【インタビュー】株式会社MFS /取締役CFO 平山亮氏 - 事業存続危機からの上場。社内外に誠実に。ワンチームで取り組むIPOとは。(1/3ページ)
2024年6月に東証グロースへ上場を果たした株式会社MFS。一時はキャッシュショートの時期が見え、事業存続の危機を迎えながらも資金調達にも奔走。コーポレート部門をはじめとする社内はもちろんのこと、株主、証券会社等の社外の各ステークホルダーにも真摯に対応し、見事IPOを主導した取締役CFOの平山亮氏にIPOに至るまでとその後の取り組みについてお話を伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 山岡直登
早速ですが、これまでのご経歴などをお聞かせください。
2007年に新卒で野村證券へ入社し、主計部という財務部門の一部署にいて管理会計とグローバル予算を担当していました。元々はフロント業務がやりたかったことから異動希望を出したところ、財務部門のままニューヨークへ転勤するか、フロント部門かの二つの選択肢をいただきました。当時の主計部長が今の野村ホールディングスの役員の方で、ニューヨークでは留学もできるとても良いオファーを提示いただいたのですが、何にもわからない中フロント部門で頑張るのとどちらが良いかと聞かれたので、「とりあえず打席に立ってバットが振りたいからフロント部門へ異動させて欲しい」とお伝えしました。
どのような部署に異動されたのですか。
投資銀行部門のキャピタルマーケット部に異動し、「部内で一番しんどいと言われているチームに入れてください」とお願いしました。金融機関向けの資金調達に関連する部署だったのですが、文字通り「チーム不夜城」(笑)。
それは相当ハードだったのでしょうね…(笑)。
私以外は全員中途入社で、言葉も違うしお作法も全然違ったのでこんなにも辛いのか…と。
未経験ですよね?おいくつの時だったのでしょうか。
新卒4年目なので27、28歳くらいで、もちろん未経験でした。その後、当時の上席がMBAホルダーで、「行くチャンスがあるなら絶対留学に行った方が良い」と仰っていて、留学に行きたくなりました。公募制だったのですが、私の評判を聞いた当時の部長が「あいつは行かせた方が良い」と言ってくださったこともあり、運良く選んでいただきました。留学直前は数か月間、新卒採用をやるのですが、当時投資銀行部門の人事をやっていた方とコンタクトを取る機会が多く、2年間MBA留学をして戻る時も、その方がちょうど企業情報部(M&A)の部長として戻られていたこともあり、希望を出して企業情報部に異動することができました。その時も一番しんどいチームに入れてくれと言って入りました。
また大変なチームへ…(笑)。それにしても希望が通るのはすごいですね。
野村證券時代の異動は全て自分の希望を通すことができたので、非常に運が良かったと思います。
M&Aの部門はどのくらいいらっしゃったのですか。
3年です。当時社会人経験年数はあっても、当然業務については未経験でしたから本当に大変でしたが、皆さんにサポートいただきながらなんとか気合でやりました。海外案件のマネージャーにもなり、3年ほどたったところで外に出たいと思いました。ずっと野村證券の看板を背負っていたので、自分の力でやってみたいなと。そこでBHIへCFOとして転職し、大手事業会社さんから資金調達をするなど上場準備を開始しましたが、社長と方針が合わなくなってきたため、2020年3月にMFSへ入社しました。
株式会社MFS 取締役CFO 平山亮氏
MFSさんへご入社された当時はどれくらいの組織規模でしたか。
社員が20名で、管理部には総務担当1名のみでした。月の売上は今の20分の1くらいで、N-4相当です。
上場準備を目指された時期について伺えますでしょうか。
入社した時から、「すぐに上場を目指そう」ということで、当初2023年3月をターゲットとしました。ただ、実際に準備を進めていく中で売上がついてこなかったので、2023年12月へ変更しようとなったものの、それも間に合わないので、半年伸ばし期末の2024年6月に上場することになりました。
上場準備を開始されてからのコーポレート組織の変化について教えてください。
本格的に管理部となると私しかいなかったので、まずは経理ができ、内部統制や財務もできる方ということで、会計士有資格者を管理部長として採用しました。私はファイナンスのミッションと管理部の構築を同時進行でやらなければならなかったですし、仕訳を切れるわけではなかったので、お任せできる方が必要でした。ただそれでも人手が足りず、ファイナンスを終えたら二人目を採用したいと考えていて、更に会計士の方に経理マネージャーとして2021年5月に入社いただきました。それまでは2名プラス総務1名のようなチームでやっていました。上場準備も進めていく中でもう一名経理を採用したほうが良いということで、2022年初には税理士事務所勤務経験のあるメンバーを採用しています。
会計まわりのコアメンバーはしっかり固まったのですね。
そうですね。あと私や管理部長が人事まわりと、法務は弁護士と一緒に進めましたが、労務がいませんでした。パートの方が優秀だったので2022年半ばに社員になっていただき、労務担当としてお願いすることになりました。
会計以外もメンバーが揃ったのですね。
はい。結果的に1年延期していますが、当時は2021年6月期をN-2として上場準備を始め、2022年3月にキックオフをしました。
上場までは同じメンバーで進められたのでしょうか。
