【インタビュー】株式会社うるる - 必要なのは知識よりも交渉力。形式よりもリアル(2/2ページ)
2017年3月16日に東証マザーズへ上場を果たした株式会社うるる。
IPOへ導いた同社の精鋭チームに、これまでの足跡と今後の抱負を伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge ゼネラルマネージャー 山岡直登
<苦しかったエピソード>
IPO準備過程での苦労話を聞かせてください。井出さんはやはりあの泊まり込みの時期ですか(笑)?
井出:あれは本当にきつかったですね(笑)。
でも、実際のところは、既に労務は良い状態でしたし、コンプライアンスの意識も強い会社で、社員のみんなにも恵まれていたということもあって、仕組み化さえしてしまえば、その後は徹夜とか深夜までやったりすることはあまり無かったんですよ。労働時間だけで言えば、コンサルの時の方が働いていたかなって思います(笑)。
やはり皆さんの意識って本当に大切ですよね。
井出:あと、これは苦労話とはまた違うんですが、昨今の流れ的に予実管理は厳しく見られるじゃないですか。審査もとても厳しくなっていて、予算の作り方などは非常に詳しく聞かれましたね。
基本的には単価×数量でどこの売上もできていると思うんですけど、その単価や数量ってどういう構成要素でできていて、どういう風に伸ばしいくんだっていうのを徹底的に聞かれるので、その辺りはだいぶ意識しました。
予実に関してはなかなか難しいところだったと思いますが、しっかりと対応されているのですね。その他には何かございますか?
井出:もちろん実際に審査の段階で引っかかった項目はいくつかあって、それについては社内でプロジェクトチームのようなものを立ち上げて、都度問題を解決していくみたいなことをしていましたね。
審査期間は1ヶ月くらいあると思うんですけど、1週間ごとに何か1つ事件が起こっていくみたいな感じでした(笑)。
この時は、だいぶヒヤヒヤしていましたが、桶山含め、管理部みんなで連携をして、そういう事件が起きても早急に対応をすることで、一つ一つクリアしていきました。
コーポレートのチーム力ですね。
井出:本当にそう思います。
おまけですけど、上場の承認を頂いた時も、社内は全く盛り上がらなかったですからね(笑)。上場日まで1ヶ月、何かあったら大変だっていう思いで、あまり飲みにも行かない感じでした。普通の会社だったら「上場承認おりました!」みたいな感じになると思うのですが…(笑)。
徹底されていますね(笑)。
井出:いろいろとあったと言えばあったのですが、そこまでIPO準備が大変だったという実感はないんですよ。結構、「IPOは大変だよ」っていう話を聞くじゃないですか。でも、環境に恵まれていたというのも大きいですが、みんなが言うほどではなかったなというのが振り返った時の感覚です。
井出さん自身の能力の高さも大きいですよね。ありがとうございます。秋元さんはいかがですか?
秋元:私の場合は、人事総務の全てを一人で対応していたので、物理的に大変でしたね(笑)。派遣の方の力を借りていた時期もありましたが、基本的には一人でやっていたので、今思えば良くやっていたなと(笑)。
給与計算や社会保険手続きも自社で行っていたので、採用・労務・制度・総務・庶務・法務・SO関連など、本当に全般です…(笑)。
一般的には考えられないですね…(笑)。給与計算などをアウトソーシングされているのであればまだ分かりますが。なぜメンバーの採用をされなかったのですか?
秋元:そこまで人数を抱えるわけにはいかないので、やれるところまではやろうと。
井出:本当に大変だったと思いますよ。経理の場合は、監査法人が第三者の目線で指摘をしてくれたりしますけど、人事の場合は、その大変さがなかなか伝わりづらいですからね…(笑)。
秋元:当時は何とかやり切りましたね。でも今は無事に採用もできて、素晴らしいメンバーと一緒に仕事ができています。
本当にタフに仕事をされていたのですね(笑)。その間はどうやってメンタルコントロールをしていたのですか?
