株式会社VRAIN Solution/菊地佳宏氏 - エクイティ無しで創業から4年弱でのIPO達成。少数精鋭で駆け抜けた舞台裏。(2/2ページ)

2024年2月、東証グロース市場へ上場した株式会社VRAIN Solution。創業以来黒字を継続し、エクイティファインナンスをすることなく、デットファイナンスと売上利益により事業を拡大。創業から4年弱でのIPO達成。そのIPOを主導した取締役コーポレート部部長 菊地佳宏氏に、IPOに至るまでとその後の取り組みについてお話を伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 山岡直登
IPO準備の過程で菊地さんが大切にされていたことや心がけたことなどがあれば、お伺いさせていただけたらと思います。
主幹事の証券会社と良好な関係性を築くかが非常に重要だったと思います。
証券会社から提案いただくこと全てにイエスではなく、会社の体制が整わなかったり、弊社に合わないこともあります。そういう場合には、率直に「今の状況を説明し、このような考えに基づいて進めたい」といったように、事前に密にディスカッションをさせていただき、その上で、受け入れ可能なスケジュールや進め方などをすり合わせるように意識していました。そこは非常にやりやすかったですし、証券会社も受け入れてくれて、良い関係性を築くことができたように思います。
早めの段階で主幹事証券とのコミュニケーションを重ね、進め方をすり合わせしていくことが大切ですね。回数というよりはコミュニケーションの取り方を工夫するのがポイントでしょうか。
コミュニケーションの取り方だと思います。証券会社からは当然さまざまなご提案をいただきますが、そこに対して「このステップで良いか」「期限はどこか」「提案のうちここを取り入れ、別の部分はこうしていきたい」など、いろいろと擦り合わせしていくことが非常に重要だと思います。
とても大切なことですね。
あと、証券会社から指摘された課題や、整理したことを社内にどう伝播するかの工夫が大切だと思います。IPOのためにルールを新しく作るような形になりますが、当然「こうやりたい、ああやりたい」ということが出てきますし、面倒なことも当然あるので、役員も含めて意思の共有が重要です。例えば、「証券会社がここは譲歩してくれたから、これは受入れなきゃいけないよ」といったような形で、しっかりディスカッションできたのは良かったと思います。
主幹事証券とのやりとりで印象的なことは何かありますか。
バリュエーションにまつわることです。証券会社にも弊社にも、それぞれにロジックがあるので折衷案を探すということになりますが、弊社のロジックをどのようにすれば証券会社に評価していただけるのかはかなりディスカッションしました。上場の1年前くらいから事業計画の達成度合いが重要な要素だと言われたので、事業計画を達成、もしくは上方修正できた場合は、弊社のロジックを認めていただきたいと事前にお伝えしていたんです。目線感の引き上げ、高いバリュエーションをつけていただくためにどうするか、南塲と二人で戦略を立てていきました。最終的には事業計画を上方修正をし、おおむね想定通りのバリュエーションで通していただき、IPOを実現することができました。

