マテリアルグループ株式会社/吉田和樹氏・馬場亮平氏―仲間と挑むIPO。上場後の成長を見据えた戦略とは。(2/2ページ)

2024年3月に東証グロースへ上場したマテリアルグループ株式会社。2019年2月にファンドが入り、成長を加速させようとした矢先のコロナ禍。その後もひたむきにIPOをリードした取締役CFO・吉田氏、ゼネラルマネージャー・馬場氏。同社のIPO準備から達成後の成長戦略等について、お二方にお話を伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 佐野めぐみ
上場に向けたファイナンス戦略について教えてください。
吉田:弊社のビジネスモデルは、資本市場からすぐにお金を調達しなければいけない状態ではありませんでした。上場前にもM&Aをしていますが、基本は銀行からの借入を用いてM&Aをやってきました。キャッシュフローはとても良いビジネスなので、そういう意味では借り入れ余力もある状態での上場でした。
なるほど。
吉田:当社グループのビジネスモデルで考えると、成長投資はM&Aが中心となりますが、これらは現時点では借入金で賄うことができます。したがって、どちらかというと現在は、株主還元を最初から実施しており、それがグロース市場に上場する会社としては特徴的だと思います。
最初から株主還元ですか。
吉田:グロース上場の初年度から配当を33%しています。
素晴らしいですね。
吉田:自己株買いも2回やっていますので、上場してからは資金を調達するというよりはどちらかというと還元することが多いです。

とても良い形で循環しておられるように思いますが、何かご苦労されたことはありましたか。
吉田:強いてあげれば、資本市場からお金を調達する必要がないとした時に、機関投資家の中には、「なぜ上場するのか」とおっしゃる方もいらっしゃいました。
上場の目的ですね。
吉田:目的は大きく二つあります。一つはビジネスの成長のためには、認知と信頼がすごく重要だったからです。元々採用力は強いのですが、実際に上場してから認知も拡大し、新卒採用でのエントリー数は1万人を超えていますし、中途採用もすごくしやすくなった印象です。
すごいですね。
吉田:二つ目はM&Aにおける資金調達です。すぐには要りませんが、今後M&Aをし、デッド調達をしていくと、どこかではもしかしたらエクイティファイナンスが必要になるかもしれません。そういう意味でも、資本市場にいて機能的に調達できる環境にいることは重要だと認識しています。
それでもお二人でフォローしあって何とか難局を乗り越えたわけですね。
馬場:我々と法務担当の小室と3人が中心となって上場準備を進めてきましたが、先ほど経理について少し触れたとおり、労務や総務など、そもそもチームとしての土台がしっかりあったことは大きかったと思います。他のチームメンバーも含めて全員野球でした。上場準備の前から積み上げられた土台があったからこそ、ここ3~4年で一気にIPOまでたどりつけたという気もすごくしています。
吉田:また現場のメンバーは若い人が多いですが、上場企業になる上で重要なルールの徹底は、一丸となって協力しながらやり切れたと思います。そういう意味ではフロントもバックオフィスも頑張りましたね。

上場後のコーポレートチームの組織の変化、業務の担当範囲の変化等もあれば教えてください。
馬場:役割分担などはそこまで大きく変わりませんが、上場後はIRや開示書類作成などの追加業務があり、私や経理財務チームが担当しています。
吉田:あと、上場前にM&Aを6件実行していますが、上場するタイミングは一旦止めていて、上場後にM&Aの専任チームを本格的に立ち上げました。
吉田さんが管掌されているチームなのですか。
吉田:はい。銀行や証券会社、M&Aの仲介会社等を経験しているメンバーで構成され、M&Aのソーシング活動からPMIまでよく理解し、実行してきたメンバーです。
強力な体制ですね。そうしますと、吉田さんのミッションとしても上場後はよりM&Aのウェイトが多くなりましたか。
吉田:そうですね。M&Aや事業成長にリソースを取るようになってきています。上場以降は、1件実行し、累計7件目となりました。現在8件目を適時開示しており、9件目以降もパイプラインとして検討中のものがあるので、うまく進めていけたらと思っています(※取材日時点)。
M&A以外でも、これからの事業戦略など、お話いただける範囲でお伺いできますでしょうか。
吉田:さまざまな取り組みを進めていますが、新たに注力しているのは、グローバル展開です。弊社は基本的に国内でのマーケティング支援を行っていますが、東南アジアへの販路拡大を希望されるクライアント様も多く、これまではそのサポートができませんでした。そこで、私たち自身が東南アジアに進出し、成長が見込まれる市場でビジネスを確実に拡大できるよう準備を進めています。
今後、グローバル人材も必要になってくるのでしょうか。
吉田:やはりコーポレートアクションを伴う大きな舵切りをするときに重要なのはコーポレート部門です。総合的に考えると、新しい取り組みを始める際に、会社の基盤としてコーポレートチームが適切に対応できなければ律速になりかねない。コーポレートチームの機能と役割を拡大することが、会社の成長スピードの向上につながると考えています。
おっしゃる通りですね。
吉田:弊社はホールディングスで管理系を全て担っていますが、コーポレートチームがそういった能力を着実に身に付けていることが会社の成長にとっても大切だと考えています。

