アント・キャピタル・パートナーズ株式会社 代表取締役社長 飯沼良介氏(1/2ページ) - Widge Media

アント・キャピタル・パートナーズ株式会社 代表取締役社長 飯沼良介氏(1/2ページ)

記事紹介

投資家の立場から見た理想のCFO像や、CFOと管理部長の違いなど、「投資家からみるCFOの在り方」というテーマで、様々な見解をお話しいただく専門特集。
アント・キャピタル・パートナーズ株式会社 代表取締役社長 飯沼良介氏
に、日々の活動の中で感じる率直な思いを伺った。

※インタビュアー/株式会社Widge 代表取締役 柳橋貴之

まずは御社の特徴、投資方針について教えて下さい。

「気骨のハンズオン」と言われていますが、我々自身が中に入り、細かなデイリーワークから一緒に担っていくスタイルを取っています。弊社では「アントという主語は使わない」というハンズオンの掟があります。アントという主語を使った瞬間にアントの立場で物事を言うことになってしまいます。投資先であっても「御社は」という呼称は絶対にせず「弊社は」ということになります。「株主目線で話をしない」ということを徹底していますね。

 日本では終身雇用の影響で、優秀な方が転職をせず、そのまま会社に居続けるという構造が根強いため、なかなかプロフェッショナル経営者が流動化していません。そのため、消去法として、外部を招聘せずに自分たちがハンズオンでEBITDAを改善しているということです。だいたい投資先の3分の1の会社で、我々が代表を務めています。

もう一つはDXでしょうか。インハウスでAI・DXの専門チームがあるのも弊社の特徴かと思います。

よく「AIやDXに詳しいエンジニアがいれば会社は大きく変わる」と勘違いされるのですが、それは違います。そもそものビジネスの転換であったり発想をするということがとても大事なことなので。そしてそれを構築するのがエンジニアですよね。「DX人材がいれば…」のような話をされるケースもありますけど、少し違うなと感じてしまいます。

専門チームというのは稀有ですね。

たとえば、投資先に、高級腕時計の買取・販売事業の会社があるのですが、それまでアナログな商売をしていたところに、我々が入って、アプリを作ったんです。

アプリですか。

はい。もともといくつか課題があったのですが、一つは同社を知っているお客様しか売りに来てくれないということです。それと大きかったのは、在庫負担と、借り入れの問題です。

まず在庫を抱えるために、銀行から借り入れをするのですが、そもそも時計は流動資産なので担保にはできず、銀行は貸したがらないんです。買い取り業者にとって借り入れができる・できないというのは非常に大きなことなんですよね。

そこで、その時計の相場が分かり、簡単にマッチングができるアプリを作ったんです。アプリ内でマッチングできるので、在庫を抱える必要もなくなるわけです。Peer to PeerかつCtoCですので、買い取る資金が不要になりますよね。さらに言うと、潜在的なTAMも取りにいくことができるようになるので、大きく変わりました。

面白いですね。

アント・キャピタル・パートナーズ株式会社 代表取締役社長 飯沼良介氏

借り入れも、もともと30億円が限界だったところを、我々が入ってから50億円に変えました。それだけで売上が100億円から200億円に伸びるんですよ。EBITDAも8億円から20億円です。

素晴らしいですね。

こういうことは、単にエンジニアがいるだけでは実現できません。もともとの発想が大事なので。

私はよく、ITとDXは違うと言っています。ITはシステムを作ることで、DXは(デジタルトランスフォーメーションですから)ビジネス自体を変えることができるわけです。リアルビジネスがプラットフォームビジネスになり、その延長でバリュエーションが大きく変わるわけです。

確かに。

さらに言うと、従業員は自分の会社がこんなに変わるのだと感じてワクワクしますよね。仕事が楽しくなるのです。これが私の言うDXです。

面白いですね。投資先に対して、特に意識されていることは、何なのでしょうか?

 「人」ですね。

「人」ですか。

プライベート・エクイティ協会の会長として、経産省や財務省、金融庁といろいろなディスカッションをするのですが、「予算を用意して補助金を出せば企業は成長すると思っていらっしゃいますが、勘違いしないでください。」とよく言っています。「企業の一丁目一番地は人なんです。」と。

「企業の一丁目一番地は人だ」というメッセージは、様々な会合や会議でも発言しているので議事録にも残っているかもしれません(笑)。人がいないと、そもそも予算を何に振り分けたら良いのかも分かりません。ですから、しっかりと実行することできる人が必要なのです。

おっしゃる通りですね。特にどういった方が必要だとお考えでしょうか?

