【インタビュー】株式会社プレイド/武藤健太郎氏- 会社にとってベストなIPOとは~グローバル・オファリングから得たこと(2/3ページ) - Widge Media

【インタビュー】株式会社プレイド/武藤健太郎氏- 会社にとってベストなIPOとは~グローバル・オファリングから得たこと(2/3ページ)

記事紹介

2020年12月に東証マザーズ(現 東証グロース)に上場を果たした株式会社プレイド。グローバル・オファリングを行い、募集・売出株式の海外比率は約8割、上場時の時価総額は公募価格ベースで600億円を超えた。しかし、上場に至るまでは、上場申請の取り下げやリスケジュール、まさかの上場目前でのグローバル・オファリング断念の危機!?…など数々の紆余曲折が。プレイドのIPOをグローバルなものへと導き、ベストな形でのIPO達成にこだわったCFOの武藤健太郎氏に、IPOに至るまでとその後の取り組みについてお話を伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 利根沙和

前代未聞の上場を実現に導いた「チャレンジ精神」

上場に至るまでは数々の紆余曲折があったことを御社のnoteで発信されていらっしゃいますね。改めて振り返られて武藤さんが一番印象に残っていらっしゃることを教えていただけますか?

本当に紆余曲折ありましたね。まず、最初の上場予定は2019年6月でしたが、証券会社からの提案価格が当初のものよりかなり低く、上場を延期することになった時も色々と思うところがありました。その際に主幹事証券が1社だとリスクヘッジが効かないということを痛感し、その後は証券会社とどうやったら対等な関係が築けるかを模索しました。結果、共同推薦・共同主幹事体制にして複数の証券会社に任せることで、何か1社で問題が起きたとしても、もう1社で継続していける形をとることに。これはその後の様々な課題を乗り越える上でも良かったことのひとつです。でも何が一番印象に残ったかと言われれば、やはり最後の最後、コロナ禍も乗り越えた2020年秋の上場直前で「このままではグローバル・オファリングができない!」という状況になったことですね。結果的には前代未聞というか、IPOでは過去に例のないスキームで2020年12月にグローバル・オファリングで上場できたということも含めて、とても感慨深い思い出となりました。

直前でグローバル・オファリングができない事態とは一体どんな問題が起きたのですか?

それが、特に問題は起きていないのです。単純にスケジュール的に不可能ということでした。決算月が9月の当社にとって、12月上場は「期越え上場」と呼ばれる上場にあたります。国内オファリングであれば第3四半期までの開示で期越え上場でも問題ありません。しかし、グローバル・オファリングを行うには9月に締めたばかりの期も通年できちんと開示しなければならないという米国証券取引法の開示規制がありました。通常の決算報告だけでも11月が最速のスケジュールになるところ、更にそれを全て英文財務諸表のフォーマットにし、そこへのコメントも英文化して、それを監査法人にチェックしてもらった上で、ローンチ(=上場承認)しなければならない。スケジュール的に考えてほぼ不可能ですし、絶望的だと思いました。何かすごい問題があったなら仕方ないと諦めもつきますが、グローバル・オファリングをするために議論を重ね、支援してくれる投資家も見つかって、バリュエーションも出ていて、あとは開示するだけ…。ここまで来たのに単に開示スケジュールの問題で叶わないというのは、本当に忸怩たる思いでした。

しかし、実際はグローバル・オファリングで上場をされましたね。

はい。ローンチのタイミングでは未監査の財務諸表を仮目論見書に入れ、ブックビルディングの直前までに監査済財務諸表入りの目論見書に差し替えるという方法を採りました。グローバルでは、期越えPO(上場後の公募増資)では前例があるものの、IPOでは前例のない方法でした。期越え上場の問題がわかった時点で、共同主幹事証券会社のうち1社からはできないと言われ別れることになりましたが、それも仕方ないと思いました。しかし共同体制だったことも功を奏して、他に2社が「やりましょう!」と言ってくれ、グローバル・オファリングのまま進めることになったのです。2社のうち1社は外資系で、リスクを踏まえながらもアグレッシブな考えの土壌があり、この前代未聞のスキームもこちらの証券会社からの提案でした。また、比較的保守的で大きなリスクをとるのは難しいであろうもう1社の国内証券会社からも、本来であれば監査済みのもので論じなければならないところを、未監査のまま認めてご支援いただけたというのは、驚きとともにとても大きな後押しになりました。

本来であれば保守的な立場でNoと言われるであろう証券会社からGoと言ってもらうというのは、何か秘策があったのですか?

秘策なんてとんでもないです。その時に担当の方から言われたのは、「金融の世界は成熟していて、ある種固まっているので、そんなに日々新しいことはないのです。でも、だからこそ少しでも新しいスキームにチャレンジする機会があるのならば、チャレンジすることはとても大切だと思っています。だから僕らとしてもぜひこの機会に一緒にチャレンジしたいです!」という言葉でした。証券会社だけでなく、保守的なイメージといえば監査法人も然りで、このスキームにご協力いただけるのかどうかというのは結構ドキドキしたところでした。それでも「善処します」と言っていただき、結果的には相当無理なスケジュールで間に合わせて頂いた。この前例のないチャレンジを受けて頂いた全ての方々に本当に感謝しています。

それぞれの方が最善を諦めずに、試行錯誤された末にもたらされたグローバル・オファリングだったのですね。でも、この困難も乗り越えて、前例のないことでも成し遂げそうだという御社への期待があってこそですよね。周囲の方々にそう思わせるものが御社側にあったのだと感じました。

