【インタビュー】ヘイ株式会社/佐俣奈緒子氏 - 採用とPMIの舞台裏から見る、ファンが急増するヘイ独自の文化とは?(2/3ページ) - Widge Media

【インタビュー】ヘイ株式会社/佐俣奈緒子氏 - 採用とPMIの舞台裏から見る、ファンが急増するヘイ独自の文化とは?(2/3ページ)

記事紹介

2年前の経営統合で50名からスタートし、2年間で従業員数を200名規模まで拡大した同社。PMIと採用を同時進行で進めた舞台裏、toB企業でありながらファンの多いヘイ社独自の文化はどのように築かれていったのか、「Just for fun」をうたう組織作りの秘訣について様々な角度からお話を伺った。

この記事のトピック
■統合していく過程でどのようなことに主眼を置きながら組織開発を行っていったのか
■現在の同社のコーポレートアイデンティティが生まれた過程とは?
■今後組織開発を行う上で実施したい施策とは?
※インタビュアー/株式会社Widge 舘石鈴央

PMIについて

興味深いお話を、たくさんいただきましたが、実際に統合時には様々な苦労もあったかと思います。

一般的に言われるPMIのところですよね。 

すごく異なった文化を持っているわけじゃないという前提はありつつも、私がそこを担う上で注意したのは、相手に対してリスペクトを持つということでした。つまりストアーズ・ドット・ジェーピーに対して、「過剰なほどのリスペクト」がないとキレイに一つになることはできないな、と思っていたんです。 

リスペクトを持つ上ではまず理解しなければならないので、「どんな会社なのか」「どんな人がいるのか」「何を大事にしているのか」ということに関して、深く理解をすることに注力しました。

 その上でストアーズ・ドット・ジェーピーの良いところは取り入れるし、変えた方がいいところ、あるいはコイニーがもっと良いところを持っているんだったら、それを双方持ち寄って、新しいものとしてヘイをつくるという感じです。ヘイのあるべき形をとることが最も重要なので。

ただ、どちらを優先させるかというと、ストアーズ・ドット・ジェーピーをすごく意識的に優先させましたね。新しいものって思考から排除してしまいがちで、無意識でいるとどうしても自分の過去の成功体験からの意思決定やプロセスに寄ってしまうので。

 あとはやっぱり「ヘイとしてこうあるべき」ということを言語化して新しい未来図を描きながら、そこに対して同時進行でどんどん新規採用を進めたことは良かったかなと思います。

一般的には「統合後は社内調整で立て込んでしまうので一旦採用は止めて……」みたいなイメージがあるんですけど、真逆ですね。

組織規模はそこまで変わらない2社での統合でしたが、やっぱり新しい人が入ってくることで活性化したり、「ヘイとして」という主語が出来てくるので、意識を変えるというところではいいきっかけになったかなと思います。

【コイニー株式会社について】

ここまでヘイに関する初期のお話を伺ってきましたが、佐俣さんがコイニーを立ち上げられた時はいかがでしたか?

今振り返ると、コイニーの立ち上げ時は、初めての起業ということもあって、手探りの部分も多く、正直よくわかっていなかったなって思いますね。例えば、資金調達後に組織を大きくして、やっぱりうまくいかなかった経験はあります。

「自分たちがどういうことを目指していて、どういう人たちと働きたいからこういう人を仲間に入れるべきだよね」と定義せずに、例えばすごく優秀な人だけを採用するというようなこともありました。 ただ、そうすると、入ってくれた人には何の罪もないのですが、組織の土台が無くて全く活躍いただけないとか、素晴らしい能力を発揮できずに終わる、みたいな経験がたくさんありました。

なので、その学びはヘイをやるときにはとても大きなものになっています。 入っていただいた方々がここで働いて楽しいなと思ってもらい、成長できると感じながら活躍してもらえる環境にしたいという思いが強くあります。なので、「どういう人を入れるべきか」というところは見極めながらスタートしたという感じはありますね。もちろん走りながらではありますが…。

【採用・組織に関する話】

今採用のお話が出たので、その点もお伺いしたいです。

採用に関しては、良い方・優秀な方を採用したいというのはもちろんあるんですけど、同時に、「合わない人を採用しない」という方が重要だと思っています。お互い不幸になってしまいますからね。この点は特にヘイになってからは意識しています。

「合わない人を採用しない」というのは、非常に共感します。

そこを失敗すると、恐らく組織の良い状態を取り戻すのに倍の時間を取られてしまうなと思っていて。

ただ、御社ぐらいの規模になってくると、組織の成長スピードに対して、合わなくなってくる人も出てくるのではないかと想像するのですが、そのあたりはいかがですか?

