【インタビュー】株式会社プレイド/武藤健太郎氏- 会社にとってベストなIPOとは~グローバル・オファリングから得たこと(3/3ページ) - Widge Media

【インタビュー】株式会社プレイド/武藤健太郎氏- 会社にとってベストなIPOとは~グローバル・オファリングから得たこと(3/3ページ)

記事紹介

2020年12月に東証マザーズ(現 東証グロース)に上場を果たした株式会社プレイド。グローバル・オファリングを行い、募集・売出株式の海外比率は約8割、上場時の時価総額は公募価格ベースで600億円を超えた。しかし、上場に至るまでは、上場申請の取り下げやリスケジュール、まさかの上場目前でのグローバル・オファリング断念の危機!?…など数々の紆余曲折が。プレイドのIPOをグローバルなものへと導き、ベストな形でのIPO達成にこだわったCFOの武藤健太郎氏に、IPOに至るまでとその後の取り組みについてお話を伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 利根沙和

継続して投資家の声を聞くことで見えるIRのあり方

投資家との対峙の場として上場後はIRが肝となりますが、何か指針としているものはありますか?

IRについては、どんな目的で、どうやっていくのか、まだまだ手探りというのが正直なところですね。株価を上げることを目的にするのか、株価のボラティリティを安定させることを目的にするのか、社内で話し合ったり、社外の方に聞きにいったりと探求中です。一番勉強になるのは、やはり投資家とのコミュニケーションだったり、アナリストの方から具体的な数字というよりは、IRの“考え方”について教えていただいたりすることですね。業績予想を設定するにしても、どの程度強気にするのか、もしくは保守的にするのか?そのレンジの幅は広く、企業によって差がでるところです。この辺りの感覚を投資家やアナリストの方々と話しながらつかみたいと思っています。なかなかこうすべきという正解がないので難しいのですが、解のないものを作っていける面白さが、IRチームメンバーのやりがいにも繋がっているのではないかと思っています。

日々投資家やアナリストの方々と真摯に向き合っていらっしゃるのが伝わってきます。投資家とのコミュニケーションで気を付けていることは何かありますか?

投資家とは点ではなく、点と点を線でつなぐ継続したコミュニケーションであることを意識しています。ビジネスにおける基本かもしれませんが、投資家に前回、何を話したかをきちんと記録しフォローしていくことがとても大切です。投資家の方々は、我々が話したことを踏まえて、以前はこうだったけど今はどうなったのかと確認してきてくれますので、そこにしっかり答えること。一方で、会社として一貫性のあるコミュニケーションを取ることがもちろん大切ですが、倉橋やチームメンバー各自の個性も大切に、この人とだからこの話ができたというようなコミュニケーションも大切にしたいと思っています。どこを軸にして、どの程度の幅をとると、一貫性と個性のバランスが取れるのか、常に考えていますね。

答えはないのでしょうけれど、徐々に御社らしいスタイルが見つかりそうですね。

そうだと良いのですが(笑)。ひとつ具体的な話でいうと、業績予想をどう開示・修正していくのかという部分。先の四半期決算において業績予想を下方修正し投資家の皆様にご迷惑をおかけすることになったのですが、その下方修正幅は修正基準未満で修正の義務があったわけではなかったので、本当にこのタイミングでするのがよかったのか、実は大変悩みました。会社にとってどうか。投資家にとってはどうなのか。複合的に考えなければならず、やはり解はない。業績修正一つとっても、経験を重ねてプレイドなりの考え方を作っていきたいと思っています。

投資家の視点を持ちつつ、IRに向き合われているのですね。

良いことも悪いことも全てをつまびらかに公開することの方が正しいことのようにも思えますが、それが本当に投資家が求めているものなのかというと、株価にも影響することなので難しい判断となります。不必要に投資家を不安にさせてしまうようなリスクも考えないといけません。もちろん、法に触れることや、悪いことを一切言わないというのはダメだと思いますが、長期的に付き合っている投資家だからこそ、良い状況の時もあれば悪い状況の時もある中で、どんな状況であってもプレイドの魅力をどう伝えていくかを考えていきたいですし、それが既存株主への責任だと思っています。現状を説明しながらも、将来のポテンシャルについても投資家にきちんと伝え続けることを大切にしたいですね。

成功や前例にとらわれず変革し続けるプレイド

ありがとうございます。最後に、会社として、チームとして、武藤さん個人として、今後の目標やミッションなどがあれば教えていただけますか?

