすごく重要なものになるはずだと伝えていました。

メンバー個人にとっての意義、社会全体にとっての意義、その両方を明確にすることは、大変な業務に取り組み続けるモチベーションとなりますね。ここをしっかり説明してそれぞれに腹落ち感を持ってもらえるかどうかというのが、組織の安定的な運営に関わってきますね。

おっしゃる通りですね。CFOは経理畑出身の方も多いので、組織運営よりも職人のように自ら手を動かし、実務に打ち込むことでチームを引っ張るやり方もあると思います。それはそれでひとつ素晴らしいことなのですが、IPO準備は一人では決してできません。メンバーみんながそれぞれ力を発揮できるための仕組みや環境づくりもまたCFOの大切な仕事なんだと思います。そういう体制をどうしたら作れるかを常に考えていました。

事業も管理部門も、イノベーティブに

無事に上場を果たされて、改めて今の思いをお聞かせいただけますか。

上場して1年以上が経ちますが、緊急事態宣言下だったため、東証での上場セレモニーも開催されませんでした。気がついたら上場していたという感じで、なかなか実感がわかないのが本音です。簡略化したセレモニーは今後開催していただけるようですので、その時はアメリカの役員も呼んで参加したいと思っています。

そうだったんですね。区切りがないと実感はわきにくいですよね。

でも、気持ちは高いテンションが維持されていますよ。当社にとって上場は、資金調達の多様化や信用力の獲得など非常に大きな意味がありました。しかし、事業の目標は遺伝子治療薬という最新の技術を使った薬の開発です。希少疾患で使える薬が今は何もない患者様にご提供できるようになるまでには、まだまだ年月を要します。そこに向けてはもうひと踏ん張り、いや、ふた踏ん張りしなくてはいけないと思っています。

どのような薬の開発に取り組まれているのですか。

昨年ノーベル化学賞を受賞したCRISPR/Cas9(クリスパーキャスナイン)というゲノム編集技術を更に応用した当社独自の遺伝子創薬プラットフォームであるCRISPR-GNDM®︎技術を用いて、その多くが希少疾患に属する遺伝子疾患に対して治療薬を次々と生み出すことに取り組んでいます。従来型の創薬では開発コストと開発期間が膨大にかかり敬遠されてきたことから希少疾患の多くはまだ治療薬がありませんが、当社の革新的な技術力で遺伝子のレベルからこの問題解決に挑んでいます。

今後の薬の概念を変えてしまうかもしれませんね。

そうです。この事業に見習って、私達、経営管理部門もイノベーティブにやっていこうと思っています。つまり、管理業務も単にルーティンで回すのではなく、前例にとらわれずに、変化に対応し、スピード感を持って新しいことに挑戦するということです。上手くいかなければやり直せばいいし、仮に守旧派から批判を受けたとしても、自分たちが正しいと思うやり方をする。そんな気持ちでやっていきたいと思っています。

なるほど。手がける事業のみならず、管理部門のポリシーとしてもイノベーティブでいらっしゃいますね。

そうですね。少人数で大変なことも沢山ありますが、少人数だからこそ良い点も絶対にあるので、そっちの方をどんどん伸ばしていきたいなと思っています。

前向きかつ革新的で本当に素晴らしいです。今後、小林さん個人として、またはチームとして、何か目標はありますか?

私自身、細かく目標管理するのはあまり好きではありませんし、うちのメンバーもそういうものがあるから頑張るという感じでもないんですね。ですから、やりたいことをどんどんやっていこう、というのが目標ですね。「いつまでに○○します」とか、「振り返って自分は○○でした」というのは、少人数ですしお互い見ていればわかります。だから、制度で何かするというよりも、日々一人ひとりの顔をしっかりと見ながら、「ちゃんとやりたいことができてる?」と確かめながら進んでいければと思っています。大きくは会社の事業を進めていく先とちゃんと一致していれば、個々のやり方はどんな方法でもいいわけなので。

なるほど。お三方それぞれが自分の領域をやり切れる方々だからこその先々の見据え方ですね。

そうだと思います。とはいえこの少人数ですから、いつも自然と過去にやっていない何かしらの取り組みを行うことになって、業務の幅や深さもどんどん広げていると思います。今後も臨機応変に新しいことに取り組める柔軟さであったり、少人数が故の当事者意識やスピード感であったりを活かしながら、チームで課題に向き合っていきたいですね。

ありがとうございます。最後になりますが、このコロナ禍でIPOに向けて準備していらっしゃる会社や、今後IPOを考えられているスタートアップ企業へメッセージをお願いします。

繰り返しになりますが、IPO準備で一番重要なのは、突破力を持っている人をチームメンバーに揃えることです。知識や経験については、監査法人の会計士や税理士、弁護士、証券会社の中にも詳しい方々はいるので、そういう人たちを巻き込めば大きく間違うことはないと思います。しかし、会社側に「絶対やり切る」という突破力を持った人がいなければ、負荷の高いIPOプロジェクトは動かせません。だから、やはり人に尽きると思います。そのためにも、適任者を見極める力や、その人にアクセスできるような人脈やコミュニティを持っておく、そういうことを日頃から重要視する必要があると思います。

なるほど。IPO準備に携わる方々が、昨今は社外コミュニティとのつながりを重要視する傾向は既にありますが、CFO就任後、チーム発足後の、具体的なノウハウ面での情報共有という部分に留まっている場合も多いように見受けられます。会社主体で指針をもってIPO準備を進めていく核を築くためにも、もっと前段階から様々な外部組織を積極的に活かしていけるといいですよね。

そうですね。まずは目利きができるCFOを据えることができて、良いチームメンバーを揃えることができれば、半分IPO達成できたも同然です。逆に言えば、そう言っても過言ではないくらい良いチームメンバーを揃えるのはなかなか難しい。先ほども申し上げた通り、社長の得意分野とは違う領域となるので、その領域に明るい人に頼れる環境をぜひ日頃から持っていてほしいですね。あともう1つ大切なのは、正しい情報を持って証券会社と議論ができるようにしておくことです。会社側は通常一生に1度しかIPOをしないので、毎日のようにIPOを扱っている証券会社とは、圧倒的に情報量に差があります。証券会社とはいずれ、バリュエーションの議論などが白熱する場面も出てくるかと思いますので、その時に正しい情報を持っているかどうかが鍵になります。そういう意味でも、スタートアップの企業同士のコミュニティを活用したり、詳しい人に相談したりするなど、社外に出ていって情報を集める動きが必要だと思います。

革新的かつ効率的という御社のスマートなスタイルが、今回のIPO準備においてまさに展開されたということが、お話の数々から伝わってきました。本日は、貴重なお話を本当にありがとうございました。今後の事業の発展を楽しみにしています。

株式会社モダリス執行役員CFO 小林直樹氏

(株)大京の財務部門で不動産ファイナンスの経験を得た後、デロイトトーマツグループにてバイオベンチャーの立ち上げ等のコンサルティングに従事。その後抗体医薬の開発ベンチャーである(株)Argenesに創業時から参画し、製薬会社への売却まで取締役CFOとして経営に携わる。IT企業である(株)はてなにおいては財務戦略やIRの責任者である取締役CFOとして、同社を2016年2月の東証マザーズ上場へと導く。直近では新規がん治療薬を開発する上場バイオベンチャーであるオンコリスバイオファーマ(株)の財務担当取締役を務めていた。一橋大学大学院修了 MBA。