【インタビュー】rakumo株式会社/西村 雄也氏 - 徹底的な業務の可視化がもたらしたスマートなIPO準備とは(2/3ページ) - Widge Media

【インタビュー】rakumo株式会社/西村 雄也氏 - 徹底的な業務の可視化がもたらしたスマートなIPO準備とは(2/3ページ)

記事紹介

2020年9月に東証マザーズに上場を果たしたrakumo株式会社。行動指針として掲げる「情熱。協働。変化。」という言葉通りに、常に感謝の気持ちをもって社内外と協働し、IPO達成という大きなチャレンジを成功に導いた同社CFOの西村雄也さん。幅広い興味関心のもと、多種多様な分野で積み重ねてきた豊富な経験。そこから得た確かな知識と実行力をもって推進したIPO準備から達成までのお話を伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 利根沙和

豊富な経験とrakumoの強みが融合したコロナ禍でのIPO準備

コロナ禍のリモートワーク、御社自ら手掛ける製品がすごく頼もしいですね!上場申請は2020年7月頃かと思いますが、IPO準備がまさに佳境を迎えるタイミングで、あの1回目の緊急事態宣言。チームでの業務遂行にあたって、混乱などはありませんでしたか?

当社はコロナ以前から、リモートワークを取り入れていたので、そこまで大きな混乱はなかったと思います。リモートワーク体制だけでなく、一例をあげると勤務体制なども、この部署は裁量労働制、こちらはフレックスタイム制、あちらは固定時間制…と部署ごとに変えており、管理する側はなかなか大変なのですが(笑)、そういった労働生産性が高く働ける環境を整えるというところに注力していました。私たちの経営管理部門の方針の1つとして、社内の横串機能となってみんなが働きやすい環境を整えるということを目指しているので、出来ることと出来ないことは当然ありますが、コロナ禍の対応も含めてある程度いい形で出来ましたね。

コロナ禍でのスムーズな環境整備の実現は、日頃からの指針の賜物ですね。大幅変更が生じても仕方ない状況の中、スケジュールも変更することなく申請されています。とはいえ、特殊なタイミングでの上場準備と上場申請において、良かったことや悪かったことはありましたか。

そうですね。まず基本的に、私はIPOスケジュールの遅延はNGとしているんです。上場はできる時にしておくべきという考え方をしています。仮に情勢が悪く想定していた時価総額に達しないとしても、その後どんどん価値を上げていけばいいじゃないか、そんな風に考えています。ましてや私達はコロナの影響を大きく受けた業種でもなく、どちらかというと追い風に近いところもありました。むしろ「今、上場しないでいつ上場するんだ」というようなトーンで進めていましたね。そういう意味でよかった点としては、改めてそういった強い意志を持てたことが上げられるかと思います。また、チーム負荷も最小限に抑えられたということもあるかと思います。一方、外部含めた方々への説明が通常よりも増えたという点はデメリットとしてあるかもしれませんね。ただ、それは当然にすべきことと理解しております。

確固たる信念のもと進められたのですね。IPO準備中には様々なタスクがあったと思いますが、一番印象に残っていることや想定外だったことなどはありますか。

細かいことはあるかもしれませんが、正直なところ想定外だったことはあまりないんです。というのも、前職のIPOアドバイザリー時代から、自分自身が事業会社側の立場になったら、どのように手を動かすかを想定しながらアドバイスをしていたんです。なので、自分の立場が変わったことでの苦労は幸いありませんでした。上場審査突破のために、どのような項目をどの程度の粒度まで行えばいいのか、審査部の方々をどう説得すればいいのかなど、これまでの経験からある程度わかっていたということもありますね。唯一挙げるとすれば、私自身が経営管理部門のプレイングマネージャーをしながら、IPO準備を主導し、さらには、他の大規模案件プロジェクトも担当しており、業務量という意味ではなかなか厳しかったですね(笑)。

その業務内容では、1人で3人分ぐらい働かれてますよね(笑)。証券会社時代から徹底的にクライアント側に立ったアドバイスを心がけてこられたことで、当事者となってのIPO準備に関しても特に想定外がないとおっしゃるのも納得です。全て想定内ながらも、準備期間中に何かrakumoさんならではの、良かったエピソードなどはありますか?