上場後に活かされている、未上場時に実施したことなどがもしあれば教えてください。
馬場:上場前に、6件のM&Aを実行していたことにより、コーポレートチームの耐久力がついていたと思います。大きなディールが同時期に2件きても、チームで乗り切った経験値があったので、「あの時のことを考えるとこれぐらいはいけるかな」という感覚が持てている気がします。
吉田:チームのマインドが良いです。例えば、財務デューデリジェンスの時に経理のメンバーが自ら手を挙げて「挑戦したい」とプロジェクトに入ってくれたこともありました。
主体性を持って行動できるメンバーがいらっしゃるのは素晴らしいですね。
馬場:デューデリジェンスを実施した後に自分たちがそのまま経理業務を担うので、連続性もあって良い循環だと思います。そういえば、上場準備がステイになった短い期間でキャンドルウィック社のM&Aを手がけました。あの時も外部は使わなかったと思います。
吉田:証券会社にもこの条件でコーポレートチームが巻き取れるなら良いですねとお墨付きをいただいて、社内でスピーディーに進めることができたと思います。
過去の経験からしっかりとノウハウが貯まり、それが活かされていたということですね。コーポレートチームの結束力も感じますね。

これから上場を目指すスタートアップの皆様にアドバイスをいただけたらと思います。
馬場:上場過程の中で、証券会社などから言われたことは、上場した今でもとても大事だと思うことが多くあります。非常に学びが多いプロセスなので、真面目に取り組むほど、チームがパワーアップすることも実感しました。アドバイスや指摘されたことを面倒だと思ってその場をやり過ごすこともできますが、そこでしっかりと向き合い、一つひとつを整理してきたことが、上場した今でも重要な指針になっているということが結構あります。
吉田:おおらかに考えたほうが良いと思います。一旦受け止めて、ちゃんとかみ砕いて整理する。何かと想定外のことが起きますし、外部の方からいろいろと言われながら変えていかなければいけないので、考え方が違う場面もあります。そこは、きちんと説明してコミュニケーションを成立させたら良いだけ。私たちのことをわからないからそう言っているだけということもありますし、審査の方も非合理なことは言いませんからね。
馬場:経営者の上場プロセスの理解はとても大切だと思います。おそらく、経営者によっては後回しにされることで、コーポレートが大変な思いをしているという企業や担当者もたくさんいらっしゃるような気がします。
おっしゃる通りですね。経営者が上場したがっているにも関わらず、経営者自身が上場プロセスを面倒だと言ってご苦労されているコーポレートの方が相談にお見えになるケースも多いので…。
吉田:その点では、代表の青﨑は理解が進んでいたと思います。当然、疑問が生じればディスカッションすることもありましたが、合理的にやるべきことは進めましょうという感じでした。他社さんだと、審査のプロセスに代表が入っていることも多いと思いますが、青﨑はほぼ出ていないんです。
あえてそういった形を取られていたのですか。
吉田:青﨑が出る必要がないですし、事業に集中してもらいたかったからです。審査に代表が出ている理由は、ビジネスの深い話を聞かれた時に、コーポレートのメンバーが回答できないからというのもあると思います。我々はコーポレートの仕事だけということではなく、「一緒に会社を大きくするためにどうしたら良いか」という視点で常に仕事をしているので、何を聞かれても青﨑と大まかには同じ粒度で答えることができます。もちろん、青﨑ほどの業界知見はありませんが、普段から連携が強いので、青﨑には常に事業を伸ばす方に向いてもらっていましたね。

最後に、会社として、個人としての今後の目標をお伺いできたら嬉しいです。
吉田:会社、チーム、個人としてほぼ同じなのですが、上場してようやくスタートしたという感覚なので、大きなM&Aやグローバル展開を含めて、3~5年ぐらいの間に社内の人も驚くような大きな成長を実現したいと思っています。会社の成長のためには、先程も申し上げた通り、コーポレートチームが成長しないといけませんし、私自身が律速になってはいけないので、個人としても成長していきたいです。
馬場さんはいかがでしょうか。
馬場:吉田からは、コーポレートチームが頑張っているという話がありましたが、現状はやはり青﨑と吉田がいてこそのマテリアルグループの成長ですし、彼らが基盤を整えてきたという面が大きいと思います。そこを我々が支えるのは当然として、さらに彼らに代替していかなければいけないとも思っています。二人に寄りかかっている状態は良くないですし、従来吉田が判断・意思決定してきたものを変わらないクオリティでコーポレートチームのメンバーが巻き取っていくという視点が必要です。私たちがしっかりと成長ドライバーになっていきたいですね。
お二方の絆、そしてコーポレートチームの結束力が伺えるお話でした。御社の今後がますます楽しみです。本日は貴重なお話をいただきましてありがとうございました。

慶應義塾大学商学部卒業後、有限責任あずさ監査法人を経てボストン・コンサルティング・グループに入社し、新規事業立案や全社改革支援等の業務を経たのち、2019年からマテリアルグループ株式会社CFOに就任。コーポレート部門の管掌およびM&A含む事業開発等に従事。
馬場亮平氏(左)
一橋大学商学部卒業後、有限責任あずさ監査法人を経て、アクセンチュア株式会社へ入社。2020年4月にマテリアルグループ株式会社へ入社。経営企画及び経理を管掌するCorporate Finance & Strategy局のゼネラルマネージャーとして経営戦略に基づく事業計画の策定・実行に従事。上場後はIR業務も担当。