設立から4年弱という短期間で上場できた、このスピード感の背景には何があったと思われますか。
まずは、南塲の覚悟でしょうか。IPOをする上で、一番窮屈になるのは南塲ですし、IPO準備の過程すべてにおいて、南塲の意思決定が重要です。でも、南塲に絶対にIPOをしたいという強い意思があり、「そのために必要なことは全てやる」と事前に言われていたので、非常にやりやすかったです。
そして、事業計画を達成し、最短で4年で上場するというゴールの意識を全員が持ち、一致団結して進めることができたことです。
素晴らしいですね。ゴールを追い続けるための秘訣はありましたか。
短期間でのIPOを実現させた原動力は、南塲のリーダーシップに集約されます。上場時の社員数は約50名、ワンフロアで全員の動きが可視化できる組織規模でしたが、何より南塲自身が誰よりも事業成長に拘り、自ら先頭に立って推進する姿を「背中」で見せ続けてくれました。IPO準備において、テクニカルな手法や高度な交渉術はもちろん不可欠です。しかし、その大前提となるのは「立てた計画を何が何でも達成する」という強固な意志です。一見、精神論のように聞こえるかもしれませんが、代表自らが事業成長を牽引し、組織全体にその熱量が伝播していたからこそ、妥協のない予実管理と最短ルートでの上場が可能になったのだと感じています。
コーポレート組織において、4年弱で上場できたポイントがあれば教えてください。
少数精鋭で進めたことです。5人なのでスピード感があり、組織的にも重複することなく、一人一人が会社のVALUEにもある、「圧倒的『付加価値』を追求する」ことを意識して動けたと思います。一人一人が必要なことを考え、自発的に提案や物事を進めてくれるような組織であり、カルチャーが浸透していたことは非常に大きかったです。
菊地さんのマネジメントスタイルとしても、メンバーが自発的に取り組めるように意識されていらっしゃるのでしょうか。
あまり多くを語ることはせず、課題をどうするか、各々に考えてやってもらうスタイルだと思います。私が忙殺されている中でも、それを各人がちゃんと感じ取ってくれてやるべきこともやってくれています。
少人数だとコミュニケーションもわりと密にとっていらっしゃる感じですか。
全員出社で一緒のデスクで仕事をするイメージだったので、コミュニケーション頻度は多く、風通しも良かったと思います。
上場前と上場後でコーポレート組織に変化はありましたか。
人員の増加に伴い、現在は20名程度の組織になっています。ただ、IPO前後に入社してくれた、人事、経理、IR広報等の各セクションでキーマンになる人材が育ってきているので、権限委譲をしながら進めています。マネージャー陣で自発的に課題感を洗い出し、それを進めたいと提案をしてきてくれるので、その内容をディスカッションするという形が構築できています。私は、営業・開発・コンサル以外全ての領域を引き続き管掌していますが、業務の分担ができていて、IPO前と比べても数倍の業務量をこなせている感覚です。今後の中長期戦略を考えることができるようにもなり、非常にやりやすくなりました。

先程、証券会社とのコミュニケーションの大切さはお伺いしましたが、上場前にやっていて良かったこと、逆にこれをすべきだったといった反省などがもしあれば教えていただけないでしょうか。
上場前に注力して良かったのは、上場後の成長戦略を、投資家が直感的に理解できるレベルまで考えたことです。投資家は、単なる現状の業績だけでなく、その先の持続的な成長期待に対して投資を行います。そのため、自社の強みや成長ポテンシャルが不透明であれば、投資対象として検討すらしてもらえません。私たちは、自社のソリューションがいかに市場を拡張し、どのようなロードマップでスケールしていくのかという点を徹底的に突き詰めました。この準備が功を奏し、投資家との対話においても、成長可能性について高い評価をいただくことができたと感じています。
他社さんだと労務管理に苦労されたというお話はよく伺いますが、御社はいかがでしたか。
労務管理はどの企業も人材が増えていけば苦労する点だと思います。法律を犯すことなく、すべきことにしっかりと取り組むことは重要かと思います。
少人数体制だからこそのコーポレート組織のスピード感というメリットはお伺いしましたが、ご退職によって大変な面もあったかと思います。そのあたりはいかがでしょうか。
少数精鋭体制は意思決定の速さという大きな利点がある一方で、一人の欠員が組織全体に与えるインパクトが大きいというリスクも孕んでいます。実際、不測の事態に備えた人員の余力については、もう少し持たせておくべきだったというのが正直な反省です。また、個人の能力に依存するのではなく、ルール化・明文化をもっとできていれば、欠員時や急拡大期のリスクをより軽減できたと感じており、現在に活かされていると感じます。

