【インタビュー】渡邉淳氏 - 家族・友人との信頼関係、知識、健康…「見えない資産」を大切に(3/6ページ)
高専から新卒で富士通株式会社のエンジニアへ。その後、公認会計士へキャリアチェンジをし、青山監査法人(現PwCあらた監査法人)へ入所。野村證券株式会社(引受審査部門)、株式会社ラルクを経て、株式会社エラン・取締役CFOとして東証マザーズへのIPOならびに東証一部への市場変更を牽引。監査法人・証券会社・IPOコンサル・事業会社(IPO準備から東証一部)と、様々な角度で経験を積まれてきた同氏のキャリアストーリーと、その後について伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge利根沙和
クライアントは、どのようなフェーズ感の会社が多かったのですか?
いろいろなケースがありましたが、上場の1年前くらいが多かったですかね。証券会社の審査が近づいているけど審査のための準備が遅れているのを挽回するために支援してほしいというような依頼です。業績面は順調なんだけど上場準備は上手くいってない。いまからしっかり立て直せばIPOできるんじゃないか、みたいな会社とか。
そういった会社さんの依頼が証券会社から入るのですね。
そうですね。ラルクのそれまでの先輩方であったり、社長が築いてきていた実績が信頼を得ていたのだと思います。仮に私が個人で独立したとしても、すぐに簡単に依頼をいただけないじゃないですか。先輩方から繋いでいただいたチャンスをしっかりと実現させていくことで、ある程度経験を積んでからは、大手証券会社や監査法人などから直接「渡邉さんにやってほしいんだけど……」とご指名をいただけるようになりました。
信頼されていると思うと、とても嬉しかったですね。
だんだんと個人への信頼を得ていったのですね。
ありがたい話です。ラルクではIPO支援や市場変更支援を専門に、8年ほど携わりました。多くの会社を担当することができましたので、かなりの経験値はたまったと思います。
支援先がIPOや市場変更を果たした時に、東証のセレモニー会場で一緒にお祝いするのは、やはり格別な経験でした。
監査法人・証券会社・IPOコンサルタントとIPO支援周辺に特化していらっしゃいますが、IPO周りにご興味がずっと続いた理由みたいなものがもしあったらお聞かせいただけますか?
会計士のキャリアは、監査以外にもいろいろありますよね。IPOのほかにもM&A関連や事業承継などですよね。その中で自分が合うなと思ったのがIPOだったんです。
IPOは、最終的に誰かが損をする、嫌な思いをするということもなく、勝ち敗けの世界でもなく、みんな良かったねとなる、かなり珍しいプロジェクトだと思うんです。
なるほど。言われてみると確かにそうですね。
経営者やその会社で働く人はもちろんですし、監査法人もクライアントが上場したら嬉しい。証券会社もその会社が上場会社になることでビジネスになるので嬉しい。株主だって投資家としても喜ぶわけですよね。かなり前向きというか、みんながハッピーになるっていうのが良いなと。
しかも、その達成していく過程には様々な魅力があって、「これは面白い領域だな」と、監査法人にいた時から思っていました。
監査法人時代からそこに思いがあったということなのですね。
そうですね。ただ同時に、なかなか上手くいっていないといいますか、苦労をしている会社を多く見ていたのも事実です。野村證券にいた時に気付いたのは、審査に落ちた会社を見ると、もう少し外部からうまく指導していれば、こんなふうに落ちなかったんじゃないかという会社もたくさんあったんです。そのような会社をもし救うことができたら、本当に喜ばれるなと思ったんです。それを自分ができるんだったら面白そうだと思っていました。
ご自身のその思いは、ラルクさんでの8年間で達成できましたか?
まだまだな部分もたくさんありましたが、とてもありがたいお言葉をいただけることもありましたので、私なりにやれることはできたのではないかと思っています。
「渡邉さんが飛び込んで手伝ってくれていなかったら、あのタイミングでのうちの上場はなかったよ。」みたいなことを真顔で言ってくださる会社さんも何社かありましたので。それが答えかなと。
そのうちの一社に、後にCFOとして就任されるエランさんも入るのでしょうか?
そうですね。エランとは同社が上場準備を始めた瞬間からのお付き合いで、当初はコンサルタントとして外から支援をしていました。まだ主幹事証券会社をどこにするかということも決めていなくて、数年後に上場会社になるとは想像もできないような田舎の中小企業でした。
IPOコンサルタントとしてご活躍なさる中で、CFO職としてどこかの事業会社にというお気持ちはもともとお持ちだったのですか?
CFOをやることは全く考えていなかったですね。転職する時に数人の知人からは「本当はどこか行きたいところを探していたんでしょう?」と言われましたが、それまで全然そんな気はありませんでした。
ラルクさんを退職するということも考えていなかった?
考えていなかったですね。やりがいのある仕事ができるとても良い環境に身を置かせていただいていたので。ラルクを辞めることは、これまで自分がコツコツ努力して積み上げてきたものを捨てることになるんじゃないかと思いました。やっと私個人への指名でお仕事をいただけるようになってきたということもありました。それまではこういった類のお誘いがあってもお断りしていました。