早稲田大学ビジネススクール教授 平野正雄氏(2/3ページ)

投資家・コンサルタントの立場から見た理想のCFO像など、様々な見解をお話し頂く専門特集。
マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、カーライル・ジャパン共同代表を経て、現在、早稲田大学ビジネススクール教授を務める平野正雄氏に、これまでの経験の中で感じる率直な思いを伺った。
※インタビュアー/株式会社Widge 代表取締役 柳橋貴之
これまで多くの企業を見てこられた平野さんに、是非「CxO」に対するお考えをお伺いできたら嬉しいです。
CxOというと、CEO、COO、CFO、CHRO…などといろんなC職がありますが、そもそもCxOは会社法上で既定された役割ではないため、どういう権限、責任範囲があるのかということは各会社で決めれることです。法律上の規定はありません。会長でCEOの会社もあれば、社長がCEOの会社もあると思いますし、COOがいない会社もいますし、任意で決めるものです。一般的にはCEOは社長だと思われがちですが、社長は社長で当然いるわけです。
確かにそうですね。
ちなみに、ソニーが日本で初めて導入した「執行役員」制度も重要ですよね。
コーポレートガバナンス論の中において、ボードの役員はエグゼキューション、つまりエグゼキュティブとは別の形だという認識がその頃から徐々に理解が進んでいったわけで、商法上も役員ということになります。
それまで社内で上位の方々は、社長人事で社員の方を取締役にするというのが常でした。取締役会と執行が分離されていなかったわけです。当時のガバナンスの議論で非常に重要だったのは、「所有と執行の分離」をやろうということでした。役員は、株主つまり所有者の立場から執行側を監督することになりますので、執行者によってのみ役員会を構成することはむしろ矛盾、コンフリクトを起こすわけです。しかしながら、役員になることを目標としてやってこられた方も多いということで、モチベーションと責任の明確化という観点から生み出されたのが「執行役員」というコンセプトでした。
そういうことだったのですね。
執行役員の制度は厳密な法体系や商法の議論などから出てきたものではありません。処遇の観点から出てきたものです。CxOもそうです。会社ごとに役割を決めて運用していくということです。

その役割がだいぶ分散されてきているような気もします。
株主総会でも取締役会マターでもなく、会社として決めれば良いわけなので、ややイージーに使われがちなところもありますよね。
ただ、コーポレートガバナンス論が普及するにつれて、そこにある含意というのは、やはり会社の主要な機能に対して責任者を明確にしていくこと。アカウンタビリティ、説明責任です。
アカウンタビリティですね。
責任を明確にしていくという意味においては、例えばオペレーションや事業の責任は誰が持つのかということを明確にしようとすればCOOなわけです。ファイナンスの責任を明確にするとなると、CFOということです。
それぞれの会社に応じて重要事項の責任体制を明確にしていくということで、「CxO」が使われるのです。したがって、そういう意識を持ってCxOをアサインし、役割を与え、権限や責任を明確にしていくということが大事なのです。なんとなく、人事部長だからCHRO、財務部長だからCFOといった一義的なものではなく、その認識が大事だと思います。
おっしゃる通りですね。CxOそれぞれに関する見解をもう少し詳しく伺えますか。
まず、社長あるいはCEOについて。企業の価値を7~8割方決めてしまうのは、やはりCEOの力量だと思いますよ。
大きいですね。
どういう経営判断をし、どういう発信力を持って組織を動機づけしたり方向づけをしたり、外部のステークホルダーとの良好な関係を作るか、支援を得られるかは、CEOの力量によるところが非常に大きいわけです。企業は、戦略的な方向性、的確な経営判断、社員、ステークホルダーの支援がかみ合うことによって価値が上がる。その中核的な役割を担うのは、やはりCEOです。

確かにそうですね。
ただし、CEOは全能の存在ではありません。そのCEOを補佐し全体的な企業価値向上を進めていくための「経営チーム」が大事なのです。そのチームの構成メンバーがCxOであるという考え方になるのだと思います。
チームということですね。
リーダーは存在しているし、最終的に経営チームの責任者、意思決定者としてはCEOです。しかしながら、チームという言葉を使うのは、それぞれ明確に専門領域を持ち、コミットをしたメンバーがいて、彼らが協力し合って会社全体の価値を高めていく。この「協力し合う」ということがすごく大切なのです。
チームが一枚岩になっているかどうかですよね。
チーム全体として、この難局を乗り切るとか、成長を加速していくためにはどうすれば良いのか、フラットにアイデアを出し、それぞれが役割を分担して進めていくのがチームです。そのことが大事で、そういうチームが組成できるかどうかは経営者の力量になるということです。