先程お話したメンバーに加えてパート2名と、採用担当1名ですね。2022年2月に買収した子会社のバックオフィスのメンバーにMFSへ加わっていただきました。上場準備業務自体は私含め、管理部長ともう一名の会計士と3名体制でした。
会計士の方を2名採用されたのは流石ですね。
「どうしても入社して欲しいです、入社していただかないと私が困ります。」と正直に伝えました。
平山さんにそこまで言わせるのはすごいです(笑)。
採用時においては、基本的には入りたければ入ってくださいというスタンスですが、人柄が素晴らしかったのでどうしても一緒にやりたいと思いました。一緒にやりたいとお伝えすることはあっても、困りますと言ったのはその時だけです。今はもう無くてはならない存在です。
上場までの平山さんのCFOとしてのミッションの変化について教えてください。
入社後、15か月後にはキャッシュが尽きるとわかっていたので、まずはファイナンスをというのがメインミッションでした。ファイナンスに加え、管理部門の構築、また、KPIもほぼ無いようなものだったので、KPIを作って事業を見ながら予算編成もしました。予算の精度をあげる必要があることは最初からわかっていたので、入社した次の予算のタイミングからはKPIと予実管理をマネージしています。毎月走らせながら2021年には更に細かくし、デイリーベースでKPIをみるようになりました。同時に2021年1月と3月にまとめて資金調達をしたのですが、結構な勢いで資金を使っていて、このままいくと終わってしまうな…というのが2022年の前半に分かったので、上場準備と並行して再度ファイナンスを進めていました。
また、人が徐々に増えたにも関わらず、人事評価ルールがあるようで無かったので、人事まわりもみるようになりました。段々と事業から内部的な業務に寄り始めたのが2022年半ばぐらいで、そこから上場準備が本格化しました。ファイナンスを終えて2023年くらいからは上場まで1年ということで、全力で走り抜けた感じです。
細かくご説明いただきありがとうございます。まずはファイナンスということだったのですね。
ファイナンスは単発のタスクでしたが、当社の場合状況がちょっと変わっていまして。入社した時にキャッシュがなくなる時期がわかっていたので、スクランブルで苦労しました。
調達できないとなると事業が継続できないですからね。
既存株主はみな追加出資しないと仰っていて…。実は、一時既存株主に見捨てられた時期がありました。
それはなぜですか。
当時はまだビジネスモデルがマーケットフィットしていなかったからです。これ以上ここに投資はしたくないと。
大変な状況だったのですね。
そこで新規でアプローチした中で、野村證券時代の後輩がいるVCに頑張って出しますと出資していただき、他社さんもついてきてくださってなんとかエクイティで10億円、デットで2億円を調達しました。それでもその後毎月5,000万円程度の赤字を掘りに行ったので非常にしんどかったですね。
ファイナンスしつつも事業のPMFが見えにくく、まさに瀬戸際だったということですね。
2022年前半にようやくマーケットフィットしそうだとわかったものの、まだ赤字が続いていたので再度ファイナンスをし、2022年11月に着金しました。既存株主が最初に5億円出資くださり、他の株主が6~7億円ほどでした。ただ、今だから言えることですが、本当は良くないものの、幸か不幸か黒字基調になったことから上場時には結局ほとんど手つかずで残ってしまいました。上場する前にキャッシュが10億円ほど手元にあり、しかも赤字黒字はとんとんだったので、「何のためにまたキャッシュを手に入れるんだ」ということは言われましたね。
一方で資金があった分、落ち着いて上場準備に向かえたという面もあったのでしょうか。
正直なところ、資金があったおかげで2023年は事業と上場準備に集中できたと思います。
結果的にはどれくらい資金調達された形になるのでしょうか。
エクイティで1回目が10億円と2億円で合計12億円、デットでの2億円をはさみ、2022年の11月に11億円なので、合計で20数億円を調達しました。
ファイナンスで一番きつかった時期は2020年後半の既存株主から追加出資いただけなかったタイミングでしょうか。
はい。既存株主に見捨てられた時期が一番しんどかったです。あと3か月で資金ショートするだろうと見えていたので、リストラをしないといけないな…会社が潰れるな…自分のキャリアが終わったな…と考えることもあって。当時はなかなか眠れませんでした。
かなりしんどかったですね…。
2020年のクリスマスシーズンが佳境だったのですが、クリスマスに商社系CVCの投資委員会が金曜日で討議が長引いて時間切れになってしまいました。それで年明けにしますと言われて…。ただ、年明けだと更に討議が長引いたり忘れられてしまう可能性もあるので、「最終営業日の週明けの月曜日になんとかお願いします!開催されないならずっと電話します。私もオフィスに伺います。」とお願いして。そしたら通常実施しないのですが、月曜日の18時から投資委員会を開いていただき、なんとか通していただけました。
すごいですね!
そして検討中だった投資家の皆さんへ「銀行系CVCと商社系CVCからの出資が決まりました」と連絡を入れたら、1月から皆さん「出資します」となりました。もしその時諦めていたら会社が潰れていたかもしれません。
痺れるお話です…。
潰れるかどうかという状況だったので、当時はまさか上場できるとは思わなかったですし、誰も思っていなかったんじゃないかと…。
順調そうに見えていました…。
よく皆さんから順調そうと言われるのですが、当時は実態は全く違っていて、どうやって人を減らそうか、どう生き延びれば良いか、よく役員3人で話していました。