株式会社MIXI 取締役 上級執行役員 CFO 島村恒平氏(2/2ページ)

「mixi」「モンスターストライク(以下「モンスト」)」「 家族アルバム みてね(以下「みてね」)」などの数々の有名サービスを世の中に生み出している株式会社MIXI。同社の取締役 上級執行役員 CFOとして、経営推進本部・コーポレートファイナンス本部・人事本部を率いる島村 恒平氏にこれまでのキャリアストーリーを伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 佐野めぐみ
現在は、取締役上級執行役員CFOとして、経営推進本部、コーポレートファイナンス本部、人事本部と、3つの本部を統括されていらっしゃるとお伺いしました。御社のような規模で考えますと管掌範囲が非常に広いですよね。
2025年6月から新たに人事部門も管掌領域に加わりました。各部門には本部長がいますので、私自身が全て実務で手を動かすわけではないのですが、経理財務、経営企画、広報、人事などを広くみています。
新体制になりまだ数カ月(※取材日時点)という状況かとは思いますが、体制が変わりご苦労されていることなどはありますか。
コーポレート領域の中でも、職種それぞれに特徴があるように思います。私は経営企画出身で、かつコンサルにもいたので、当時は前時代的な働き方をする、典型的なハードワーカーでした。今の時代は働き方にも配慮が必要ですので無理を強いることはしませんが、業務の特性上「明日までに数字を直す必要がある」、「資料を作らなければいけない」など、短納期の業務が日常的に発生します。それに、会計部門を例に挙げると、世の中に出すアウトプット、アカウンタビリティを果たす意識が強いと思います。東証や関東財務局、銀行に説明する機会が多く、外部から常に厳しい目で評価されることに慣れており、かつ何をやるにしてもスピード感を持って対応する習慣が根付いています。また、仮説思考やアウトプット思考で動ける人が多く、ゴールまで一直線に行く力を持っている人材が集まっているとも感じます。他にも、コーポレートガバナンスコードの改定があれば、それに応じて会社の体制を変えていく必要が出てきます。会計部門ではこうした変化が頻繁に起こるため、常に業務のブラッシュアップが求められ、結果としてBPR(業務改革)が自然に進む組織なんです。
経営推進本部やコーポレートファイナンス本部で、これまで私が採用や育成に関わってきたメンバーはわりと腹をくくって挑むソルジャー型の人材が多いと思います。一方で、人事部門は性質が異なります。人事だと、従業員の感情を受け止めなければならない場面も多く、必ずしも合理的な基準だけで判断できるわけではありません。答えのない課題も多く、かなりクリエイティビティを求められる仕事もあります。ですので、私自身のこれまでの仕事のセオリーを押しつけるのも違いますし、そのバランスをどう取るべきか。正直申し上げて、そのあたりは今マネジメントしながら試行錯誤している状況です。
畑が違うと価値観が異なりますよね。
人的資本は「6つの資本」のうちの一つです。投資家はこの人的資本がどのように財務資本に転換されていくのかに興味があります。私は自身のキャリアからそういう視点で「人事」という仕事を捉えていますが、これまで人事畑オンリーの人がいきなり資本の論理に向き合うのは結構難しいと思います。しかしながら、近年では、人事領域に対しても資本市場からの要求が高まっています。たとえば、指名委員会、報酬委員会を人事が担うとなれば、従来のように社内の制度や環境を整えるだけでは不十分であり、投資家をはじめとする資本市場からの評価を意識した視点が欠かせません。そのため、人事であっても資本の原理を学ばないとヒューマンリソースを適切に捉えることが難しくなってきています。だからこそ、知見のある人材の採用や、意識改革や研修によるリスキリングが不可欠です。私は、人事が経営の中核パートナーとして、人的資本の価値を最大化する役割をより一層発揮していくことに期待しています。