会社としては、短期・長期含めて事業の成長を安定させ、どのように長期的ビジョンに辿り着くのかをより具体的に可視化していきたいと思っています。短期的な成長でいえば、先ほど業績の下方修正の話をしましたが、これはビジネスのオペレーションがきちんと構築されていなかったという課題の現れ。短期の成長は中長期の成長にもつながるところですので、ここを安定して回せるオペレーションにしていくことが大切だと思っています。

長期的な成長に関しては、当社のミッションを具体的な戦略に落とし込んでいくこと。例えば10年後に『KARTE』が全ウェブサイトに入っていることがミッションの1つなのだとすると、それをどうやって実現するのかという議論をもっと深め、より具体的な戦略に落とし込んで、外部の投資家にも話していくことが大切になってきていると思います。スタートアップに中長期計画がないことが多いのは、3年後・5年後の環境が読みにくいからという理由もありますが、我々もプロダクトの開発戦略のみならず、先々のお客様や競合各社の変化をしっかりと予測した上で戦略を立て、『KARTE』導入のより具体的なプランを作ろうとしているところです。堅い中長期計画というよりは、3年プラン的なものをマネジメント側で作って合意しておく。それをメンバーと共有し、投資家とも共有しブラッシュアップしていくことで、足元の成長の安定性と長期的なビジョンへのプロセスの可視化をさらに進めることができると思っています。

管理部門としての目標はいかがですか?

チームという意味では、組織のあり方を変えていくことです。社員数が70名規模の時は、レイヤーも作らずにとてもフラットな組織でやってきて、それがとても素晴らしかったと思っています。しかし、現在の社員数は約300名。以前のやり方が必ずしも成立するわけではありません。規模によって理想の組織のあり方は違いますし、過去の成功体験にとらわれずに、今あるべき組織の形や働き方を作っていきたいと思っています。そして、それはTalent Experience(人事)だけでなく、我々、経営企画・財務といったアクセラレーターのチームからやっていきたいですね。プレイドではバックオフィスのことを事業を加速させる役割を担うという意味を込めてアクセラレーターと呼んでいます。日々の事業を抱えているセールスやカスタマーサービスなどのメンバーは、なかなかこのようなことを考える余裕がありません。我々のようなメンバーこそが、過去の成功に囚われすぎずに、必要であれば過去や現在の自分達を否定して、変革していこうと話しています。

経営企画・財務チームでは新たに仲間も募集されているそうですね。

はい。経営企画・財務チームのメンバーを今後積極的に増やしていきたいと思っています。特にリーダー的存在、あるいは経営企画、事業計画を作ってモニタリングしてくれる仲間を幅広く募集しています。チーム分けはあるもののきっちりと縦割りにはしていないので、それぞれの強みや専門性をベースにしつつ、様々な業務に横断的に取り組んでもらうことで、将来的なキャリアの幅を広げてもらえたらと考えています。チャレンジしたい人には、社内アントレプレナーとして、社内のグループ会社やM&Aでグループ化した会社などに行き、マネジメントの経験を積んでもらうことも可能です。事業部側だけでなく、コーポレート側のメンバーやリーダーにとっても魅力的なキャリアパスを提供したいと思っています。

最後に武藤さんご自身の個人的な目標はいかがですか?

今の僕の役割を自分よりも良い形で担える人を育てて、その人により強いCFOとして活躍してもらいたいです。一方で僕自身は、大きな役割を担えるように、あるいは斜めの関係になっていけるように、自分を磨いていく、あるいは領域を広げていくことが必要だと思っています。その意味では個人的な目標は、2年後にはCFOを辞めることです(笑)。もし、僕が3年後も今と同じことをしていたら、それは会社として成長していないことと同じだと思うんです。他の人に権限を委譲することで、自分はより大きな仕事にチャレンジすることが必要だと思っています。最近よく倉橋と「海外展開をしたいね」と話をしているんですよ。もし実現したら、倉橋はアメリカなど海外にいくことになるかもしれません。でも、事業は日本ですよね。「それじゃあ僕は、中間のハワイで、海外も日本も両方見れるようにした方がいいよね」なんて。まあ、これは冗談だとしても、どんどんいい人材を育てて、その人材に僕の今の役割を“奪って“もらって、“今の“僕自身を不必要にしていきたいですね。

トップに立つ方々が、その場にとどまらず、自ら次のステージへと進み続けている姿を見せられるのは素敵なことですね。武藤さんが将来、ハワイで海外と日本の両方を見られていらっしゃるか、ぜひ注目したいと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

株式会社プレイドCFO 武藤健太郎氏

新卒で、新生銀行に入社。金融派生商品の開発や資産運用業務を経て、ドイツ証券投資銀行部門にて約14年間勤務。M&Aアドバイザリー業務・資本調達業務に従事。
その後、グローバルM&Aアドバイザリー会社のBDAパートナーズ、ヘルスケアテック・スタートアップのFiNC Technologies、みずほ証券投資銀行本部、スタンダードチャータード銀行東京支店でのM&Aチームの立ち上げを経て、2018年10月に株式会社プレイドにCFOとして参画。