まさにCFOです。

 CFOですか。

我々が求める人には二つのタイプがあって、一つはビジョンをしっかり描く人、もう一つはビジョンがしっかり実行されているか管理をする人。この「管理できる人=CFO」だと私は思っています。

描いたビジョンをどのように構築し、中長期的に数字(予算)としてどう形づくっていくかを考えるわけです。現時点と、これからどうしたら良いかということを、しっかりと考えられるのがCFOだと思いますね。

まさにそうかもしれないですね。

まだまだ日本には少ないですよね。このような人がもっと世に出てくれば、企業はものすごく活性化すると思います。

ビジョンを描く優秀な人はいますが、それをサポートできるCFO的な立場の人は本当に少ない。一社に留まることなく外に出てきてくれれば、企業の活性化、企業価値向上にすべて紐づいてくると思います。

CFOの重要さということが強く伝わってきます。

CFOは本当に重要です。本当に優秀なCFOであれば、その後CEOになれるんです。

 私もよく「柳橋さんが思うCFOって、どういう方が理想なんですか?」と聞かれるのですが、まさに「CEOができる方だと思います」と答えています。

まさに。それこそ「CFOのあって欲しい姿」ですよね。単なる実務家だけではなく、マネジメントもできるようなCFOがいると、ファンドとしても大変有難いです。

「なかなかCFOの担い手がいない」とのお話でしたが、御社の方が代わりを担っていらっしゃるケースが多いのでしょうか。

多いです。ただ、社内の方を育てるということもやっているので、例えば、経理部長からCFOに変わっていくこともあります。むしろそれを望んでいるかもしれません。中から引き上げていくのが理想形ですからね。

事業承継でトップがいなくなる場合でも、一旦我々が入りますが、現場で教育して、1年後、2年後に代わってもらえるというのが、最もきれいですよね。

CEOに育てていくことと、CFOに育てていくことでは、やはり使う筋肉は違いますか。

違いますね。

社員の方をCFOに育てていくにあたって、大切にされていることはありますか。

当然ながらまずは会計ですよね。数字に強くなっていただき、数字にある裏側を理解できるようになっていただく。経営指標をどう分析し、各部門に指示ができるか。

また、「これができていないからこうしよう」など、コミュニケーション能力も必要です。「なぜできないの?」と言うだけでは改善されません。現場と一緒に考え、同じ目線でディスカッションができる。これがCFOのあるべき姿です。そうなっていただけるように我々がコーチングをしていきます。

社内を見渡した際に、適性、ポテンシャルがある方かどうかは感覚で分かるものですか。

分かります。やはりセンスがあるんですよね。勘どころがあって、問題意識を持っています。今までは聞いてももらえなかったことを我々がしっかりと聞く。実は正しかったんだと認められるので、本人としても嬉しいですよね。私たちのコーチングは、やる気をどれだけ起こすかなので、仕事が楽しいと思ってもらえるかどうか、やりがいを持ってもらえるかどうかということを、非常に大切にしています。

会社は人と人との和なので、やりがいを持って楽しく仕事をしている人が多ければ多いほど、会社は活性化し、売上・利益も上がり、最終的には企業価値向上に繋がります。

これが我々の言う「ハンズオン」なのです。

まさに「気骨のハンズオン」ですね。

まず投資先へ入ると、幹部社員とは必ず1対1で面談をします。現在の仕事の課題、会社全体の課題など、好きなように全部話してくださいと伝えます。例えば、トイレがどうこう、以前あった社員旅行が無くなったなど、クレームも含めていろいろとあります。全てヒアリングして社長など経営陣とシェアをし、プライオリティをつけ、これはモチベーションのために復活しようなどという形で決めていきます。中には「今の組織は縦割りでコミュニケーションが取れていないからおかしい」という意見をもらい、その方に理想の組織図を提案いただき、実際に改善したケースもあります。

