【インタビュー】株式会社モダリス/ 小林直樹氏-難局でも逃げない突破力をもったチーム作りへの拘りから見えてきたCFOの真の役割とは(1/3ページ) - Widge Media

【インタビュー】株式会社モダリス/ 小林直樹氏-難局でも逃げない突破力をもったチーム作りへの拘りから見えてきたCFOの真の役割とは(1/3ページ)

記事紹介

2020年8月に東証マザーズに上場を果たした株式会社モダリス。入社と同時にIPO準備チームを立ち上げ、そこからわずか1年半後に上場承認がおりるまで、CFOとして牽引した小林直樹氏。現段階では治療に利用可能な薬がほとんどない希少疾患を抱えている方々に、これまでにはない革新的な遺伝子治療薬を届けるべく開発を続けるバイオベンチャーならではのスピード感あるIPO準備ストーリー。手掛ける事業同様に、スマート且つイノベーティブなIPO準備チームの発足から今後の展望まで、様々な角度からお話を伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 利根沙和

財務のプロフェッショナルが挑む前代未聞のスピード上場

本日はお忙しい中ありがとうございます。早速ですが、これまでのご経歴をお聞かせください。

社会人になって約30年ずっと財務畑を歩んできています。これまでの職歴としては、大手不動産デベロッパーでの財務担当を経て、大手監査法人系列のコンサルティング会社にてベンチャー立ち上げコンサルやM&A・MBOコンサルなどを経験。その後はCFOとしてバイオベンチャー、エネルギーベンチャーを経て、ITベンチャーの株式会社はてなではマザーズ上場を達成しました。財務はどんなところでも求められる職種です。業種の垣根を越え、東証1部、監査法人、未上場、再生ビジネスなど様々な組織でやってきました。一貫して財務に関わりながらも、多種多様な業種・組織を経験しているのが私の特徴だと思っています。

小林さんというと、バイオのイメージが強かったのですが、本当に多岐にわたる業種や組織をご経験されていらっしゃるのですね。

そうですね。結果的に現在バイオ系企業が3社目で一番経験が多くなっているのですが、職歴のスタートは実は不動産という、全くサイエンスとは関係ない業界です。不動産や監査法人にいた人間がバイオにいくというのはあまりないかと思うので、そこに寄っていったのは人との縁も大きかったと思います。監査法人でベンチャーの立ち上げコンサルをしていた時、新規ビジネスのバイオについて勉強する必要があったんですね。それがバイオビジネスに関わるきっかけとなりました。自分が望んだというよりも、自然とそのような流れになり、やってみたら面白かった。一般的にバイオ業界というと少々特殊なイメージで職歴に色がつくと思われる方もいるようで、飛び込むのが難しいと思われがちな業種かもしれませんが、私にとってはやってみたら興味深くとても面白い業界だったのです。

執行役員CFO 小林直樹氏

財務などの管理部門からみても、バイオという業種は特殊な面があるとお感じですか。

そうですね。まず、ファイナンス活動が非常に活発です。研究開発費などで驚くほど多額な資金調達を必要とする点が、他の業種と比べて最も異なる点かと思います。一方で、バイオベンチャーの役割というのは、研究開発のシーズ(種)のステージから臨床試験等に向けて更にステージをあげていくというような極めてピンポイントな仕事なので、管理部門の人数はもちろん社員総数も極めて少ないのも特徴です。少数精鋭で大きな規模感の仕事を経験できるという面もありますが、組織規模は比較的小さいので管理する対象人数は限られますし、キャリア的にフィットする方、しない方は出てきますね。

なるほど。確かに一般的な事業会社のコーポレート部門とは異なりますね。小林さんがモダリスに入社された経緯、上場までの状況も教えていただけますか。

私が入社したのは2019年1月です。その翌年の8月に上場というスピード上場を果たしました。承認が下りたのが6月ですから、準備にかけた期間は実質1年半。これは、上場準備の教科書的にはありえない短さだったと思います。

本当に信じられないスピードですよね!通常だと、直前々期以前にIPOチームを作って、そこから申請期を設定する流れかと思いますので、それを考えてみても…。

今回はかなりレアなケース、超応用問題という感じですね(笑)。当初は期越え上場を計画していたので、2019年12月期が申請期でした。つまりIPO申請期の期首にIPOチームを形成するという、これまで聞いたことのないスケジュールの中での入社だったんです。

超難問の応用問題ですね(笑)。このスケジュールは森田社長が以前から決められていたものなのでしょうか?

