【インタビュー】株式会社サイバーエージェント/曽山哲人氏 - 才能は、発掘するのではなく開花させる。才能開花の方程式をつくりたい。(3/5ページ)
「21世紀を代表する会社を創る」をビジョンに掲げ、AbemaTVの運営や、国内トップシェアを誇るインターネット広告事業を展開する株式会社サイバーエージェント。
時流をとらえた数々のサービスと同時に、独自の強固な組織運営が注目される同社において、そのHR領域を牽引する取締役・曽山哲人氏のキャリアストーリーを伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 代表取締役 柳橋貴之
人事に異動され、まずはどんなことから取り掛かったのですか?
評価制度に対する不満がすごく多かったので、はじめは、評価制度を変えることでしたね。
僕が人事本部長になった瞬間に、いろいろな社員から「文句を言える先ができた」と。「現場を知っている曽山さんだから分かってもらえる」というようなことで、とにかく隠れていた問題が一気にこちらに来たんですよ。それが基本的に不満ばかりだったので、本当にまずいなと思って・・・・・・。
想定以上に、不満がはびこっていたということですね。
本当に想定以上でしたね。
まずは月1回の面談を実施することにしました。しっかりと対話をしたほうが良いという意思決定をしたんです。僕が月1面談と呼んでいる、今でいう1on1のインタビューですね。評価は半年に1回なのですが、その期間に一度も話をしていないのに、良い・悪いを言ってもお互いにズレが生じますよね。
うまくいっている部署は、とにかく面談量や対話の量が多いということが分かったんですよ。なので、「月1回の面談を実施」「びっくり退職はNG」ということを決めました。
「びっくり退職」ですか。
急に、「え、山田くん辞めるの?!」みたいな、いきなり退職する話ってありますよね。
退職率が高いのももちろん問題ですが、一番よくないのは「知らなかった」ということだと思っているんです。中でもキーマンの退職は絶対に避けるべきですよね。そこで、まずは「キーマンのびっくり退職ゼロ化」という方針を決めました。
どのように行動に落とし込まれたのですか。
各部署の活躍している社員との対話、面談を実施して、「辞めそうだから異動させよう」「こんな形で抜擢しよう」などを役員にどんどん提案しました。該当する事業部の責任者にも「このままだと辞めてしまうから異動させちゃうよ」と伝えたり。
ただ、僕一人の力には限界があるので、びっくり退職がある部署は面談を、無い部署は「(強制はしないけど)関係性を構築しておくように」とは言い続けました。数年かけてですが、退職率が9~10%くらいまで改善されましたね。
曽山さんご自身は、全社横断的に駆けまわっている状況だったと。
なるべくいろいろな人と話をしていましたね。今も週2~4回くらいは社員とランチやディナーをしていますね。昨日も一昨日も行きましたよ。
今思うと失敗だったなと思うことや、それをどうプラスに持っていったのかというエピソードがあれば教えてください。
先ほどの「月1面談の実施」は、ある程度成功したと思います。ただ、評価制度を変えたときに「コンピテンシー」を入れたんですけど、これは豪快に滑りましたね(苦笑)。
当時は成果しか見ていなかったので、もうちょっと成果以外も見てほしいという声があって。そこで当時流行っていたコンピテンシーに目をつけて、「サイバーエージェント・コンピテンシー」を導入しました。ロジカルシンキングやバードビューなど10項目くらい策定して、それを上司が付けて、査定全体の2~3割のウェイトにしようと。
ところが、それをリリースするという全社メールを投げてから1週間、メールで苦情が大量に届きまして……(苦笑)。
苦情が殺到されたのですか。どういった内容だったのですか?
管理職からは、「評点を付けるのが大変だ」と。評価される側からは「納得感がない」と。
双方からの意見を聞いて、どうやってまとめようかなと思っていたんですけど、ふと考えて、「これはまとまらないな」と分かったんですよ。なので、すぐに全社メールで「無かったことにしてください」と送りました(笑)。
当時のお気持ちはどうでしたか。
いろいろありましたけど、こういうことがとても大切なんだなと、大きな気づきを得ました。声を聴くこと、それに応えること、こちらから発信をして(ポジティブもネガティブも)いろいろな反応があって、更に軌道修正をしていく。そしてこれを続けていくということですよね。
御社の場合、トライ&エラーの数が他社さんと比べるととても多い印象です。
多いと思いますね。役員がそうなので。
事業はどんどん形を変えながら進めていきますが、その結果、成長した人は厚遇されるし、成長しなかった人もセカンドチャンスがあります。チャレンジをして、失敗しても絶対にマイナス評価はしません。結果としては必ず厚遇されるので、そこは明確にしています。
あした会議や、以前だとCA8など、御社独自の取り組みが複数あります。
あした会議は、2006年から始めて、今でもやっています。ここから生まれた会社が29社あって、累積売上高は2500億円ほどにのぼります。ここから上場する会社も生まれたり、いろんなチャレンジが生まれていますね。CA8も、今は制度自体をやめてしまいましたが10年間、大きく機能していました。
御社発信で世の中に波及していく取り組みも本当に多いと思います。
大変ありがたい話ですね。
ご自身として、普段から意識されていることなど何かございますか?
僕の場合、いつも頭の中で出てくるのは「会社のビジョン」です。
「21世紀を代表する会社をつくる」なので、この取り組み、この制度、この考え方は21世紀を代表するに値するのか?という問いを常にしていますね。
たとえ厳しい判断だとしても、「これはどうしても21世紀を代表する会社には必要だから」とか、「これはすごく明るい未来につながるから、21世紀代表になりそうだ」という感じです。特に判断に迷った時などは、必ずそれを軸に考えますね。
会社のビジョンと常に連動しているということですね。
あとは、「仮に社員が目の前にいても、胸を張って同じことを言えるかどうか」ということはすごく大切にしていますね。
たしかに、それは曽山さんとお話していてすごく感じます。
僕は社員が自慢してくれる会社をつくりたいんです。社員が笑っていて、自社のことを自慢してくれる。ただし、業績が上がっていることが大前提です。これが両輪で回る会社をつくりたい。両輪がすごく大事だと思っているので。
業績が大前提という点、重要ですね。
はい。シンプルに言うと「業績と笑顔」って言ってるんですけど。業績が上がっていて笑顔が多ければ、いい会社だと。これだけできたら、極論、あとは何とかなると思っています。
たしかに、そうかもしれないですね。他に何かございますか?
経営人事として僕が大切にしていることは、「経営の言行一致」です。
経営の言行一致ですか。
はい。社員はミッション、ビジョン、バリューを見て入社をしてくれるので。
例えば、ミッションステートメントの中で「セカンドチャンスを提供する」って言っているけど、「本当にセカンドチャンスってあるんでしたっけ?」というようなことです。
僕が人事本部長になったときに社員に聞いたんです。その時は、たくさんの社員が「ない」と言うんですよ。「セカンドチャンスなんて無い会社じゃないですか」と。僕はこれがすごく悔しくて。「いや、しっかりとやるから」と言うわけですよ。「でも、そんな事例無いじゃないですか」と言われると、それはもうその通りなんです。