上場後のファイナンス、IR戦略についてもお話を伺えると嬉しいです。
上場はあくまで通過点に過ぎません。私たちの真の目的は、MISSIONである「モノづくりのあり方を変え、世界を変えていく」ことの達成にあります。このメッセージを投資家の皆様に正しく届け、私たちの挑戦を力強く後押ししていただけるようにしていきたいです。継続的に事業を成長させていくためには、投資家の皆様に当社の本質的な価値と成長ポテンシャルを深く認知していただくことが不可欠だと考えています。単なる「株主」という枠組みを超え、ビジョンを共有する「成長の伴走者」となっていただけるよう、継続的な対話を通じて透明性と信頼感のあるIR活動をしていきたいですね。
お話いただける範囲で良いのですが、今後どういったファイナンス戦略が出てきそうですか。
海外展開やM&Aによるソリューションの多様化は考えていきたいです。
今までのご経験を踏まえて、IPOを目指すスタートアップ、CFOに対してアドバイスをお願いします。
昨今、「時価総額100億円の壁」が大きな議論を呼んでいます。証券会社の引き受け基準も厳格化する中、IPOを単なるゴールにしないための戦略的な準備がこれまで以上に重要です。特に東証グロース市場への上場は、上場後も極めて高い成長持続性が求められます。機関投資家からは、四半期ごとに「成長の源泉はどこか」「拡大の余地はどこにあるのか」という問いをされます。そのプレッシャーに耐えうるためには、非上場のうちにスケール可能なソリューションを構築し、多角的な事業展開ができる体制を盤石にしておく必要があります。
CFOに求められるのは、単なる財務管理ではなく、「成長できる事業構築」への関与です。組織と仕組みを作り上げることができていれば、万が一IPOが困難な局面を迎えたとしても、M&Aによる出口戦略や、自らが買い手となって他社を買収していくといった、柔軟な選択肢を確保できます。
「上場後に成長できる実力を備えているか」という点を考えながら、事業成長や今後の成長戦略を考えて行ってください。
それらを実現するためにCFOとしてどのようなことが大切でしょうか。
成長戦略の構築に関与していくとともに、それを株主にも理解してもらい、出口戦略を構築していくことは重要だと思います。VCのファンド期限もあるので、きちんと目線を同じにして、事業成長に集中する環境を作ることもCFOの役割だと思います。
菊地さんのお話にもあったように証券会社への対応と同じで、コミュニケーションを密にとり、事前に目線合わせをしっかりしていくことがとても大切ですね。
取締役会に参加もしますし、良い意味でも悪い意味でもいろんな株主の意見を頂戴するので、会社の目指す方向性や目指すべき姿の合致は大事になります。

最後に、会社として、コーポレートチームとして、菊地さん個人としての目標をそれぞれお伺いできますでしょうか。
会社としては先程申し上げたように、「モノづくりのあり方を変え、世界を変えていく」というMISSIONの達成に向けて、事業成長を継続していこうと考えていますので、人手不足に陥っている製造業の課題解決をしっかりできるような、日本を代表するプレイヤーになっていきたいと思っています。
これからのコーポレート部門に求められるのは、単なる管理業務の遂行ではなく、テクノロジーを駆使して組織を再構築する力です。生成AI等を活用して、社内のオペレーションに落とし込んでいくことで、効率的なコーポレート組織への変革を目指したいと考えています 。各メンバーが定型業務から解放され、高いパフォーマンスと付加価値を発揮できる存在になること、そのような「生産性の高い組織」を築き上げることが、結果として会社の事業成長を支える強固なベースになると考えています 。
確かに、AI活用は大事ですよね。
活用しないと大きく差がついてしまいますからね。AIをうまく活用した組織作り、業務フローに変えていきたいです。
菊地さん個人としてはいかがですか。
私は会社・コーポレートの構築に向け愚直に取り組み続けることが自身の成長に繋がると思いますので、そこでまだ見ぬ世界を築きたいですね。
本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。
