【インタビュー】freee株式会社 - 進化を続けるファイナンスIRチーム。国内外の投資家と実直に向き合い続け見えてきたものとは。(1/3ページ) - Widge Media

【インタビュー】freee株式会社 - 進化を続けるファイナンスIRチーム。国内外の投資家と実直に向き合い続け見えてきたものとは。(1/3ページ)

記事紹介

2019年12月に東証マザーズに上場を果たしたfreee株式会社。日本のSaaS企業初のグローバルオファリングかつ大型上場ということに加え、上場時に海外投資家に約7割の株式を配分したという、日本のベンチャー企業としては異例の水準であったことでも注目が集まった。ファイナンス統括としてチームを牽引し続けている原さん、上場準備初期から上場後のIR・資本政策まで実務面で中心となっている内田さん、上場後のファイナンスIRチームに加入し若手ながら確かな戦力の重光さん。IPOから時間を経た今もなお持続的成長を続け、資本市場にまつわる先進的な取り組みを続ける同社のファイナンスIRチームにお話を伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 利根沙和

上場へのより良き道をさぐる社内外とのコミュニケーション

グローバルIPOとして注目された御社のIRチームにお話を伺えるとのことで、とても楽しみにしておりました。早速ですが、お三方のこれまでのご経歴とfreeeに参画された経緯からお聞かせいただけますか。

内田:私は2017年9月にfreeeに入社しました。それまでは新卒で入った証券会社で上場審査やM&Aに携わっていたのですが、アドバイザーというよりもディールの当事者として、事業会社で主体的に関わりたいと思うようになり転職しました。

既にIPO時期なども見据えた上でのご入社だったのですか?

内田:採用段階でIPOを目指していくという話は既にありましたが、まだ明確なスケジュールなどはない段階でしたね。入社後に主幹事証券を選定し、徐々に準備をスタートしましたが、当時のコーポレートチームはまだ経理が1人だけで、財務担当は誰もいないような規模でした。そこに僕が財務担当として入社して、事業計画や予実管理などをしっかりと行っていくようになりました。

ファイナンスIR 内田修平さん

コーポレート業務を円滑化する様々なツールをご提供されている御社なので、コーポレート部門の体制も初めから充実されているイメージを勝手ながら持っていたのですが、割と一からだったのですね。準備の初期段階でご苦労されたのはどのようなところでしたか?

内田:そうですね。当時は社内で「上場をするので新しい稟議制度を導入します」とか「新しい規程を追加します」っていうと、「上場を言い訳にするのはかっこ悪いよね」みたいなことをたまに言われたりもしました。freeeの行動指針として「理想ドリブン」という言葉があり、これは理想に向けて物事を考えようというものなんですが、常日頃から「それはそもそも意味があるのか?マジ価値なの?」とか「理想ドリブンなの?」と考えるカルチャーがあるからこその反応でして。「そもそも稟議って意味あるの?」みたいな議論になることもあったんですが、でも意外とそこから本質を考えたことで、もともと考えていた案よりも本当にみんなが取り組みやすいシステムになったりしたんですね。非常に時間も労力もかかったんですけど、そういった稟議とか仕組みとかを丁寧に考えられたことは結果的に良かったのかなと思っています。

なるほど。大変な上場準備期間中のそういった社内の反応はネガティブに捉えがちですが、最終的にプラスの結果に結びつけていらっしゃって素敵ですね。

内田:ありがとうございます。上場準備は大変なんですけど、会社が少しずつ成長できるステージだと思いますので、前向きに捉えてもいいのかなというふうに思って過ごしていましたね。上場準備チームも私1人というわけではなく、全体的にはCFOの東後の指揮のもとで、各部門それぞれ人材を拡充したり、課題を共有したりして進めていました。

社内統制面以外では、上場に向けての外部対応といいますか、ファイナンス戦略などで意識されていた点などはありますか?

内田:投資家の方々とはIPO以前から様々なコンタクトを取っていました。最後のプライベート調達が2018年8月に完了し、その後IPO準備が本格化しました。もともと未上場株と上場株の投資家は違う層なんですが、ここ数年は未上場株に興味をもつ上場株投資家が増えてきているんです。IPOを見据えてそういう方々とのコミュニケーションを意識的に活発化させていきました。上場準備にあたって、上場株投資家の方々と話す中で、彼らがみているポイントというのはとても勉強になりましたし、我々からもfreeeの現状についての率直なフィードバックを求めたりと、かなり積極的なコミュニケーションをとっていましたね。もともとSaaS市場はUSの方が成熟していて、SaaS企業のIPOの実例をみてきている海外の投資家からもらうフィードバックはすごくありがたかったです。

なるほど。投資家の方々とのコミュニケーションからも課題の洗い出しや解決策の模索につなげていらっしゃったんですね。原さんはどのタイミングでご参画されたのでしょうか?

原:私が入社したのは上場の7ヶ月前、2019年5月です。監査法人を経て日系の証券会社で投資銀行部門に9年ほどいました。そこではM&Aがメインでしたね。その後に外資系証券会社に移ったのですが、様々な業務に携わる中で外食企業のグローバルIPO2件に携わりました。IPOは企業のフェーズが変わるところを目の当たりにするので、個人的にはそれが一番面白い案件として記憶に残っていました。外資系証券で6年ほど勤めた後にfreeeに入社しました。

執行役員ファイナンス統括 原昌大さん

前職で既にグローバルIPOのご経験があったのですね。上場直前期、まさに即戦力でのご加入ですね。

原:キャッチアップすべきことは非常に多かったのですが、IPO準備がいよいよ本格的に進むタイミングでの入社でしたね。入社して2週間ですぐに、CEOの佐々木とCFOの東後と一緒に、国内・海外の投資家をまわるInformation Meeting(プレIPOロードショー)に出ていました(笑)。

即も即の即戦力ですね(笑)。IPO準備期間の終盤からご参画ですが、いかがでしたか?

