【インタビュー】株式会社ディー・エヌ・エー/小林賢治氏 - コーポレート部門は”ブースター”。いかに事業部門のエネルギーを増幅させるか(5/5ページ) - Widge Media

【インタビュー】株式会社ディー・エヌ・エー/小林賢治氏 - コーポレート部門は”ブースター”。いかに事業部門のエネルギーを増幅させるか(5/5ページ)

記事紹介

株式会社コーポレイトディレクションの史上最速マネージャー記録を打ち立て、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に執行役員ヒューマンリソース本部長として参画。その後、ソーシャルゲーム統括部長、Chief Game Strategy Officerを経て、現在、執行役員経営企画本部長として同社のコーポレート部門を牽引する小林賢治氏のキャリアストーリーを伺った。

※インタビュアー/株式会社Widge 代表取締役 柳橋貴之

事業側は5年くらいですか?

そうですね。だいたい5年くらいは事業サイドでしたね。 売上も大変動でしたよ。 入社した時が200億くらいで、取締役在任中に2000億(全社連結)までいきましたからね。

なにかご自身の中で意識されていたことってありますか?

自分はこういう職種が向いている・向いていないということを、事前に決めきってしまわないということですかね。 そう思ってしまったら、できるものもできなくなってしまいますからね。 「なんとかなるんじゃないか」と思って、ひとまずやると。

やはりそれは一貫しているのですね。

キャリアチェンジって戸惑う人も多いと思うんですが、どちらかというとワクワクするんですよね。

それは素晴らしいことですね。 2015年からコーポレート部門に移られることになりますが、先ほど自らの意思もあったと。 きっかけのようなこともあったのですか?

事業会社というのは、基本的に事業主体で成長していくものですけど、会社の規模が一定以上に大きくなってくると、コーポレート部門の影響も大きくなってくるじゃないですか。それが毒にもなるし薬にもなるという感覚を持っていたんですね。 DeNAのコーポレートチームは、もともと良いチームでしたけど、よりブースターになれる、そういった高いポテンシャルを秘めたチームだなって思っていたんですよ。

「ブースター」とは良い表現ですね。

「ブースター」が最もしっくりときますね。コーポレート部門って、事業部門の敵ではないじゃないですか。視点が少し違ったりはしますけど、絶対に仲間であるはず。 その視点をどう上手く事業部側とミックスさせられるかということにチャレンジしたいなって思ったんですよ。 DeNAならではの「攻める」コーポレートチームにしていきたかったんですよね。

「攻める」コーポレート部門、大切ですよね。

M&Aを数多く仕掛けるとか、すごく強気なファイナンスをするとか、そういう単一的な「攻める」ということではなくて、事業サイドに立った視点と、事業サイドの持ち得ない視点を、バランスよく行き来できるというか、そういう組織にしたいなと思ったんですよ。

素晴らしいです。 チームの皆さんにも、浸透されていますか?

そう思っています。事業部のニーズに先回りする意識をしっかりと持っているように思います。

DeNAさんに入社されてから、苦しかった時期を挙げるとすると、いつ頃になりますか?

ん~、取締役になってからですね。 2011年6月の総会で取締役になって、その年(2012年3月期)は売上1457億円・経常利益626億円で、株価が4300円くらいだったんですよ。 なぜ当時の株価を覚えているかというと、そこからずっと下がっているんですよ。一時1200円くらいまで下がったと思います。自分が取締役になった時の株価を、在任期間中で一回も超えていないんですよ。

次の年(2013年3月期)は売上2025億円・経常利益792億円と、PL上はぐっと上がったんですが、逆に株価はぐんと下がったんですよ。もちろん要因は様々あるので、何とも言い難いのですが、「PLだけ上げておけば良い」なんていうことは絶対に言ってはならないポジションですからね。 自分の扱っている変数が、世の中に対して十分でないということを、まざまざと見せつけられたのはやはり苦しかったですね。

加えて、その後はPLが下がってきたので、さらに苦しい状況になりましたね。PLが上がっても株価が下がり、さらにPLが下がって株価もさらに下がっていくという状況であったので、非常に重い責任を感じました。

対策はいくつか講じていたのですよね?

当然メンバーがさぼったからPLが下がるなんていうことは無いので、端的に、自分の先見の明が無かったな、と思います。あの意思決定は間違っていたな…という場面もあるので。 じゃあそれを誰が背負うんだ?となれば、当然「お前が背負え」という話ですからね。 背負い方ってどうするの?首が飛べば良いのか?ということもありますよね。欧米であればそうするのかもしれないですけど、自分としては、違うポジションで、もう一度ラーニングしたことを会社に対して返していくと。それはやるべきなんじゃないかと思いまして。

株主との付き合い方も考えさせられたのでは?

もちろん株主総会でも、本当に手厳しい言葉をいただきました。 自分のパフォーマンスのせいで、人生を狂わせてしまっていると。大変なことをしてしまっていると。 株主との付き合い方もそうですけど、取締役の責任ということを、非常に考えましたね。

「取締役の責任」ですか。

はい。ステークホルダーに対してどういった価値を提供しなければならないかについて、本当に考えさせられましたね。

そういった経験・(お言葉を借りると)学んだことを、コーポレート部門で活かしていこうということなのですね。

そうです。今は良い意味で、攻めのコーポレートチームができてきているので、とても楽しみです。

現在のコーポレート部門(経営企画本部)は、何名体制なのでしょうか?