当社の行動指針に「情熱。協働。変化。」というものを掲げているのですが、これが社員の中にすごく浸透しています。そのため、社内メンバーが皆協力的でとても手厚くサポートしてくれました。また、当社が「Google Workspace」という業務基盤ツールを使っており、また当社自身が稟議システム(rakumoワークフロー)や勤怠システム(rakumoキンタイ)などをクラウド上で提供していたことも良かったことの1つですね。これらのITツールがIPO準備を効率的に進めるうえで非常に役立ちました。IPO審査は、決裁通りに稟議が行われているか、労務関係の時間管理がしっかりされているか、といった細かな点が見られますから。

IPO達成に絶対に欠かせなかった4つの準備

なるほど。IPO準備中に行った具体的な実施事項の中で、これだけはやっておいて良かったというものは何かありますか?

準備の初期段階から取り掛かったことで、やっていて良かったことが4つあります。この4つを行った結果として、全社的なサポートが得られやすくなりましたし、「全体の見える化」の共有に繋がり、より方向性が定まったと思っています。

その4つ、気になります。ぜひ、教えてください!

そんなに大それたものではないですが、まず1つ目は、IPOの「意義・目的・責務」を社内へ何度も継続的に説明したことです。社員にしてみたら、当初は「へえ~うちの会社IPOをするんだ…」程度の受け取り方かもしれません。そこで、なぜIPOをするのか、どんなメリットが会社・株主・社員にあるのか、上場会社になればどんな責務が発生するのか。このようなことを資料に落として、複数回にわたってお伝えしました。それによって「だからIPOを目指しているのか」「だから今この業務もやらなくちゃいけないのね」「それなら、会社の方針と共にやっていこう」となってもらえたのだと思います。元からrakumoのメンバーが良い方が多かったというのもあるのですが、多少なりともメンバーの皆様の納得感を醸成できたのではないかと考えています。

IPOに対してよりポジティブな反応が増えていったんですね。

そうですね。部長の皆様にも「改めて説明してもらってよかった」と言ってもらったのは、印象的でしたね。2つ目は、会社の強み・弱みの明確化です。よく「エクイティ・ストーリー」という言葉を聞かれるかと思いますが、私この言葉すごく難しいと思うのです。ちなみに、私はこの言葉を「株式市場が当社株式を購入する理由」と解釈しています。要は、自社(rakumo)は何が強みなのか、なぜ自社(rakumo)株を買ってもらえるのか。そういったことをとことん分析・検討しました。上場企業が3600社もある中で、当社が選んでもらえる理由を自社がしっかりと市場に説明することが大切だと考えています。

なるほど。「エクイティ・ストーリー」の解釈、とても分かりやすいです。

3つ目は、バリューチェーンの可視化です。どこから仕入れて、どこに販売して、どこで製造して、どこがボトルネックで、どこが利益の源泉なのか。これらを1つ1つビジネスごとに洗い出しました。これにより、注力すべきは何かが見えました。そして最後の4つ目は、業務の見える化です。私はシステマティックな人間なので、IPO準備業務を24項目に分けていました。さらにそれらを500項目以上に細分化して対応事項の整理と実装に向けて準備したのです。誰が何をいつまでにやるのか。これが一目瞭然になりましたね。

500項目にも細分化されたのですね!そのように何項目にもわたってタスクを見える化する手法は、アドバイザリー業務でよく使われるものなのですか?それとも西村さんの独自のものなのでしょうか。

ある程度は使われているとは思いますが、もう少しふわっとしているかもしれませんね(笑)。IPO以外でも、M&Aアドバイザリー時代は大項目として10項目に分け、初期的な検討で大部分の論点がカバー(多いケースでは80%はカバー)できるようにしていました。標準化により80%をカバーし、残り20%でさらなる価値をアドバイザリーで出すという考えです。この20%が特に難しいのですけどね。

論理的かつ、とてもわかりやすい手法ですね。

そのように言ってもらえるとありがたいですね。私としては、効率の良い手法だと思っていますし、アドバイザリーのバリューの最大化ができる方法だと考えております。

社員の方の理解を促し、会社やビジネスのことを徹底的に分析した上で、ここまで業務を細分化されたからこそ、想定外のことがなかったというのも納得です。これで直前になって「あれが抜けていた!」といった大どんでん返しは起こりようがありませんね。

ありがとうございます。そうですね、IPO準備に関してはこの4つがベースになっていますが、他には、上場後を見据えたシンジケート団の事前設計もしていて良かったことの1つです。どの証券会社にどのような役割で担ってもらうのかを準備段階から考えていました。上場後のIR年間計画を事前に作っていたことも同様に良かったことの1つですね。上場後すぐに、上場会社としての対応が走りますから、IPO準備で忙殺されているかとは思いますが、上場後を想像しながら進めるというのは大切だと思います。