原:先ほど内田が話していた通り、実際に入社してみると意外と少人数で上場準備の業務を回している状況で、良い意味でまだまだ仕上がってない会社なんだなという驚きはありましたね。でも上場準備というのはある意味楽なんですよ。証券会社などの外部機関の方々が具体的にやるべきことを全部手取り足取り教えてくれるので。ただ、上場後どうしたらいいのかということは、本にも書いてないし、証券会社の人も誰も教えてくれない。なので先輩上場会社さんにひたすらヒアリングして色々と教えてもらいました。上場後に何が必要なのか、その為にはどのようなオペレーションを組まなくてはいけないのかとか。上場の数か月前から準備していましたが、それは上場前に本当にやっておいて良かったなと思っていることの1つです。

内田:そこは本当にそうですね。上場準備ってすごく負荷が大きくて、しかもグローバルIPOなので目論見書も日本語に加えて英語でも作るとなると、本当にかなりの負荷がかかってくる。なので、上場準備中はIPOのことしか考えられなくて、上場後のことになかなか手がつかない状態が続くんですよね。でもそこで原が音頭を取ってくれて、上場後のバックオフィスに必要な機能や事柄などをバーっと一覧化していって、各項目のリスク分析や必要な事務作業の洗い出しを事前にすることができたんです。上場準備の作業と並行して上場後を見据えた事も確認していくことができたおかげで、2019年12月に上場した直後の2月中旬にした四半期決算発表も含め、慌てずスムーズに上場後のIRに取り組めたかなと思っています。

ステークホルダーとの良好な関係を支えるフィードバック文化

なるほど。お二方とも証券会社のご出身でIPOの知識やご経験がある中でも、当事者となってのIPOはやはり違ったご苦労があったのですね。

原:実際に企業側でIPO準備を進めるとなると、自分たちが決めなきゃいけないことが本当に多いんですよね。もちろん証券会社時代にお客さんにアドバイスする際には真剣に向き合っていたという自負はあるんですけど、やっぱり決める時の最終的な責任は発行体であるお客さんなんです。事柄によっては少しの選択の違いが大きな方向性の違いにもなり得るわけで…。自分が実際に発行体の当事者としてやることのプレッシャーというのはけっこう大きかったですね。例えば公募でいくら調達するのかによっても、会社の今後の成長の為の資金が変わってきちゃいますし、これに限らずもっと細かい話も含めて、自分たちで決めなきゃいけない。判断しなきゃいけない要素が無数にあるなっていうのはプレッシャーを感じたところではありましたね。

責任重大…大変なプレッシャーですよね。

原:そうですね。でも一方で、発行会社の立場として進める中で物事の判断に迷ったり、これって細かく言うとどっちにしたらいいんだろうみたいな時には、証券会社に良いディスカッションパートナーになって一緒に考えてもらうというのもかなり大事にしていました。証券会社の言いなりになるという意味ではなくて、もう疑問に思ったことを全て素直にぶつけてみるんです。しかも疑問をぶつけるだけじゃなくて、ちょっと何か我々が思っているのと違うという事があれば、それも割と率直に証券会社の方にフィードバックさせてもらいました。その結果として良いIPOを作ることができたと思いますし、上場後も良いパートナーシップを築けているのかなと思っています。上場って、証券会社にとっては何件もある案件の1つかもしれないですけど、ほとんどの企業にとっては一生に1度のイベントなわけですよね。そこで悔いが残らないようにやれたっていうのは良かったと思っていますね。

2019年12月上場時

なるほど。内田さんがお話されていた上場前からの投資家とのコミュニケーション面でもそうですが、御社は本当に外部の方々とのコミュニケーションに長けてらっしゃいますね。変にテクニカルにならず率直かつ自然体でのコミュニケーションがすごく活きてらっしゃって、それを力にしていかれているのが素晴らしいです。

原:ありがとうございます。投資家に対しても、コミュニケーションをとるにあたって、うちはあまり上下関係は意識しないというか…。むしろ投資家の理解が違っていたらそれは正しに行かせてもらいますし、あとは何か一方的に質問を受けてそれに答えるだけではなくて、逆にこちらから聞きたいことがあったら投資家にも質問させてもらいます。上場前もですが、上場後もけっこう日々のIRでそこは積極的にやっていますね。

すごくフラットで良い関係性ですね。こういうスタンスは何か御社の企業文化から来ているものなのですかね。

内田:フィードバックはもともとfreeeの文化の重要な要素だと思います。社内のチームのメンバー同士もそうですし、マネージャーに対してもフィードバックを求められる機会が多いと思います。そもそもfreeeのカルチャーとしてフィードバックが好きというか、大事にしている文化があるから、社外に対してもお互いのために必要なことは言おう、やろうみたいな…割とそういった姿勢があるのかなと。なので僕もけっこう証券会社に対しても、何か違うなと思った時はその理由をフィードバックしようと思うし、しっかりと伝えていますね。

クラウドシステムを育て上げる過程においてもフィードバックはより良くしていくために必須ですよね。そういったところのベースも皆さんのカルチャーに関係しているのかもしれませんね。

原:そうですね。SaaSは、「売ったら終わり」じゃなくて、お客さんに利用していただいてからのフィードバックによってプロダクトもカスタマーサポートも改善していくものなので、確かに重要なファクターとしてありそうですね。