秋元:特に何かをして発散していたというよりは、責任感ですかね。当時はそれが当たり前でしたし、自分がやらないと上場できないという強烈な責任感がありました。
井出の話とも重複しますが、一人で対応をするという点では大変でしたけど、私もみんなが言うほど大変ではなかったな…という感覚ですね。
<大切にしていたこと>
IPO準備の過程で大切にしていたこと、心がけていたことはありますか?
井出:私は途中から入った身ですからね。会社としてはそれまでにも歴史があり、創り上げてきたものがあるので、途中で入ってきた者が足かせになってIPO準備を止めるわけにはいかないじゃないですか。そういう意識はとても強くありまして、まず自分の任されたところは徹底的にクリアしていこうという心がけは常にしていました。
秋元:僕も同じですね。「管理ができていなかったから上場ができなかった」なんてことには絶対にならないようにしようと思っていました。自分がストップさせるわけにはいかないので、いくら時間が掛かろうが完璧にしなければならないと自分の中で決めていましたね。
井出さんは「外から入ってきた」という意識を自身で持っていたということなのですね。
井出:そうですね。そういった意識を持っていたので、これまで会社が築き上げてきたものを否定しないようにしようということは意識してました。もともとのやり方などを否定することから始めてしまうと、たぶん社内の人間関係っていきなり崩れてしまうと思うので。
素晴らしい考えですね。桶山さんとしても、こういった点は非常にありがたかったのではないですか?
桶山:本当にその通りですね。例えばCTOとかもそうですけど、「何だ、このシステムは!?」、「何でこれ作っちゃってるの!?」みたいな話もよくあるじゃないですか。その辺りも全て同じで、当時は当時のリソースしかなくて、お金もなくて、時間と人とものと全ての状況で一番良いジャッジをしなければならなくて、結果それになってるんですよね。だから、井出の言う通り、否定から入ってしまうと全てがブレイクしてしまいますよね。
<IPOを目指す企業へ>
IPO準備を進めているコーポレートチームの方々に向けて、何かお伝えできることがあれば、お願いします。
井出:どうですかね…。個人的にはあまり自分だけで抱え込まない方が良いように思います。それこそ、桶山は社外にとても知り合いがいるので、既にIPOを達成された方も多く知り合いにいて、その方々の話を聞くことによって、「こういう風にしていたんだ!」みたいなことをすごく知ることができたと言っていました。社内の人とかコンサルの方に聞くのはもちろんですが、社外の知り合いをたくさんつくり、少しずつ情報を得ていくということも大切なことなのではないかと思いますね。
たとえば、どういった方がいらっしゃったら良いかと思いますか?
井出:各分野に詳しい人は知り合いに一人ずつはいた方が良いと思いますね。
桶山:やっぱり、上場を経験したCFOと繋がるということが最も役に立ったような気がしますね。本当に細かいところもいろいろと聞けましたので。ファイナンスの面なども含めて、同じような目線で相談ができる人が外部にいると心強いです。なんだかんだ素人なので、会社側が損をするということが結構あると思うので。
井出:私の場合は、IPOコンサルやIPO準備経験のある知人がいたので、その方々に聞いたりしていました。セミナーやイベントにも、たまに足を運んで人脈作りもしていましたね。
秋元さんはいかがでしょうか?
秋元:心構えとしては、当事者意識、責任感を持って取り組むということでしょうか。あとは、期限が決まったら、当たり前ですがそこに向けてしっかりと計画をして、やり切るということですね。特に労務などは「すみません、ちょっと時間がかかっています…。」っていうわけにいかないので。
たしかにそうですよね。
秋元:知識は特に無くても大丈夫だと思っています。ただ、今思えば、私も周りに聞ける人がいたらありがたかったなぁという思いはありますね。私の場合はやり過ぎた感もあるので(笑)。
正解が分からない中で、とにかく完璧にこなそうとしていたんですよ…(笑)。
ある程度のさじ加減が分かっていれば、全てを完璧にこなす必要は無かったということですね。
秋元:そう思いますね。持株会やストックオプションの仕組みに関しては、早めに策定しておいて良かったなと思います。弊社の場合、経営陣が「従業員に還元したい」という思いを当初から強く持っていたので、非常にやりやすかった感覚はありますね。
桶山:持株会は早めにやって良かったですね。やっぱり上場して嬉しかったのは、みんなの資産が増えたことです。そのおかげか、社内でも、結婚ラッシュや出産ラッシュ、マイホームラッシュという状況なんですよ。時価総額が低い段階から出しているので、今の時価総額考えるとかなり夢がありますよね!
