【インタビュー】株式会社メルカリ/長澤啓氏 - 2019年最も注目されたIPOの裏側。海外投資家を含めたエクイティーストーリー(4/5ページ)
三菱商事において金属資源分野における投資及び主にエネルギー、リテール、食品分野等の領域におけるM&Aを担当。2007年にシカゴ大学経営大学院を卒業の後、ゴールドマン・サックス証券にジョインし、東京及びサンフランシスコにおいて、主にテクノロジー領域におけるM&AやIPOを含む資金調達業務を担当。2015年7月に株式会社メルカリに参画。CFOとして、IPO準備から達成までご経験された長澤さんに、お話をお伺いいたしました。
※インタビュアー/株式会社Widge パートナー 山岡直登
日報ですか。イメージと違いますね。
そうですよね(笑)。全社で取り組んでいましたが、特にコーポレートは、誰が何をやっていたかが分かるので重視していました。その中から気になることがあれば、「何でこうなの?」みたいな話題になったり。 ただ、そこに時間を費やしても意味が無いので、内容としてはだいぶ軽いものにしていましたね。「増税前にiPhone買いました」とか、他愛のないことでも良いんです(笑)。こうするとコミュニケーションになるじゃないですか。
たしかにコミュニケーションになりますね。
僕も、朝に出社して、40名ほどの日報を毎朝読むのを日課にしています。
IPO過程での苦悩
IPO準備過程の苦労話などあれば聞かせてください。たとえば証券会社との対応などはいかがでしたでしょうか。
僕が入社する際には、すでに主幹事は決まっていたんですが、そこから共同主幹事を1社増やすということになったので、その過程ではいろいろありましたね。 一回スキームをゼロベースにして体制を整えていく必要があるので、いろいろなハレーションが起きるわけです……(苦笑)。
確かにそうですね。
でも会社のためを考えたらやるべきでしたし、それが良い相乗効果になってくれればという思いで進めました。 各証券会社のIPO準備のプロセスをキャッチアップして、どの役割をどの証券会社にお任せするのかを調整して……みたいなことは、とても気を遣いましたし、大変でしたね(笑)。
直接のやり取りの中で意識されていたことなどありますか?
証券会社とのやり取りにおいては、商習慣で「こうあるべき」というような話がよく出てくるので、一つ一つ(良い意味で)疑って、どうしてこうなのかということを腹落ちさせながら。こういうやり方では駄目なのかなど、しっかりと議論をさせていただきました。 僕自身、証券会社出身なので、大体裏方は分かっているつもりですが、そうは言っても自分が決める立場になったら、客観的なオピニオンも必要だと感じました。 なので、会社にとって何が大切なのかをしっかりと考えた上で、すべてを言われたまま進めるのでなく、必要に応じて、然るべき人に相談するということも必要な気がします。
その他には何かございますか?
経営陣の期待値と資本市場の期待値において、両方の期待値を最大化させていくということですかね。そのバランスを調整するというのは、面白みでもあり大変な部分でもあると思います。 調整役のような面も多いのですが、そもそも自分自身の目線を高くして、そこに関係者の目線をそろえていくのがIPOの過程では大切だと思っています。
おっしゃる通りかもしれないですね。
それに向けて、「どういう事業計画なのか」、「それは達成できるのか、できないのか」、「このバリュエーションで設定したいのであれば、こういう計画を引けるのか」など、あらゆるリスク・リターンを想定して、しっかりと判断できるベストな状況を作ることもCFOの大事な仕事ですよね。
CFOとして意識していたこと
その流れでいくと、IPOの過程でCFOとして心掛けていたことはありますか。
投資家の方々がどう見ているかということは、早めにキャッチアップしようと考えていました。 どのように会社が見られているのか、成長戦略をどう評価していただけているのか、バリュエーションは? など、早めに投資家サイドの意見を聞くことが大切だと思っていたので。
海外の投資家にも意見を聞いていたということですよね。
そうですね。海外の投資家は非常に忙しいので、限られた時間内で、メルカリとはどういうサービスで、どうしてみんなが使っていて、なぜこんなに伸びているのか……というようなことを理解していただかないといけないですよね。そのハードルは結構高いんですよ。
理由が無くてもメルカリを開いている人がたくさんいるということを、短時間でしっかりと理解していただきたいという思いがあるので。20分くらいのプレゼン資料を作成するにも、非常に時間をかけましたね。
いかに分かりやすく理解していただくか、ということですよね。
はい。複数のバージョンを作成しましたが、一つ一つとても時間をかけて、何回も練習をしました。
やはりそこはとても意識をされていたのですね。
そうですね。海外投資家だからということではないですが、大きな部分を占めていました。 オファリング・ストラクチャーをどう作るかという点を踏まえて、しっかり動いてきたと思います。
経営陣とのコミュニケーションはいかがでしたでしょうか。
CEOとはできる限り毎日話す・接点を持つということは意識してましたね。特に弊社の場合、進太郎さんは創業株主ですし。当時は1on1のミーティングは、週に1回、それに加えてIPOに関連するミーティングを週1-2回はやっていたと思います
主にどういった内容が多かったのですか?
いろいろありましたけど、IPOのグランドデザインをどう考えるか……ですとか、事業計画に対してどのくらい資金が必要なのか……など、具体的な話題は多かったですね。
どの程度の資金が必要なのかという目線合わせは大切ですよね。
本当にそう思いますね。ある意味、事業を回す人の感覚値というのもありますし、特にアーリーなうちは、どんどんお金がかかりますから。 10億円が必要となれば、20億円調達した方が良かったりするじゃないですか(笑)。