カーライル 日本共同代表・パートナー 小倉淳平氏(1/2ページ)

投資家の立場から見た理想のCFO像や、CFOと管理部長の違いなど、「投資家からみるCFOの在り方」というテーマで、様々な見解をお話しいただく専門特集。
カーライル 日本共同代表・パートナー 小倉淳平氏に、日々の活動の中で感じる率直な思いを伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 代表取締役 柳橋貴之
まずは御社の特徴、投資方針について教えて下さい。
当社は、グローバルファンドの中ではいち早く日本市場に参入しました。当時はプライベート・エクイティという言葉自体の認知もまだ低い中で活動をスタートしています。
その後、何度かブームがありましたが、他のグローバルファンドでも、カーライルが2000年に日本オフィスを構えてから5〜6年後に日本市場へ参入しているほどです。そういう意味では、認知がほとんどない時代から私たちは活動してきました。その中で、「こういう投資スタイルでいこう」という考え方をいくつか定めたのですが、それは今も変わることなく大切にしています。
その一つが、経営陣とのアライメントを非常に大切にしていることです。経営者や株主としっかり対話を重ね、会社の持続的な成長に向けて伴走していく姿勢を重視しています。この考え方は、今でも脈々と受け継がれています。
もう一つこだわっているのが、トップラインの成長を伴う企業価値の向上です。もちろんコスト改善にも取り組みますが、それ以上に、生み出した利益や改善したマージンをどう再投資し、成長のサイクルをつくっていくかということを真剣に考えています。
トップラインにしっかりと主軸を置かれているということですか。
そうですね。昔からトップラインの成長を重視してきました。足元でも、競争環境が激しくなるなかで、単に投資機会を見極めるだけでなく、投資後にどのように事業を成長させ、企業価値を高めていくかということが、リターンを生み出すうえでこれまで以上に重要になってきています。
だからこそ、昔から一貫して取り組んできたトップライン成長を突き詰めるアプローチこそが、今では私たちの大きな強みになっていると思います。

カーライル 日本共同代表・パートナー 小倉淳平氏
企業価値を高めていくために御社が主に行うアプローチ、御社ならではの特徴があれば教えてください。
全案件を同じ型に当てはめるのではなく、それぞれの会社の事業環境や成長ステージ、経営課題に応じてテーラーメイドで価値創造の方針を考えています。それぞれの事業が置かれている状況をしっかり精査したうえで、どうすれば価値を向上させられるのかということです。案件ごとに、一つひとつ手作りで進めているという感覚ですね。
御社は、ご担当の方が案件の入口から出口まで一貫して伴走されるのが特徴だと伺っています。その点について、何かこだわりはありますか。
あります。若手も含めて、当社に入社してくれるメンバーは、案件のソーシングからバリュークリエーション、そしてイグジットまで、一気通貫で一連の流れを経験できることに非常に魅力を感じて入社してくれています。
また、ご一緒する経営陣にとっても、すべてのプロセスを経験したプロフェッショナルが一貫して説明し、伴走できるというのは、大きな安心感につながると思っています。これは、私たちが大切にしているプロセスの一つですね。
コンパクトな規模のPEさんに比べると、御社は比較的縦割りの組織というイメージを持たれている方も多いと思います。
私たち自身は、縦割りという認識は全くありません。むしろ、親しくしている証券会社や投資銀行の方々からは、「カーライルさんはチームの仲が良いですよね」と言われることがよくあります。セクターや担当を超えて知見を共有し、チームとして案件に向き合っているという点を外部のアドバイザーからも評価いただいているのだと思います。
協調性・組織力ということですね。
そうです。いくつかありますが、例えば案件の相談を受けて、「こういう企業にアプローチしてみてはどうですか」といった話になったときでも、「これは私の案件です」と囲い込むようなことはありません。それよりも、「この業界に一番詳しいのは誰か」という視点で、その担当チームに相談したり、案件を引き継いだりします。そういう意味では、ファーム全体で一丸となって案件に取り組んでいるという感覚があります。

御社は時代の変化に合わせて、カルチャーや組織も進化させてこられた印象があります。
たしかに、それはあるかもしれません。
組織づくりにおいて、小倉さんが特に意識されてきたことがあれば教えてください。
多くは投資先の経営から学んできたことなんですよね。さまざまな企業を一緒に成長させていると、「こういう要素があると、会社は自立し、自走しながら成長するフェーズに入るんだな」ということが多くあります。私たちは投資先に対して、「こうしたほうが良いのではないでしょうか」とご提案する立場でもあります。だからこそ、自分たちにも積極的に取り入れられるものは取り入れていこうという感覚を持っています。そういう意味では、私自身も日々、学びながら取り組んでいるということです。
たとえば、過去と比べて「ここは大きく変わった」と感じる点を挙げるとすると、どんなところでしょうか。
オープンコミュニケーションと、サイコロジカルセーフティ、いわゆる心理的安全性でしょうか。自分の意見を持っているときに、それをオープンに発言できる環境があることは、とても大切だと思っています。
もちろん、その意見に対して異なる考えを持つ人もいます。ただ、その人自身を否定するのではなく、改善すべきところは改善していく。そういう発言が許容される環境になってきたと思います。そうした土台は、ある程度つくることができたのではないかと感じています。
小倉さんご自身も、その変遷を体現されてきたお一人だと思いますが、やはり以前と比べると、よりオープンな社風になってきたという実感はおありなのですね。
私も入社して20年になりますので(笑)。20年前と今を比べると、やはり変わってきたと感じます。
一つは、市場環境の変化が非常に激しいということです。そうした環境の中では、正しい判断を適切なタイミングで下すことが、投資家として極めて重要になります。その判断ができる環境というのは、組織づくりにも大きく関わっていると思うんです。ですから、単にオープンコミュニケーションを促すとか、権限を委譲するだけでは成り立ちません。私たちの中では「カーライル・スタンダード」という言葉をよく使うのですが、そのスタンダードとは何かをチーム全体で共有していることが非常に大切です。
加えて、アライメントですね。この場面では何を期待されているのか、自分は何を期待しているのか。その認識がしっかり揃っていることが重要です。そうした共通認識が前提にあると、組織は迅速に動き、実行力も高まると感じています。
御社は一人ひとりの個も強い。その個が、組織としてチームとして機能しているというのは、大きな強みですね。
そうですね。まだまだできることはあると思っています。

