アント・キャピタル・パートナーズ株式会社 代表取締役社長 飯沼良介氏(2/2ページ) - Widge Media

アント・キャピタル・パートナーズ株式会社 代表取締役社長 飯沼良介氏(2/2ページ)

記事紹介

投資家の立場から見た理想のCFO像や、CFOと管理部長の違いなど、「投資家からみるCFOの在り方」というテーマで、様々な見解をお話しいただく専門特集。
アント・キャピタル・パートナーズ株式会社 代表取締役社長 飯沼良介氏
に、日々の活動の中で感じる率直な思いを伺った。

※インタビュアー/株式会社Widge 代表取締役 柳橋貴之

これまでお会いされた方でパッと浮かぶような方はいらっしゃいますか。

もちろんいます。その方は今、他のファンドさんの投資先の社長をされています。

やはりそういったCFOはCEOとして会社を引っ張ることもできるということなのですね。

他にも何名かおりますが、普段は朴訥とされているものの、完璧に分析をして、しっかりとそれを伝えられるようなタイプの方もいたので、そういった方は印象に残っていますね。

CFOと株主との関係性についてもお伺いしたいです。理想的な関係性などがあれば教えてください。

通常時に随時報告をして欲しいということはありません。ただ、何か大きな事象が発生しそうという際に、もう少し様子を見よう、まだ(ファンドへ)報告はしないでおこうというケースがたまにあります。そうではなくて、最初から伝えたほうが良いと舵を取ってくれるCFOがいると、株主からすると非常に安心感があります。

後々大変だったというようなケースもあるのでしょうか。

立派な経歴のCFOに入っていただいたものの、数字が分からない、全く資金繰り表が出てこないというケースもありましたし、資金ショートするということで、こっそりと借り入れを繰り返していたというケースもありました。あとは、社長にけしかけてファンドからMBOをしようとしていたということもありました。

CEOがCFOに良くない方向にコントロールされてしまうケースもあるのですね。

あります。CEOが数字の内容や金融機関の対応が分からない場合、CFOに任せきりになってしまいます。そのCFOが不安を持ちかけてくると、CEOは心配になり、間違った目で自分の会社を見てしまうリスクがあります。ですから、CFOは誠実でしっかりとした方でないと困ります。

CFOとどのような関係性を築くべきか、CEOに対してお伝えしたいことはありますか。

CFOを監視してほしいですね。しっかりとした数字が出てくるか、ちゃんと分析されているのか、できなければ鍛えていただきたいです。成長させ、そこから信頼関係を作っていっていただきたいですね。逆も然りですけど。

「CFOがCEOを鍛える」という話はたまに聞きますが、「CEOがCFOを鍛える」というのはなかなか難しい仕事ですよね。

そうなんです。ですから我々のようなファンドが必要だと思います。

そういうことですね。

「社長」にはリーダーシップが必要です。リーダーシップを取る人が孤立無援にならないよう、ビジョンを数字に落とし込み、データに基づいた経営をしていく。それがCFOの役割ですよね。いわばCFOは全てにおける接着剤です。それだけCFOはとても重要な存在なのです。

そう考えるとCFO選びというのは本当に大切ですね。

非常に大切ですし、最も難しいかもしれないですね。優秀なCFOが日本に増えたら、日本企業、ひいては日本の経済はもっと改善されると思います。

地方も含めて、素晴らしい中堅企業がたくさんありますが、優秀な人がいないのです。

ですから、ファンドである我々がいろいろと提案をすると、それならばファンドに手伝ってもらおうとなるわけです。

本当に入り込んで見ている立場だからこそ、優秀なCFOが少ないという実感があるのですね。

表面的に見ればたくさんいらっしゃるのだと思いますが、求めるレベルで言うと難しいところがありますよね。

会社が安定を求めるか、成長を求めるかにもよります。安定でそのまま推移していくのは決して悪くありませんが、新しいことをしていない、改革しようという機運が無いと、何かあった時の脆さがあります。そういった中で、活躍できるCFOがもっと増えてほしいなと思っています。

 

オーナー・CEOが御社のご支援を受けるメリットについて教えてください。

会社は、オーナーが育ててきた、言うなれば人生そのものです。その会社を誰かに託すことは、ものすごく勇気がいりますし、一大決心です。オーナーの人生そのものを預かるだけではなく、会社の方々の人生そのものも預かるので、我々は、強い覚悟で投資をしています。その中で、オーナーが「あのファンドに売却して良かった」と思ってもらえることが、オーナーへの恩返しだと思っています。

