【インタビュー】株式会社MFS /取締役CFO 平山亮氏 - 事業存続危機からの上場。社内外に誠実に。ワンチームで取り組むIPOとは。(2/3ページ) - Widge Media

【インタビュー】株式会社MFS /取締役CFO 平山亮氏 - 事業存続危機からの上場。社内外に誠実に。ワンチームで取り組むIPOとは。(2/3ページ)

記事紹介

2024年6月に東証グロースへ上場を果たした株式会社MFS。一時はキャッシュショートの時期が見え、事業存続の危機を迎えながらも資金調達にも奔走。コーポレート部門をはじめとする社内はもちろんのこと、株主、証券会社等の社外の各ステークホルダーにも真摯に対応し、見事IPOを主導した取締役CFOの平山亮氏にIPOに至るまでとその後の取り組みについてお話を伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 山岡直登

上場に向けた資本政策でMFSさんならではの意識されたことがあれば教えてください。

ファイナンスでよく問題になるのがバリュエーションと希薄化だと認識しています。当時はバリュエーションが高くついたらイケてるといった風潮があったと記憶しています。ただ私はその感覚がおかしいと思っていて、将来上場するところから逆算した時のフェアバリューがいくらかという、それ以上でも以下でもないというのが私の考え方でした。野村證券時代の先輩の受け売りでしたが、私もその通りだと思っていたので、バリュエーションを高くしすぎる意味はほぼ無いと考えていました。

もう一つの希薄化について、そうは言ってもバリュエーションをあげないと希薄化が進むので、創業者がそれを許容するかどうかだと思います。幸運だったのは、創業者2名が「希薄は全く気にしない」「平山さんの好きなようにやってほしい」「(万が一失敗した際の許容範囲が広がるから)可能であればキャッシュを多く集めてもらいたい」というスタンスだったんです。CFOとしては気負わず、希薄化も、バリュエーションもそこまで気にせずにできたことはとても幸運でした。

創業者と考え方をすり合わせできたのは良かったですね。

それは大きかったです。バリュエーションと希薄化に対する考え方について、CFOとしては早めに創業者と確認を取るべきだと思います。

スタートアップにとっては失敗がキャッシュポジションに対して大きなネガティブインパクトになるので、当社の場合キャッシュは手元にあるべきだというスタンスのファイナンスでした。

当時はバリュエーションが高いのが良いという時期でしたから、MFSさんならではという感じがしますね。

結果的に当社はダウンラウンドで上場しているので大きなことは言えません…。反省点としても当時のバリュエーションを見誤ったという感覚がありますし、私の責任だと感じています。

なるほど。他にもファイナンスに関しては何かございますか。

当社は株主が20社近くあり比較的多い方だと思います。しかしながら、シンプルにフィナンシャルリターンを求めるVCさんやCVCさんに入っていただいていたので、事業シナジーを出さなければいけないとかバリュエーションをあげなければいけないというプレッシャーが小さかったことはCFOの立場としてとても気持ちが楽でした。とにかく黒字化して早くバリュエーションをあげるということが重要だったので、ファイナンスという意味では株主の皆さんと揉めることなく上場まで進めていけたことも幸運でした。

素晴らしいですね。何かしらの揉めるケースはよく聞きますよね…。

本当に皆さんに助けられました。もちろん、売出しと株価については株主と議論がありましたが、私の考えとして、「VCさんの役割は上場時まででそこから先は機関投資家さん」とルール上は明確に分かれているはずだという認識を持っていたので、株主の皆さんにもお伝えしていました。「バリュエーションが一定程度つく方、利益が出る方は、必ず出ていってくださいというスタンスです。上場時に出ていただくのは約束です。」と上場前からずっとお伝えしていました。

そこはハッキリされていたのですね。

やはり揉めたくなかったですからね。利益が出る方が出ていくのは当然ですよね、という考えでした。VCさんの後ろにいるLPの投資家さんにとってもヘッジファンドなどの機関投資家にお金を預けているわけではないと思うので。「ある程度利益が出る方はこのラウンドまでです。私が手掛けたラウンドは損をしてしまうので持っていただくのは全然かまいません。私の責任なので上がるまでお待ちください。」と。

ずっと黙っていて上場時に交渉しようとしたら売り出しで揉めるので、CFOとして前々からどういうスタンスか明確にしたほうが良いと思います。

上場までの過程で苦労されたことなどはありますか。

ファイナンスについては先程お話した通りです。他に振り返るとコーポレート組織ではあまり無かったです。メンバーの皆さんがとても優秀だったので。もちろんドキュメンテーションなど一つ一つのパーツを作り上げる必要はありましたが、メンバーがそれぞれの持ち場で全力で頑張ってくれました。

本当に素晴らしいチームメンバーに恵まれていますね。

はい、本当に優秀なメンバーです。ですから、大変だったことを振り返ると、売上ですね。事業のところが一番辛かったです。今でも辛いですし、上場審査という意味だと、証券審査が始まった2023年の夏以降、予算は保守的に見込んでいたので、証券会社から「この予算であれば上場はやめましょう」と言われて、2023年の10月ぐらいに審査が一度止まりました。「そうは言っても売上もKPIも伸びています」とご提示し、「これなら進めましょう」ということで年末に復活し、2月頃まで証券審査をやり、無事東証へ申請といった流れでした。

審査の裏にそのようなことがあったのですね。審査が止まっている間に事業で何か新しい進捗があったということですか。

いえ、単純に事業が伸びていったので確実に伸ばせる、予算にミートできるというのを見せました。予算にミートできるかが課題でしたから。

東証審査はいかがでしたか。

東証審査は想像以上にスムーズで当社に対して審査される方が好意的であったという印象でした。証券会社2社(SMBC日興証券・みずほ証券)に見ていただいていたおかげだと感じます。