ここからは少し視点を変えて、投資家の目線についてお伺いします。企業価値を高める経営体制という観点で、小倉さんが考える理想的な経営体制やCxOのあり方について、お考えをお聞かせいただけますか。
当社にも、バリューアップの支援を行う組織として、グローバル・ポートフォリオ・ソリューションズというチームがあるのですが、実際に実行するのは、やはり投資先企業の役職員の方々です。ここには強いこだわりがあります。私たちは投資期間が定められている有限の資本ですので、いずれは次の株主へバトンを渡すことになります。そのことを考えると、必要な人材や機能は、会社自身がしっかり持っていることが重要です。その際には、カーライルのブランドやネットワークも活用しながら、最適な人材をご紹介し、一緒に選んでいくということを行っています。
その中で最も重視しているのは、まず戦略があることです。その戦略を実行するために、どのような組織体制をつくるべきかという順番で考えています。だからこそ、CxOの布陣も戦略から逆算して決めていきます。
戦略から逆算してCxOを決めていくということなのですね。
例えば、CHROにどこまで権限を持たせるかは、その会社のカルチャーや事業戦略によって変わってきます。場合によっては、「CTrO(Chief Transformation Officer)」のような役割を置き、変革をドライブしてもらうこともあります。
一方で、変革そのものよりも、既存のプロダクトやサービスをどう戦略的に伸ばしていくかが重要な局面であれば、トランスフォーメーションではなく、ストラテジーに強い人材を求めることもあります。つまり、先に戦略があり、その戦略を実現するために必要な人材を考えるということです。
その人材は社内から登用することもありますし、必要に応じて外部から招聘することもあります。いずれの場合も、常に戦略を起点に考えています。
社内登用と外部からの招聘では、ご経験上、どちらのケースが多いのでしょうか。
ポジションにもよりますが、全体で見ると半々くらいだと思います。CxOを一人も追加せず、すべて社内から登用する案件もありますし、一部のファンクションだけ外部から採用するケースもあります。逆に、大幅に入れ替えるケースもあります。

社内から登用する場合、経営陣がこれまで気づいていなかった方を、御社が見出して推薦されるようなケースもあるのでしょうか。それとも、もともと候補になっていた方を登用するケースが多いのでしょうか。
さまざまなケースがあります。例えばオーナー企業であれば、「将来的にはこの人に経営を引き継いでほしい」という話をオーナーからいただいて、最初の1年半ほどかけて見定めていくことがあります。一方で、外部にはどのような人材がいるのかということも、オーナーと一緒に面談を行いながら比較検討し、トランジション(経営体制の移行)を進めていくケースもあります。本当にケースバイケースですね。
ありがとうございます。先ほど「CHRO」という役割が最初に挙がったのが印象的でした。HRは本当に難しい領域だと思いますし、人事部長とCHROも求められる役割は大きく違いますよね。小倉さんは、「CHRO」という役割をどのように定義づけていらっしゃいますか。
実は、私自身もまだ答えを探しているところです。本来であれば、タレントマネジメントまで担ってほしいと思っています。一方、人事というのは本当に難しいですよね。例えば、長い歴史のある会社では、これまでの試行錯誤の積み重ねによって、組織体制や給与制度、カルチャーなどが形づくられています。人事制度全体がそうした積み重ねの上に成り立っていますし、昇進基準なども含めて、一つの仕組みとして機能しています。だからこそ、それを変えていくには、かなり大きなエネルギーが必要なのだと思います。
CHROにおいて重視するポイントは何でしょうか。
やはりCEOとの相性は、このポジションでは非常に重要だと思います。もちろん、どのポジションでもCEOとの相性は大切ですが、CHROはよりソフトな部分での相性が求められる役割だと思います。CFOは専門性やケイパビリティが重視される場面も多いですが、CHROはそれ以上に定量化しにくい部分が重要になってきます。
私もそう感じます。国内の様々な会社を見ていると、たとえば一昔前は、管理部長がそのままCFOを兼ねているケースも多かったですが、最近では明確に役割を分けている会社が増えました。CHROも同じで、人事部長とCHROは違うという認識は広がってきたものの、「では、どんな人がCHROにふさわしいのか」という答えは、まだ各社とも模索している印象があります。私としては、会社を「支えていく」立場と、会社を「高めていく」立場の違いという気がしていて、どちらがというよりも、それぞれ会社にとっては必要な役割だと思っています。
まさに。CFOと管理部長の違いと似ているかもしれないですね。