コーポレート組織においては、従来の経理だけ、人事だけということはなく、プラスアルファの知見が求められることも増えてきましたよね。
加えてAIの波も押し寄せてきています。かねてから経理や人事はいずれ仕事がなくなると言われてきた領域であり、誰もがそれに備えていたはずです。ところが、こんなにも早く到来すると思っていなかった人が多いのではないでしょうか。資本市場から求められることが高度化し、AIの進化で業務のあり方を根底から変えざるを得なくなっています。AIをどう使えば良いかわからないまま戸惑う人も数多く存在します。自分が淘汰されるかもしれない中で、いろいろなストレスを抱えながら仕事をしていると思います。
御社のコーポレートでAIによって何か業務が大きく変化したことなどはありますか。
弊社ではすでに99%の社員が業務にAIを活用しています。私の管掌領域でも業務効率化が大幅に進み、社員はより戦略的なワークへとシフトし始めています。加えて、懇意にしている株式会社ログラス(クラウド経営管理システム「Loglass」を提供)を開発パートナーとして、「経営管理 AIエージェント」開発の社内プロジェクトを推進しています。「Loglass」さんの既存のサービスは、散在する会計のExcelデータを一元的に集約でき、PLなどを瞬時に把握できる点が非常に強みです。これに加えて、現在共同で推進している「経営管理のAIエージェント」開発のプロジェクトは、会計データが出力された後に、さらに取締役会向けの分析資料までAIがすべて自動で作成するというものです。いわゆる「AIエージェント」であり、トリガーを設定すれば、「この資料を作ってください」とコマンドするだけで、そこから勝手に作業を始めてくれます。
従来の管理会計では「この費用は何ですか?」「なぜ100万しか予算がないのに200万も使ったんですか?」などといった確認作業を人間同士で繰り返してきましたが、それも今後は全部AIにやってもらいます。これらの問いかけもAIが担い、最終的に出てきたアウトプットを人間が読み込み、「ここからどう戦略を立てるか」というワークに専念できるようになります。
そこまでAIがやってくれるのですね。
会社としてAIへの投資を表明していますし、採用面を考慮しても、AIと共存していくワークフローをここ1~2年で築いていかなければ、魅力あるコーポレート組織とは見なされないでしょう。採用競争力を維持するためにも、常に最先端の業務環境を目指したいと考えています。

島村さんご自身がお仕事をされる上で大切にしていることはございますか。
昭和っぽいかもしれませんが、「知らない」とか「できない」と言わないようにしてます。
それはとても大切なマインドですよね。
それを口にしてしまうと、そこで全てが止まってしまいますから。知らないのは自分の情報感度が低いからであり、できないかどうかはやってみなければわからないと思います。
おっしゃる通りだと思います。
昔の自分を振り返ると、会議中に何となく「そうですね」と言いながらメモし、会議後に改めて調べるとか。恥をかきたくないという気持ちもありますが、後から調べりゃなんとかなるっていう根拠のない自信があったんですよね。
元々そういう性格なのですか。
これは親や昔の上司たちに感謝した方がいいと思うのですが、いつの間にか自己効力感がとても高くなっていまして(笑)、よく妻にも「なんでできないって思わないの?」と言われます。無謀だと思われているのかもしれませんが(笑)。
きっと奥様は島村さんのチャレンジ精神を認めていらっしゃるということですね。常に挑む姿勢をお持ちだと。
「やるからには結果を出す!」と。給料を下げられたり、ボーナスが出なかったりするかもしれませんが、失敗しても別に死ぬわけじゃないしって思っています(笑)。
それを体現できた大きなチャレンジが東証一部への市場変更プロジェクトですね。私が入社する以前からプロジェクトが始動していましたが、長年挑戦しながら実現できなかったのには、それぞれ理由があったのだと思います。ただ、話を聞いて「なぜそこで諦めては引き返していたのだろう…」と思うこともありました。
2018年に子会社のガバナンスに課題が生じ、そこからコーポレートガバナンスの強化に徹底的に取り組みました。ある一定の水準に達した段階で、「今度こそ東証一部への上場を実現できるだろう」と確信を得たので、私がPMを務め、もう一度プロジェクトを始動しました。ただ、その上場審査に並行して当時進行していたM&Aが5件あり、非常に負荷のかかる大変な時期でしたね。M&Aがあると(指定替えの準備が)止まったりするので、うまく切り分けながら両輪で進めていくという難しい舵取りでした。
何年頃のお話ですか。
2019年ですね。
この頃はいろいろなことを同時に進行していらっしゃったのですね。
一見するとボリュームがあって大変だと感じることでも、より細分化して捉えれば、一個一個クリアすることは大変ではありません。私は割とコツコツと取り組むタイプなので、算段が立てられないことはないと思っていました。そして、コロナ禍という状況下でも、無事に2020年6月に東証一部へ指定替えを果たすことができました。