そうですね。私の入社前に既に決まっていたスケジュールです。当社はアメリカにラボがあり、研究員もアメリカにいます。日本には社長の森田しかおらず、アルバイトの方はいましたがほぼ1人ですべての管理業務を切り盛りしている状態でした。バイオベンチャーなので、もちろん当初から上場を見据えていた森田は、監査法人や主幹事証券の選定を進めていき、その過程で監査法人から遡及監査の同意も取り付けられたというのが大きかったと思います。設立間もないバイオベンチャーで、在庫も持たず身軽であったことから、特例中の特例として遡及監査が認められた。それが2018年半ばのことなのですが、証券会社からは「遡及監査であれば、この時点から最短で2020年3月の期越え上場というのも理論的には可能ですけどどうしますか?でも今は社長しかいないので先ずはCFOが必要ですが…」という話だったようです。

スピーディーかつ確実なIPO達成を目指す準備チームの発足

なるほど。そこから急ピッチでIPOチームを作る流れになっていったと。

はい。当然ですが、証券会社の予備調査報告書の内容も「全て一から作る必要がある」というものでした。そこから森田がCFOを探すことになり、私に声がかかったという経緯なのですが、当時私は別のマザーズ上場のバイオベンチャーで財務担当取締役を務めていまして、簡単に移るわけにはいかない立場でした。ところが森田は前職の社長と直談判し、どうしても会社に必要なのでとお願いして引っ張ってくれたのです。

森田社長が直談判までして、小林さんをCFOとして迎え入れたのですね!

前職の社長と森田が旧知の間柄だったから実現したというのもありますが、このような経緯を経て着任したことはCFO冥利に尽きますし、送り出していただいた前職の社長にも感謝の極みです。私と森田も以前から面識があって、私が1社目に勤めていたバイオベンチャーのCEOの後輩が森田だったんです。私がはてなでIPOを達成したことも評価してくれていて、「何があってもあなたにお願いしたい」と言ってもらいました。

そこまで言ってもらうというのはなかなかないことですね。入社が決まってからは、どのような準備をされたのでしょうか。

スケジュール上、証券会社からはIPOチームメンバーを2018年12月までに採用しておくようにと条件がでていたのですが、私はまだ入社もしていないし、どんどん期日も迫ってくる…。そこでWidgeさんに採用業務の肩代わりをしていただきました。かなりの無理難題で御社には相当ご苦労かけたと思います。でも私の意を汲んで機敏に対応していただいたおかげで何とか期日までに総務担当1名の入社を実現させることができました。それで証券会社からも理解を得ることができ、このスピード上場のスケジュールを維持できることになったんです。私の採用経緯も含め、何もかもが異例尽くしのスタートでしたね。

何か1つでも揃わなければ、この時点で頓挫していたかもしれないくらいのお話ですね。弊社もお力添えができて良かったです!総務担当の方と小林さんのお二方が同時に入社されて、いよいよIPOチームが始動されたわけですが、入社当時のミッションはどのようなことだったのでしょうか。

一番のミッションは、この超最速スケジュールのIPOを成功させることです。森田は最初からすべてを任せてくれたので、信頼を寄せてもらって嬉しい反面、すごくプレッシャーもありました。二番目のミッションは、管理部門の立ち上げです。通常だと、IPO準備のために既存の部門をスクラップ&ビルドしなければなりませんが、もともと社長しかいない会社だったので、ゼロから作り上げました。負の遺産もなく、むしろこれは非常に効率的で、IPO準備チームと経営管理部の同時立ち上げはメリットが大きいなと感じましたね。

真っさらな状態が、短期集中には良かったんですね。

そうですね。とはいえ、本当に真っさらだったので、入社初日の仕事はオフィスの立ち上げ作業からスタート。人数も増え、今後、監査法人による監査や、証券会社との打ち合わせも多くなるだろうと、入社日に新オフィスに移転したんです。でも、ベンチャーですし、コスト優先。IKEAで家具を発注して、私と総務担当の2人で組み立てました。最短で上場をめざしているのに、初日から数日間は家具を組み立てたり、ネットの配線を設定したり、看板をつけたり…。当時を振り返ると「1年半後に上場承認とか冗談でしょう?」というくらいの感じのスタートですよね。

CFOの小林さんが家具の組み立てまでされていたとは想像だにしませんでした(笑)。

全くもう、ベンチャーらしいというか…。上場準備だと思って来たら、体育会系の合宿で、いきなり「マラソン100回するぞ」みたいな感じでしたね(笑)。自分は、通り一辺倒のことより、こういうことを面白がるタイプだったので、やり切れたのだと思います。

ベンチャーならではのドラマチックさを楽しまれているのが素敵ですね。その後は、順調に進んでいかれましたか?

実は経理担当の入社がまだでした。12月決算だと2月半ばには決算短信を作らないといけません。上場準備中だと、トライアルで作る必要があるんですね。そこで「申し訳ないけど予定よりも早く入社して、入社後すぐその月の半ばまでに決算短信のドラフトを作ってほしい」と頼んだんです。かなり無理のある依頼だと承知の上でしたし、彼も最初はうーんとうなっていましたが、最終的には引き受けてくれました。2月に入社し、2週間で決算短信のドラフトを作るという、これまた伝説的なことをやってくれたのです。

新しく入った会社の短信を入社後2週間で作ったんですか!

頼む方も頼む方だし、受ける方も受ける方でしょう(笑)。

見事に果たされたというのが、すごいです!それぞれの方の力量があってこそですね。体制については、この少数精鋭のままで進められたのでしょうか。

そうです。私、経理部長、総務部長の3人に加えて、週2日勤務の創立当初からのアルバイトの方。あと、アメリカ採用で現地サポートをしてもらう社員1名という体制でした。少数だからこその良さを強みにしてやってきましたね。