そんな初期から、一社員が買える状態にしていたのですね!
桶山:パートさんも対象にしていましたよ。あとは、給与を下げてでも入社してきてもらった古いメンバーも多くいるので、そういうメンバーに対しても、一つの義務は返せたかなという思いはあります(笑)。
努力して持株会やSOの設計をされた秋元さんに、社員の皆さんは感謝されているかもしれませんね。
桶山:確かに、秋元がいなかったらやっていなかったかもしれないですからね。
秋元:前提条件としては、先ほどお伝えした通り、経営陣の意識だと思います。オーナーや経営陣が持株比率に固執し過ぎたりしているケースも多いと思いますが、そうなると、非常に進めづらくなるような気がするので。「従業員に還元したい」という経営陣の熱い想いがあってこその施策だと思いますね。
桶山さん、IPOを目指すCFOの方にお伝えできることはありますか?
桶山:経験してみての持論なのですが、もちろん専門性とか知識って重要だと思うんですが、CFOは交渉力が本当に大事だと思いました。いくら専門性が高くても、こちらに有利な交渉ができないと、全てが言いなりになってしまうので。
それは社外に限らず、社内でも言えますよね。
桶山:おっしゃる通りですね。経営陣や事業部側のメンバーなど、管理部門側と視点にズレが生じてしまうケースもあると思うので、それをしっかりとマネージしていくのもCFOの大きな役割だと思います。そういった意味で、交渉力は非常に重要かなと思います。
井出:そうですね。たしかに桶山の交渉力は、いろいろな会社のCFOの中でも、抜きん出ているように思います(笑)。
秋元:桶山が社内・社外に対しての交渉力を持っていたため、それぞれが持ち場をしっかり固めるということに注力できたような気がします。
事業が分かる、創業メンバーの桶山さんが社内外の交渉をして、専門性が必要な部分は井出さんや秋元さんが対応するという、非常にバランスの取れたチームということですね。
桶山:そうですね。この二人がいなかったら絶対にできませんでしたよ。素晴らしいスペシャリストだったので、私は安心して交渉に専念ができました(笑)。
<今後の目標>
今後のビジョンがあれば教えてください。
井出:今の会社では、経理以外にもいろいろとやりたい事をやらせてもらっていて、だいぶ経験の幅が広がっているので、今後も、自分の経験したことのない分野にどんどんチャレンジしていきたいですね。たとえばプログラミングとか。
プログラミングですか?
はい(笑)。ベンチャーなので、他の部署ともいろいろとコミュニケーションを取るじゃないですか。その中でプログラミングに興味が出てきたんですよ。少しでも自分の幅が広がるといいなと常に思っています。
秋元さんはいかがですか?
秋元:私は、IPO準備において、周りに聞ける人がいなくて苦労をした面もあったので、今後IPO準備を始める会社や、IPOに関わる方々に対して、自分が経験したことを少しでもアウトプットしていけたらいいなと思っています。
私自身、関わる人が幸せになるということがもともとのミッションなので。社外でもそういった活動ができたら嬉しいなと思います。
いろいろとお話を伺い、本当に素晴らしい組織だなと感じました。
井出:もっとそう言って頂けるようにがんばります(笑)。
秋元:我々ができることもまだまだたくさんあるので、より会社のステージが上がるように頑張ります(笑)。
財務経理部長 井出彰氏(右)
総務人事部長 秋元優喜(中央)