やっぱり30人の組織と、300人の組織で、あるべき動き方などは全然違っていて。例えば「小さい組織に戻りたい」という人や、「もう一回ゼロイチやりたい」とかいうところでフィットしなくなるケースとかは正直あります。

 経営サイドとしても、やり方を随時変えて経営統合をしたり人を増やしたりしているわけなので、そこは働いてくれている人たちも同じで、そこにズレが出てくるというケースはあると思います。

もちろん、経営サイドの意思決定を丸投げすることはなく、きちんとフォローはしますがそれでも絶対に残ってほしい、みたいなことはあまり思っていないです。

 個々人の人生・キャリアの中で、最適なものを選んでもらえればいいと思っているので、目指すものが変わって、方向性の違いが出てくるのは一定数あって仕方ないと認識しています。毎回もちろん寂しいですが。一方で、新しく採用した人たちが本当に合わなくてすぐ辞めるというケースはあまりないですね。

「合わない人を採用しない」という原則が上手く働いていらっしゃるということですね。

とはいえ、ヘイをスタートして2年半強、採用を強化してからは2年ぐらいなので、新しくはいった人が次を考え出す期間がまだ来てないだけだとも思っています。だいたい人って3年ぐらいで飽きるのではないかと。

一般的な「3年で一区切り」みたいな感覚でしょうか。

正確に言うと、飽きるというよりはキャリアについて再考するのが、3年単位ぐらいで来るのかなと思っているので、もし何か動きがあるとすると、来年以降かなと。 

3年ぐらいの区切りの中で、このままヘイの中で成長していくと考えるのか、また次のチャンスを探しにいくのかっていうところに関して言うと、今はまだ中で頑張ると考える方が多いタイミングなのかな、とは思いますよね。

なるほど。

元々経営統合する上で決めていたことがあって。

どんなことでしょうか?

統合したからには、大きく資金調達・財務強化をして事業を伸ばしていくということですね。では強化して事業を伸ばすためにどうするかというと、人に投資をして、組織拡大しようというところは当初から決めていました。 

その一方で、組織ってだいたい150人とか200人ぐらいで一回壁に当たるなっていう感覚もありました。

組織を拡大する上では、良く耳にする話ですね。

ヘイがスタートしたときは50人ぐらいだったんですけど、50人のときに良かったルールだとか文化があって、150人、200人になってもそれが良いかというと、そんなことは無いものもあるんですよね。

なので、その時点でアップデートしないと組織が疲弊してくるというか、綻びが出るなというのは当初から思っていたので、そのタイミングがきたら採用を止めようと思ったんです。

採用を止めたんですか!?

ただ、実は、その止めるタイミングって、去年の冬から今年にかけてだったんですよね。本当に半年から1年くらい止めようと思っていましたが、外部環境としてコロナウイルスの拡大が我々にとっても大きく影響し、事業が成長するきっかけになったんです。

本来は採用を止めて、内部向き合う予定だったものを、困られているオーナーさまも多くいる中で、よりプロダクト改善に力を入れていきたいと、もう一回採用に振り直すということをやりました。今年の4月からです。

なので、組織的に中でやりたかったことと、採用でもう一回ギアを上げて組織拡大するということを両輪で回さなければならないので、当初の予定よりも2倍やらなきゃいけないというのはありますね。

ただ幸いにして、思ったよりも組織が壊れてはいないのが救いです。 この状況でどうやって全員の能力やスキルを引き上げて、組織としてのパフォーマンスが落ちないようにするのかという点が今の一番の課題かと思いますね。

当初の予定とは大幅に変更がありながらも、組織が壊れていないというのはどういった要因があると思いますか? 他の企業では、コロナ禍でリモート勤務をしながら、新規で採用もするとなると、大変なことが多いという印象があるのですが……。

大きく2つ要因があると思っています。 一つは、今従業員数で行くと約200人ですが経営陣が多い会社なので、社長対200になってないということですね。経営陣が何人かいる中で、その下に80人、80人、40人がいる、という感じなので、一定レベルで目が届く範囲の中で経営が出来ているというのは、個社単体で経営していたときとは大きく違うところです。それによって保たれている部分は結構あるなと思っています。

もう一つは、人事的なところですが、こういった状況下でも、入社後に早期に活躍してもらうために、入り口の採用面だけでなく、オンボーディングの部分までのコストをかけているので、それが機能しているかなと思っています。 入社後1か月、3ヵ月のところまでは手厚くして、それ以降はある意味一旦手放して、組織としてはそこまで手厚く投資はしないという選択を取っているので、そこの取捨選択が比較的うまくいっているのかなと思いますね。

なぜそうしようと思われたのでしょうか。

仮に組織をプロダクトだと思うと、新しくサインアップしたユーザーは、サインアップ当初はテンションが高いんですけど、やっぱりどんどんモチベーションって下がっていくと思うんですね。でも、はじめに一定レベルまでテンションが保たれた場合は、そこからアクティブ率が落ちないんですよね。

例えば、昔SNS言われていましたけど、「最初の7日間に何人の友人と繋がれたか」という指標があって、その期間内で一定数の友人と繋がった人はそこから サービスを使い続ける、みたいなものと同じで。

 社内においても、最初に成功体験とか、安心感が培われた状態になっていくと棄損していかないので、早期のそうした体験をどう作るかがとても重要だと思っています。そこまで立ち上がれば、あとは自走してくれる方ばかりを採用しているので、そこまでの投資だけに集中するように、我々の場合は取り組んでいますね。