HRと総務を含まない部門ですが、90名程度ですかね。

今の立場で、小林さん個人が仕事において大切にされていることはありますか?

他者に対するリスペクトですね。自らが謙虚であれというか。先ほどお話した「物事を好きになる」ということにも似ているんですが、相手をリスペクトするからこそ、できることって多分にあると思うんですよね。 サービスに対しても、ユーザーに対しても、他部署のカウンターパートなどに対しても、協業先も、ましてや競合もですね。

アメリカのある記事で、「多くの場合、事業をはじめる際に競合が大したことはないと思いがちである」という内容が書かれていて、確かになと思ったんですよ。やはり競合に対しても謙虚であるべきだと思うんですよね。 競合をみくびるべきではないし、市場の変化も甘く見るべきではないと。

なるほど。 別途、チームの皆さんによく伝えていることがあればお聞きしたいのですが。

いろいろありますけど、たとえば(先ほどの話に通じるのですが)、我々のパフォーマンス次第で、株主の方々の人生を大きく左右するんだということは伝えているかもしれないですね。 やはり市場に触れる機会が多いのは、コーポレート部門だと思うので。

株主との向き合い方ということですね。

未上場の頃は、株主一人一人の「顔」が見えるじゃないですか。あのVCの誰々さんだって。なので「この方々が投資してくれたんだから何とか返さなければ」と思って頑張っていた経営者が、IPOをした途端に、今度は株主全員の顔が見えないことによって、先ほどのような思いが衰退していくケースが多いと思うんですよ。

確かにあるかもしれないですね。

でもそれは絶対に違うじゃないですか。 たとえば、一番最初にDeNAを助けてくれた村口(和孝)さんという素晴らしいキャピタリストがいらっしゃいます。村口さんには絶対に恩を返すべきだと。ただ村口さんに株式を一生持って頂くわけにもいかないですよね。

株式会社において株式に流動性を持たせることが発案されたのは、出資者がリターンを得るまでに時間がかかる、もっというと死んでしまうことがあるために、その権利を別の人に移す理由が出てきたからです。だからDeNAの場合でいうと、村口さんが得られるであろう権利が、次の方に譲られていると。そのため、村口さんに対する恩を、その方にも返さなければならないと。そう僕は思うわけですよ。 決して直接お会いしたことがない株主であっても、村口さんの権利をお金を出して譲り受けているわけですから、その方にもしっかりとリターンをしなければならないという強い気持ちを持たなければいけないと思うんですよね。

本当にそうですね。

あとは、世界で見た時に、今おそらく一京(けい)円くらい時価総額があると思うんですけど、そのうちの約半分は年金です。 年金ということは国富じゃないですか。なので、その国富の一役を担っている上場企業は無意識で良いのか、ということは常に頭に入れておくべきだと思います。

そこに無意識な上場企業も多いと。

そういう意味では、ベンチャー、とりわけIT業界よりも、キャピタルインテンシブな商売をされているオールドエコノミーの方が、だいぶ先端の対応をされているなと感じることもあります。 こういった面はどんどん学ばなければならないと思うんですよね。何もかもがベンチャーが最先端なんていうことはなくて、むしろ経営スタイルであったり、株主との向かい方であったり、歴史のある企業の中には非常に先進的な思想をお持ちの方もいらっしゃるんですよ。

なるほど。その辺りは逆に学ばれることも多いということですね。

そうですね。

ありがとうございます。 最後になりますが、今後のビジョンはいかがですか?

よりスケールの大きな会社になることができるように、常に先回りして動いていく、ということです。

時価総額1兆円の会社と3000億円の会社を比べると、やはり様々な面で違いがあります。1000億円の頃の会社が3000億円になると、いろいろとまた違いが出てくるように。 会社ってサイズに応じた振る舞いを求められると思うんですけど、大きなサイズになってから考えるのではなく、先に考える。そういう動きを常にイメージしています。

個人的なビジョンなど何かあるのですか?

個人的には特にないですね。「こうでないと」ということを長期的には置かないので。

確かにそうですよね。

今与えられている、あるいは出会っている事象に対して、全力で取り組むということですね。 後々「あの時ちょっと手を抜いていたな…」みたいなことにならないように。 会社の成長のために、日々先回りで動いていこうと。今はそれだけですね。

株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA) 執行役員経営企画本部長 小林賢治氏2005年、東京大学大学院(人文社会系研究科美学藝術学)修了。同年4月、独立系戦略コンサルティングファームである株式会社コーポレイトディレクションに入社。2009年、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。執行役員ヒューマンリソース本部長、ソーシャルメディア事業本部ソーシャルゲーム統括部長を経て、2011年6月、取締役に就任。その後、Chief Game Strategy Officer等を経て、2015年6月より執行役員経営企画本部長としてコーポレート部門を牽引する。