先程、M&Aに関しては5件進捗されていたと伺いましたが、プロジェクトが同時に複数進行する上で大変だったことなどは何かございますか。
買収する企業規模によりますが、金額によって株主への説明責任も増すことは当然ながら、デューデリジェンスのやり方も異なります。例えば、株式会社ネットドリーマーズのM&Aは、当時のMIXIにとっては最大規模となる150億円でした。M&Aについては専属チームがあり、私はガバナンスまわりを担当しておりましたが、その時のプロセスは本当に大変でしたね。
M&Aの中でも千葉ジェッツさんは個人的にも興味深く、昨年の新ホームアリーナが開業した際はとても注目しておりました。
千葉ジェッツはもともと観客を惹きつける力を持った魅力的なチームです。ホームアリーナ(「LaLa arena TOKYO-BAY」)のキャパシティが従来の倍になったにもかかわらず満員となっており、クラブとして確実に軌道に乗ったと思います。
今後もM&Aには力を入れていかれるのでしょうか。
やはりM&Aは経営戦略上、重要です。新しく事業を作り、仮説検証し、この事業なら勝てるとなってからそれなりの規模を作っていくには大変ですからね。海外も含めていろいろと考えているところです。
海外という点では、グローバル人材の採用なども必要になってくるのでしょうか。
これまでは国内の採用がメインでしたが、グローバル案件のM&Aが進めば会社の姿も大きく変わっていきます。グローバル化への対応はまだまだこれからですが、新しい取り組みをすることで会社にとってポジティブな方向に進んでいければと思います。

今後の会社として、島村さん個人としてのビジョン・目標があればお伺いできたら幸いです。
MIXIの会社としてのビジョンは、社長も含めてこれから中長期でどうしていこうかと今ちょうど議論しているところです。MIXIは、SNS「mixi」「モンスト」「みてね」など、国内でメジャーなサービスをいくつも作ってきた会社です。ですから、これからもそういうメジャーサービスを国内外で複数運営する会社であり続けさせたいというのが私のビジョンです。
これからAIが更に台頭し、AIで簡単にアプリを作ることができるようになると思います。そういう中においても、MIXIのサービスは違うよねと言われるようにしたいですし、家族や友達などと一緒に使ったら一番楽しい、一番選ばれるプロダクトというのを会社のウリにしています。10年後、20年後、ユーザー同士のコミュニケーションはどう変わっていくかは分かりませんが、変わっていった先でも、MIXIのアプリやサービスは良いと言われるような競争力、ブランド力を持つ会社であり続けたい、これが私の思い描く姿です。
私自身MIXIさんのサービスのユーザーですので、僭越ながらこれからもサービスを愛していけたらなと思いますし、国内に留まらずどんどんグローバルに飛び出していっていただきたいです。
ありがとうございます。「モンスト」や「みてね」を筆頭に、世界中で多くの方々に愛されているサービスです。もし無くなってしまったら困るという声も多いでしょうし、だからこそ責任を持って守り抜く必要があると考えています。そういったユーザーの思いに応え続けることが、私たちの使命でもあります。
それだけシェアが広がっていて、守らなければいけないユーザーがたくさんいるというのはとても素敵なことですね。島村さんの個人的な目標は何かございますか。
私自身の長期的なキャリアについては、今はあまり考えていません。それよりも、取締役として与えられた任期の中で、いかに会社に貢献できるかを重視しています。例えば5年という期間で成果が出なければ、次の人に譲るべきだと考えていますので、今はまずこの5年でしっかりと足元の成果を出すことに専念しています。そして、今私が注力すべき成果は、将来の成長の土台となる「事業ポートフォリオの構築」と、それを実行する「人的資本の成長」に集約されると考えています。
事業は10の挑戦があって1つが花開く世界です。そうした挑戦を可能にする事業ポートフォリオを整えることが重要です。そして、それらの事業を永続的に生み出せる強い組織、つまり人的資本を成長させることも欠かせません。会社の未来を作るこの2つの仕組みをしっかり構築し、様々なステークホルダーから見てMIXIをもっと魅力的な会社にしていくことに、この5年、全力を尽くしたいと思っています。
ユーザーとしても御社のこれからが益々楽しみです。本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。
ありがとうございました。