ありがとうございます。確かにそのようにも言っていただきましたね。我々が本気で取り組んでいるからこそ、周囲を何とか説得してでも、皆さんが協力してくださった部分はあるかもしれません。我々のチームメンバー、証券会社の皆さん、監査法人の皆さんや弁護士の皆さん。関わってくださった全ての方々の協力のおかげでできたことだと思っています。今振り返ると、一緒にやってきた方々は皆、新しいことにチャレンジするのが好きな人が多かった。プレイドがグローバル・オファリングするというこのプロジェクト自体がチャレンジングなことであり、そこに出てくる様々な困難を乗り越えることを、一緒に面白いと感じながらやってくれたのではないかと思いますね。

ベストなIPOで会社にモメンタムを作る

IPOにおいて、武藤さんが大切にされていたことやこだわりなどがあれば教えてください。

IPOには色々な形がありますが、プレイドにとって一番良いベストの形でIPOをすることへのこだわりはすごく持っていました。最初2019年6月の上場を延期した時に、もしも「値段は少し安いけどとりあえず上場しよう」と思っていたら、そこで一応IPOは達成されたと思うんですよ。2020年の最後の最後に、グローバル・オファリングを諦めるのか、無理そうでも進めるのかという時も、「IPOは手段なんだから国内でも上場さえできればいいじゃないか」という考えもあったはずです。でも私だけでなく、倉橋も、チームメンバーも、この両方のタイミングで「どんな形であれ上場できればOK」とは考えなかった。基本的には企業にとって1回しかない上場のチャンスを、単に株を売って資金調達をする手段と捉えるか、それとも、その企業にとって本当に大切な歴史の1ページとして捉えるか。プレイドの場合は絶対的に後者だと思っていたので、ベストなIPOというのにすごくこだわりました。

結果、素晴らしい歴史の1ページが刻まれたのではないでしょうか。

そうですね。倉橋は当初から、会社にまつわるいくつかの「6」にかけて、このIPOプロジェクトを「シックスプロジェクト」と命名し、全社員への浸透を図っていました。このIPOが社員全員のモメンタムとなるためにも、最適なタイミングでのグローバル・オファリングにこだわったのだと思います。一方で、私自身がプレイドに入社した意味を考えると、入社時に倉橋と約束したことをやり遂げたいという思いはとても大きかったです。そして少々テクニカルな視点から言っても、IPOのタイミングは企業が大株主との接点を作る一番大きなチャンス。世界中の投資家にプレイドの名前やビジョンを知ってもらい、株主の層を広げる大きな機会にするという意味でも、グローバル・オファリングという理想の形でIPOを成功させたいと強く思っていました。

グローバル・オファリングというのは時価総額の規模が大きいIPOというイメージがありましたが、規模の大きさが全てではなく、その先に得られる広がりや勢いに価値があるのですね。御社のグローバル・オファリングの事例はこの先の色々な会社を勇気づけるのではないかと思いました。

ありがとうございます。我々と同時期にも結構そういう動きが複数で起こっているなというのは感じていました。国内オファリングにも2つあって、「旧臨報方式を選択すると国内オファリングだけど一部の海外投資家にも売れる」という方法があります。これも我々が検討した当時は海外投資家比率が3割上限と言われていたのですが、その後どんどん比率割合を上げた事例が出てきてフロンティアも広がってきているなと。発行会社がそれぞれ一歩一歩努力をして、これまでの慣習と呼ばれたものを打ち破って広げてきているというのが、この数年のIPOのプロセスから見て取れて面白いですね。

それぞれの企業が少しずつパイオニアとして世界を広げていっているのですね。これからIPOを目指す会社に向けて、何かアドバイスはありますか。

IPOを全社の一大プロジェクトと位置づけることは、上場後を見越して社内の意識を高める上でも意義があると思います。IPO準備の段階から社内でIPOに関する情報を共有することは、情報管理を徹底する必要もありますし、手間もかかります。しかし、結果的にその手間を上回る素晴らしいものが得られたと私は感じています。上場後は3ヶ月ごとに決算を開示していくわけですが、数字のブレへの許容度は当然低くなります。利益に関することはもちろん、ビジネスにおけるオペレーションの全てにおいて意識を高めてもらわないと、このブレは大きくなってしまいます。これをコーポレート部門だけで完結してコントロールすることはできないので、全社で意識を共有して上場の準備をしていくというのはとても大切なことです。IPO準備の段階から全員のプロジェクトとしてやっていたからこそ、今があると思っています。

IPOで株を買ってもらうことで終わりではなく、上場後も信頼を得続けるために大切なことですね。持続的に成長を続けていくという意味でIPO時に気を付けるポイントはありますか?

はい。その意味でいくと逆説的ではあるのですが、会社の成長を考えるのであれば、高すぎるIPOの株価は必ずしも望ましくないと思っています。IPOでの公開株価は株を売っていただくVC株主や外部の投資家にとって非常に重要なものですので、IPOの株価を上げる努力はCFOとしてしなければいけないことです。しかし、あくまでIPOの株価は通過点なんですね。当社がIPOするタイミングの公募株価も、実はもっと高くしようとすればできたのですが、そうはしませんでした。どういう投資家を選ぶかでIPOでの公開価格は変わってきます。もし短期目線のアグレッシブな投資家だけを選べば、より公開価格を引き上げることはできたかもしれません。しかし、当社は長期で成長を支えてくれる投資家を求めていました。こんなことを言うと、当時のVC株主から「なんでもっと高く売らなかったんだ!」と言われかねないのですが、公開価格自体は適切な価格水準であり、相応のリターンをVC株主の皆様に提供できるものであったと思っております。IPO時点の株価だけを成功の指標にするのではなく、長く付き合っていける投資家を見つけていくということも、IPO成功の一つの指標としてみることが大切ではないでしょうか。