スタートアップの方は証券会社の選択において、証券審査が緩いところやバリュエーションを高くつけてくれそうなところを選びがちな気がしますが、それは本質的ではなく、やはりパブリックな会社になるのであれば、厳しい審査できちんとした会社になることが大前提だと思います。

仰る通りですね。

証券審査でたくさん指摘をいただき、迅速に指摘事項を改善していきました。どんどん繰り返していくと、証券会社側も「この会社は指摘したらしっかり直すんだ」ととても好意的にやってくださいます。結局人と人ですからね。

証券会社選択時にバリュエーションを高く出してきた証券会社を選ぶのは意味が無いと思っていて。当時のバリュエーションと上場時のバリュエーションは別物なので議論する必要はなく、上場時のマーケティング能力に加えて、いかに証券審査をきちんとやってくださり、東証審査をどう乗り切れるかというノウハウを持っている証券会社を選ぶことが良いのではないかと改めて実感しました。

とても大切な視点ですね。

証券審査の時、予実管理に苦労しました。そもそも予実管理は一人でできるわけではないので、全社を巻き込んで、なぜ売上をあげなければいけないのか、費用を使わないようにしなければいけないのかなど皆に認識してもらわないといけません。各事業部に「売上を何十%伸ばしてください」「上場をするためには予実管理が必要です」「予算を振り返ったときに何ができていないのかちゃんと考えてください」「(それを踏まえた)打ち手をいつまでにやって売上を伸ばしてください」といったことを伝え続ける必要があります。しかしながら、当然組織も疲弊しますし、私も嫌な奴になります(笑)。今でもそうですが、この点は苦労しました。ただ、上場してからは全社的に予実管理の大切さを理解してもらっただろうと思います。

予実管理は多くの会社がご苦労されているように思います。事業部門への啓蒙で工夫されたことは何かありますか。

会社として儲かると金銭的にも皆さんにリターンがあるということを何度も説明しました。利益が出たら賞与も出せるし、株価も上がるので報いがありますよということをしっかりとお伝えしました。

上場準備過程で心がけていたことは何かありますか。

証券会社、監査法人、東証などから指摘されたことは真摯にすぐ反応するということと、絶対に嘘はつかないということです。取り繕おうと思えば取り繕える場面が何回かありましたが、本質的ではないですし、上場企業になるというのはそういったことを含めて全部訂正すべきであるということが大前提にありました。綺麗ごとかもしれませんが、しっかりと対応すると相手から見た印象も良いと思います。最後は関係者がMFSを上場させてあげたいという感じがしたので、真摯に対応することは大事だなと改めて実感しました。結局人と人ですからね。審査部にOKを出してもらい推薦状を書いていただかないといけませんし。期日に間に合わなかったことは恐らく一回も無かったと思います。

当たり前のことかもしれませんが、誠実に対応することが大切ですね。

証券審査が始まる前から内部統制やガバナンスや予実など、全部で何百項目と指摘があるのですが、迅速に全部やっていくということが大前提ではないと審査の俎上にも乗りませんし、審査されている最中も最速でやらないと承認してもらえません。

ですから、当社は残業禁止ではありますが、証券会社から質問がきたら、できる範囲で夜遅くまでかけてでもいいから可能な限り全て回答をする、もしくは翌営業日中に回答することを徹底していました。

すごいですね。それを可能にする管理の仕方といったことはあるのでしょうか。

私、管理部長、経理マネージャーの三人が自分の守備範囲が明確に分かっていたことと、困ったらお互いにサポートするということを自主的にできるようになっていたからだと思います。誰かが忙しかったらこのパートをやっておこうとか、それぞれが自動でサポートし合えるような組織になっていたのでその点は良かったです。

やはり自主的に動けるメンバーがいらっしゃると本当に心強いですよね。

優秀なメンバーがいるとこんなに楽なんだと思いました。ですから他社さんにも、メンバーから採用するのではなく、上から採用をしましょうとよく言っています。管理部長で会計士の方などを採用し、守りを固めてからメンバーの採用をということです。やはりメンバーがワークするかどうかは、後から入ってくる上司によって決まってしまうので、上に優秀な方を採用し、その方が優秀だと思う方を部下にしていくのがセオリーかと思います。

まさに仰る通りです。他に心がけていたことは何かありますか。

これは野村證券時代も今もそうなのですが、「ズルをしない」「全てを楽しむ」「やると言ったらやる」、この三つを心がけています。この三つだけ守っていれば、世の中うまく回ると思っています。これらのマインドを持っていれば、転職しても何も軸がぶれることなくやれましたし、他の皆さんからもサポートを受けられましたし、私も他の方に聞かれたら答えられるし、そういうマインドを持っていたのはすごく良かったと思っています。

 素晴らしいですね。そのマインドを大切にされ始めたきっかけはあったのでしょうか。

野村證券時代の上司がそういう方だったので、自分なりに言語化したのが今申し上げた三つです。最近その上司に似ていると言われるのですが、それはずっと心がけてきたからだと思います(笑)。社会人生活で活きているので、変えずに良かったなと思えることです。

あと、特にスタートアップに転職してから心がけているのは、誰からリファレンスを取られても大丈夫だと心の底から言える状態を作ろうということは意識しています。どなたに「平山はどんな奴?」と聞かれても構わないと思っています。なぜならこの三つを徹底していて、人によって態度を変えることをしないと思っていますので。

それは本当にすごいことだと思います。平山さんの大切な軸ですね。

変えちゃいけないという気がしています。サボりたくなる瞬間はありますが、最後は自分に負けたくないので歯を食いしばって(笑)。