それはしっかりと企業価値を上げること。単純に売上や利益を上げるだけではなく、会社が筋肉質な状態に引き上げるということです。中堅中小企業でも、上場企業並みの経営をする企業に変わり得るのです。

御社の大切にされている想いが伝わってきます。

ハンズオンで支援した会社をどこかに売却すると、ロジカルな経営が既にでき上がっているので、手を加えるところが無いわけです。ここが大きなポイントです。

オーナーがいきなりどこかに売却をすると、落下傘で上から人がたくさん降りてきて、全てを変えられてしまうということが多い。我々の投資先はむしろ逆で、場合によってはこちら側が親会社の経営に入っていくということもあったりするわけです。

それはポイントですね。

私が関わった投資先で、トヨタさんへ売却をした会社があります。社長だけは未だにトヨタさんから来ていますが、それ以外は何も変えていません。唯一変わったのは、トヨタさんの社内資料がA3なので、A4の資料がA3に変わったということくらいです(笑)。逆にトヨタさん側が、この会社の形式に変えるという場面もありましたので。

トヨタさんがですか。それはすごいことですね。

本当にすごいと思います。売却して3年後にその会社の方から「久しぶりです」と電話をいただいて。「どうしたんですか」とお聞きしたら、「実は、今日定年退職の日なんです。今日でサラリーマン人生が終わるんですが、サラリーマン人生最後の日にはアントさんに御礼の電話をすることをずっと決めていたんです。」と。

「アントと出会うまでは、定時の中で普通に働いていけば良いと思っていて、今年のボーナスはどうかなくらいしか考えていなかったんですが、仕事はとても楽しいんだということを心底学ばせてもらいました。アントのおかげで、自分のサラリーマン人生が本当に輝いたんです。なので、仕事を辞める日には必ずアントに御礼の電話をするんだと決めていました。」と。電話越しに涙が出てきましたね…。本当に嬉しかったです。

本当に素敵なお話ですね。

むしろ御礼を言わなければならないのは私の方なんですよね。それをそのままお伝えしました。

従業員の方々の意識が大きく変わり、世界を代表する大企業にも取り入れられるほどに内部の仕組みが変貌していく。素晴らしいですね。

はい。一社一社、様々な事が起きますし、思うようにEBITDAは上がらないということも多いです(笑)。でも、最後にそうやって現場の方々から喜んでもらえると本当にやった甲斐があったと思えます。

先程も伺いましたが、やはり「社員の方々の人生も預かる」と覚悟を持って本気で取り組まれていらっしゃるからこそですね。

ファンドというのは、売却・買収して利益を出しているだけというイメージを持たれる方が多いと思いますが、我々も血の通った人間です。やはり現場のことがすごく気になりますし、現場の人たちをどうやって幸せにしていくか、それを売上・利益にどう繋げていくかということを必死に考えています。

ハンズオンでとことん向き合われ、投資先ととても良い関係性を築いていらっしゃることが強く理解できました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

アント・キャピタル・パートナーズ株式会社 代表取締役社長 飯沼良介氏慶應義塾大学商学部卒。1994年三菱商事入社。技術部、コンピュータ事業部にて海外ソフトウェアベンダーの国内市場開拓および国内事業立ち上げを担当。2001年アント・キャピタル・パートナーズ株式会社入社。2012年取締役就任、2013年代表取締役就任。シーエーエー、チェッカーモータース(代表取締役)、ゴルフパートナー(取締役)、ミヤノ(現シチズンマシナリー)、ウイルプラスホールディングス(取締役)、バリオセキュア・ネットワークス(現 バリオセキュア)(取締役)、ジャパンバイクオークション、藤二誠(監査役)、Casa(取締役)、ムーンスター(取締役)、アップルワールド(取締役)、アロスワン(取締役)、ニューオークボ(取締役)、アミークス(取締役)、ソフトブレーン(取締役)、メック(監査役)、羅針(代表取締役)、ビーライン(取締役)、オークスモビリティ(取締役)等において投資実行およびハンズオン支援、Exit交渉を担当。主に投資先企業の経営管理体制整備と営業戦略構築面でのサポートを行う。
2023年より日本プライベート・エクイティ協会会長に就任。