改革のスイッチが入ってくるわけですね。

私が担当する投資先では必ず新規プロジェクトを立ち上げるのですが、年齢・役職不問で公募すると結構人が集まります。「既存ビジネスをどう発展させるか、新しいビジネスでも良いし、何かを考えるということを一緒にやりましょう」と。

盛り上がりそうですね。

なにか「楽しいことができる」という空気感から、組織が活性化し、先程お話したような時計のアプリが生まれるわけです。組織的な経営に変えていきますから、誰でも発言に関しては平等です。

そして、全てにおいてデータに重きを置きます。精緻化されたデータに基づき、我々がロジカルな経営に変えていきます。若い方でもロジカルで良いアイデアがあれば取締役会でその方に発表していただきますし、そうしたことを通じて風通しが良く、フラットな会社組織になっていきます。

なるほど。良い方向に大きく変わっていくのですね。

それまでは、上から「やれ」と言われたことだけをやれば良かった風土を、ガラッと変えていきます。「やりたいことをやりましょう」「考えましょう」と。「何をしたら良いのか分からないので、ふわっとした感じでして…」ということもよく言われます。

「それで良いんです。何をしたら商品の売上が上がるのか、もっとお客様に喜んでもらえるサービスは無いのか、いろいろと考えましょう」と。

会社を自分ごととして考えてこなかった方々が、積極的に考え始める。こうして改革が始まっていくのですね。

まさにその通りです。徹底的に入っていきますので。

他にも、ある投資先では、サービス工場の社員全員と面談をしたときに「うちの工場の外の花壇を見てください。雑草だらけで花一つ育っていません。目の前のバス停で待つ人は皆この花壇汚いな…と思っていますよ。」と言ってきたんです。「抜けば良いのでは?」と言うと、「いまは忙しいのでそんな時間は取れないです」と。なので、当時担当していた他のアントのメンバーと3人で、週末に3時間かけて全部きれいに抜いたんですよ(笑)。

飯沼さんたち自らですか?!

はい。「恐れ入りました」と言っていましたね(笑)。でも、それ以降しっかりとメンテナンスしてくれています。Exitしてだいぶ経ちますが、いまだにお付き合いがあるんですよ。後日談ですが、その社員の方が久しぶりに「飯沼(元)社長と会うよ」と奥様に話したら「あの草取りしてくれた社長さんだね」と覚えていてくれていたそうです(笑)。

とても濃い関係性になっていくわけですね。素晴らしいです。

単に投資をして予実云々の話をするわけではないんです。

やはり、人それぞれ、行動にスイッチが入るには何かしらの所以がありますよね。

そのスイッチを入れられるかどうかが我々の本当の腕の見せ所です。Exitして、CEO、COO、CFO等に引き継いだ後も、もっと自社で働きたいと思えるような会社にしていっていただきたいわけです。そのようなリーダーシップやコミュニケーション能力を持った方がいれば、我々は何もしなくて良いのですが、当然PMIも慣れていませんし、日本の場合はどうしても「買った側」「買われた側」という印象が強くなってしまいますよね。

そうですね。

「買われた」「買われてしまった」ではなく、「欲しかった」のです。どうしても我々の会社が欲しかったんだと思わないといけないはずです。

さらには、「こちらが買った側だ」と、買った立場という印象を強く出してしまうと、PMIは失敗します。株式だけ見るとそうなるものの、同じ会社の同じグループの一つ、同じ立場であるという意識が大切ですよね。そういう思いで進めていくと、最終的には平和な会社になります。我々もそうなるようにコーチングしています。

素敵な話ですね。話題は変わりますが、「理想のCFO」についてお話を伺えたらと思います。こういうCFOがいたら助かるというイメージはありますか。

分析能力に長けている。そしてコミュニケーション能力が高い。この二つに尽きると思います。

決算云々は当然として、その上で、そのデータが何を意味しているのか、数字をパッと見た瞬間に分かると良いですよね。

また、ここのコストが上がっていると要注意だということになれば、すぐに現場ともディスカッションができるコミュニケーション力。

どうしたらこのコストは抑えられるだろうか、利益率が上がってきたところをもっと伸ばすにはどうしたらいいだろうかなど、単に数字を把握してそれを伝えだけではなく、その数字の裏側にあることまで伝えられる人、これが理想のCFOだと思います。