また、とても興味深いお話を伺えました。

我々の場合、この「オンボーディングのところに集中する」というのは、良かったと思っています。やっぱり早期の成功体験はすごく重要ですからね。

おっしゃる通りですね。

組織ってどうしても「評価制度の設計」とか、「ビジョン・ミッション・バリューの浸透」とか、大きなお題になりやすいんですけど。

多くのスタートアップがそこに注力しますよね。

ただ、我々の場合でいくと、当初そこに大きく投資をするというのが難しくて。取捨選択をする中で、「どこにフォーカスする領域を作るか」といったときに、「オンボーディングを取った」っていう感じなんです。もちろんその中のコンテンツはずっとブラッシュアップしている感じですけどね。

その入社後1か月、3か月のオンボーディングでは具体的にどんなことをやっていらっしゃるのですか? 

そもそも「我々がどんな会社か」というところを改めてお伝えするために、経営陣から会社説明を行う機会を設けたり、あるいは経営陣3,4人と、新しく入社いただいた方3,4人位でグルーピングして、一時間ざっくばらんに話すお茶会をしたり。マネージャー面談を入れたり、人事面談を入れたり、アンケートを取って実際どうですか、というのをきちんと可視化するといったことですね。

どのような意図からですか?

期待を揃える、ということが強いですね。 できる限り面接の中でも話はしますが、その人がどういう価値観で仕事をしているかは、実際に働いてみないと、数回の面接の中では中々分からないですよね。

 「会社と個人」、「チームと個人」、「チームの中のメンバーと個人」の双方に対して、「相互理解を深めるための時間を重点的にかけている」というような形です。正社員でも契約社員であってもやっています。

とはいえ、コロナ禍でリモート勤務をされながら新規で採用をされるとなると、オンボーディングの部分は難易度が上がるイメージがあるのですが。

短期でいくとやっぱりネガティブに倒れやすいなと思っていて。 人と人との信頼関係って、もちろんオンラインでも培えるんですけど、リアルで会うことで、よりそれが補完されていくものだと思っているので。

 特に新しく入った人が、自分のチームとのコミュニケ―ションは問題ないけど、他のチームを見渡したときにどういう人がいて、その人がどんなことをやっていて、どんなキャラクターで、というのを把握するコストって、今の環境下だとすごく上がっているなと思っています。それをどう補完してくのかというのは課題ですね。

とはいえ一方で、その人のパフォーマンスがリアルなオンボーディングと、オンラインのオンボーディングで著しく異なっているかというと、現状そこまでは大きく影響は無いかなと思っています。

世間的には「出勤がなくなって生産性が上がった」なんてことも聞いたりしますが、そのあたりはいかがですか?

正直、オンラインになったからすごい生産性上がりましたねという感じではなく、やり方を変えていく中で保たれてはいる、という感じですかね。この働き方だからこそ、もっと良くできる方法はあると思っているので、今後も色々試していきたいです。

今はいわゆる「withコロナ」という状況の中で色々試されているという感じなのですね。

これまでと働き方が変わっているというのは事実だと思うので、その上で、今の環境下で最大の成果が出せるのかという施策は、常にアップデートしているという状況ですね。

ちなみに、最近試した具体的な施策はありますか?

我々がリモート化を徐々に開始したのが2020年2月で、本格的にしたのは4月の緊急事態宣言前なんですけど、その後約半年間、本当に必要な時以外はほぼ出社は止めていたんですよ。 ただ最近、9月中旬くらいからは、入社日は出社するように変えました。そこでチームのみんなと会って、密にならないように配慮しながら一定人数で、会社負担でランチをしたりしていますね。そうしてリアルでコミュニケーションを取ってからリモート環境での仕事に入る、という形に変えていますね。

最初からオンラインで顔を合わせて業務開始すること自体がネガティブなものではないと思いますが、そこから気軽に声をかけるような状態にまでもっていくのは、リアルで会って喋った後の方がやりやすいな、というのがあって。

あとはどこでも言われていると思いますけど、雑談が減るというのはあるので、リアルでは当たり前にあった雑談を補完するために、「その人の価値観がどんなものなのか」がわかるワーク、ゲームみたいなものを明確にオンボーディングのプロセスの中に組み込むことによって相互理解を深める、という施策は加速してやっていますね。それはオンラインベースでも全然構わないと思いますが、やっぱり、「雑談してください」って言われて雑談するって難しくて。

確かにそうですよね(笑)。雑談するためのコンテンツを、会社側から提供するようにしたんですね。

「新しく入った人ってこういう価値観なんだ。」ということだけでなく、中のメンバーの価値観も同時にわかるので、この人こういうことを大事にして仕事してるんだな、とか、普段のミーティングじゃ見えないような顔みたいなものが、全体の中で可視化されていくプロセスを取っていますね。

そうした楽しみも取り入れながら、新しく入社された方も中の方もお互いを可視化するということをやられているんですね。